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変化にしおりをはさみました!
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変化
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side五條
兵藤が帰ってから思い返していた。
突然力を失ったあの日。
俺はいつも通り不良達に絡まれたので、いつも通りぶっ倒して行くはずだった。4人位倒した所ですぐに異変を感じた。
拳からスッと力が抜けていった気がした。何故か分からないまま5人目を殴った時、手ごたえがなかった。確実に急所に痛みを響かせたという手ごたえが。その時は俺も殴られた相手も驚いて数秒間顔を見合わせたさ。
「「え?」」って。
そこからが地獄の日々の始まりで、6人目、7人目と殴れば殴るほどどんどん手ごたえがなくなっていく。不良達もいきなり「手加減」を始めた俺に意味が分からない様子だった。そして攻撃が防げなくなる。何処に蹴りが飛んでくるとか、どれくらいの速さで何処を殴ってくるとか頭では分かっているのに体が反応しない。
そんなはずは無いのに考えてから1秒みたいに長い時間が経ってから指先が動く。恐ろしく長い1秒間はどう考えても命取りだった。
ワンテンポ遅れて動く俺に急に元気を取り戻した不良達はどんどん追い詰めていく。これ以上は駄目だと判断した脳が柄にもなく危険信号を点滅させて、あの日俺は逃げた。生まれて初めて負けた。何度考えても一体何が原因か分からない。その前を振りかえっても心当たりは無い。
訳が分からなくて混乱した。壁に八つ当たりして、色んな物を殴った。殴ったらもの凄く痛かった。今まで感じたことのない痛みだった。そして、冷めた頭で漸く理解した。自分は弱くなってしまったのだと。
それから兵藤に頼って、護ってもらって俺の中の何かが急変した。まるで黒が白に塗りつぶされるみたいに。
ずっと張っていた境界線が溶けていくようだった。前より少し長く話すようになって、少し多く冗談を言うようになって、少し一緒にいる時間が増えた。
この変化は何でかとても心地よくて、この時間と変化を誰かに妨害されたら酷く嫉妬した。誰かよりも早くこの関係を深めたい、俺がそうしてるみたいに兵藤にも俺を頼ってほしい。
最近はそれをずっと強く欲していた。だからあいつが知らない間に襲われて怪我をして、それも俺に黙ってたと知って結構傷ついた。嫌だった。俺が作った問題なのにまるで他人事のように隠されるのが。兵藤を傷つけていく奴が憎かった。不甲斐ない自分が、間接的に自分が傷つけているという事が、俺が護れなかったって事が嫌で嫌で堪らなかった。
このまま離れていくのが不安になって、頼れよ!って言ったらあいつは俺が一番好きな笑い方で笑った。「ありがとう」と。その笑顔を見て「親友」という境界線が俺の中で揺れた。いつか思った、自転車を漕ぐ兵藤の背中を見ながら「親友」になりたいと、護りたいと。そして悩んだ。
(…二度と喧嘩するなって忠告された)
ああ、そんな苦しい顔で笑うなよ。
(俺は、お前に余計な心配、かけたくなかった…)
かけろよ。心配させてくれよ、頼ってくれよ。他人行儀みたいなのはやめようぜ。
もっとお前に触れたいよ、護らせてくれよ。俺にだって、できることはある。
天井に手を伸ばしたら、腕は痛まなかった。ベッドに寝転びながら何も無い空を掴む。そのまま力を込めて拳を握っても痛みは無い。逆に言えば力が入った感覚が無かった。
「…兵藤、」
また強くなれたら、今までお前を傷つけてきた奴らを叩き潰すなんて造作もないんだぜ。俺の力が戻ったら、誰もお前に指一本触れさせないようにする事なんて簡単にできるんだ。…簡単に。
もう一度名前を呼んだら、あいつの指を冗談半分で舐めたときの真っ赤な顔が脳裏に浮かんだ。林檎みたいに赤くなった頬が可愛かったなぁ…と一人声を漏らして笑ってしまう。再び感触を唇に思い出してなぞるように舌で追った。
早く力を取り戻すよ、お前の為に。
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