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テキーラ・サンライズにしおりをはさみました!
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テキーラ・サンライズ
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エントランスを抜けて冬の夜の下、歩いたお陰でスッカリ冷えた指先をポケットにしまいこんでエレベーター乗り込む。
チーンと軽い音を立てて開いたドアから足を一歩踏み出した時、角部屋にある俺の家の前に何か物陰が見えた。
それはドアにもたれかかって座り込む人で、歩いて行くに連れて段々と距離が縮まれば見えてきたその人物に今度こそ本気で心臓が止まるかと思った。
「……瑞生……?!」
何でここに居るんだって疑問よりも見るからに寒そうな格好をした瑞生がピクリとも動かない事に息が詰まる。
倒れて居ると思い駆け寄った時、閉ざされていた猫目がパチリと開いた。
「遅い」
「ッ、良かった……生きてた」
「は? 俺がぁ、死ぬとか思ってんのぉ〜?」
「……?」
近寄って見ればふわりとアルコールの匂いがする。
よくよく見れば目の焦点もどこか不安定で、酔っているのは一目瞭然だった。
「……とりあえず服貸すから部屋で待ってろ。 家まで車で送ってやるから、一旦立てるか?」
「うるさいなぁ」
こんな真冬の夜に薄いセーター1枚だけしか着てない瑞生の体は想像よりも冷たくて、触れた肌なんかは氷のように冷たい。
いつからここに居たらそんなに冷えるんだ。
俺がもしも月曜にBARを開いていない事を知っていたなら日付が変わる前から、ここに居たんだろうか。
「瑞生なんで来たんだよ」
一人呟いた言葉は扉の締まる音にかき消される。
嬉しいと思ってしまった。
待たせてこんなに寒い思いをさせた事を悔やむよりも先にまた瑞生が居ることが嬉しくて、瑞生の体に触れても手を払いのけられ無かったことに安堵して、また話を出来た事が嬉しくて手のひらが震える。
「ここで待ってろ。 お湯持ってくるからそれまで毛布かぶって楽にしてろよ」
「んー」
足取りの覚束無い瑞生を担いでソファの上へと優しく寝かせる。
暖房を入れて毛布をかけてやると目をつぶった瑞生が小さく返事を返した。
その姿を見て心配になりながらも暖かいお湯を沸かそうと背を向けた時、後ろに引っ張られた力に負けて崩れるようにソファへと体はバランスを崩す。
「ーーッ!」
「どこ行くんだよ」
「ッ、は……だからお湯沸かして来るから寝てろって」
「俺が良いって言ってないんらから動くなっ」
「……」
「ねぇ聞いてるの? バカガリ聞いてるのかってばぁ」
「聞いてるよ」
ソファに倒れ込んだ俺の上に瑞生も倒れ込んで来る。
グリグリと額を胸に擦り付けてふにゃふにゃした口調で怒る瑞生に心臓の辺りが痛いぐらい締め付けられる。
これ全部酔ってるからだなんて事分かってるのになぁ……それでも、嬉しいんだ。
許して貰えてねーのも普通に戻ればきっとまた冷たい目で見られることも分かってるのに、いつもみたいに抱きしめたいと思っていても手のひらは力無くソファの上へと置かれたままだ。
「耀」
「……」
「久しぶりにセックスする?」
「は……?」
「俺さぁ溜まってんらよねぇー。 試験あったし忙しくて欲求不満だからセックスさせてあげてもいいよ」
「瑞生……ッ」
さっきまでのふわりとした痛みは急変してズキズキと激しくて冷たいものへと変わる。
昔のようにまた誰彼構わず歩き回っているのか?
乗り上げたまま挑発的に見下ろしてくる瑞生の言葉に痛みは増すばかりで、どうしようもなく後悔した。
「……降りてくれ」
「は?」
「……しない。 瑞生とはしねぇ。 だから降りてくれ」
「なんで? あーもしかして他に女とか出来たんだぁ?」
「……」
「だって耀さんチャラいもんね〜」
「瑞生……退け」
「俺が居なくなってせいぜいしたんでしょ? ラッキーて思った? 何かそれすごいムカつく」
「瑞生」
「耀さんだけいい思いして本当ムカつくんだけど俺のこと好きじゃーー」
「瑞生ッ!!!」
「ーーッ」
「俺のことが嫌いなのは分かったから。 だから尚更辞めろ。 嫌いなやつと寝ようとなんかするんじゃねぇよ…… 」
「……」
ビクッ、と肩を震わせた瑞生が口を閉じる。
あんまりにも耐えられなかった。
好きだ。今も好きだ。変わらない。
他の誰かなんて作ってもいない。
でもそれさえ信じてもらえないような事をした事実が言葉を奪う。
瑞生に今も伝えたい言葉。、俺自身がした行為が言葉を奪って行く。
「……送ってやるから」
「……」
「もうココに来るなよ」
「……ッ」
「分かったか瑞生」
「耀さ……」
「……?」
「き」
「え?」
「ぎもち悪いッ」
「ッ?!」
熱っぽい瞳を向けたままユラユラと体を揺らしていた瑞生が口元を抑えてソファから降りようとする。
けれど歩行感覚が鈍くなった瑞生の体はそのまま床に崩れ落ちて、それを呆気にとられて見ていた俺は訳が分からないまま瑞生を担ぐと慌ててトイレへ駆け込んだ。
「うっ、うぇッ」
「……お前……どんだけ飲んだんだ」
「うるさ……っ! う、ぇ」
「……」
「気持ち、悪いっ」
「吐いたら少し楽になるだろ」
「いや……っ」
「……でも吐かなきゃ辛いぞ」
「吐きたく、ないッ」
「喉まで出かかってんだろ?」
「うるさいな……っ、吐くの、嫌いなのっ」
「……はぁ」
なんつー空気の読めない流れだろうか……
さっきまでのシリアスな雰囲気は一転、慌ただしく便座にしがみついて座り込む瑞生の背中をトントンと叩く。
えづいては居ても吐くのに慣れて居ないのか寸前になって止める瑞生を見かねた俺は腕を捲ると、顎を掴んで小さな口に指を突っ込んだ。
「ーーッ?!」
「吐くの我慢すんな」
「ッエ、ひ……っや」
「汚していいから」
「耀ッ、さ……が汚れちゃうッ」
「いいから」
「ーーッう、えっ、ンエッ」
酒を扱ってる仕事なわけだし面倒を見るのは慣れているんだ。
吐かせるのも一回二回ではない。
慣れた手つきで瑞生を抑え込むと舌の上に指を滑らせる。
イヤイヤと首を振って逃げ回る瑞生の喉奥をググッと押した時、カタカタ震えた瑞生がやっと堪えていたモノを吐き出した。
「うえぇっ」
「……瑞生」
「だ、から……ッ」
「……なんで目の前に便器があんのに俺の上に吐くのよ」
「……ッ、嫌、がらせ。 ざまぁみろッ」
「……」
けれど吐いたのは見事に俺のズボンの上で、ざまぁみろと言っては居るけど瑞生も勿論のこと俺もトイレの床もすっかりとゲロまみれになった。
「耀さんがッ、無理矢理吐かせたからッ」
「……」
お前は餓鬼かって突っ込みたくなる気持ちを堪えて、床に散らばった汚れを片していく。
後でアルコールで拭かなきゃならねぇな。
そんなこと考えていた時、クイクイとシャツが引っ張られた。
「耀さん」
「なんだ?」
「お風呂」
「は?」
「お風呂入りたい」
「……はい」
本当に空気の読めないこと……
いろいろすっ飛ばしてやらかす瑞生に振り回されるまま言われた通りにお風呂へと瑞生を連れ出した。
本人は何を考えてるのか、寧ろ酒飲んで何も考えていないのかもしれない。
参ったな……この後の変わる冷たい態度にきっと物凄く落ち込むんだろう。
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