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作戦実行にしおりをはさみました!
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作戦実行
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ガラスというガラスが割れた元職員室。廊下にある電灯もカチ割られてるので辺りは薄暗い。おっかねぇなと思いつつ半開きになった部屋の戸を横にスライドしてみた。建てつけが悪くなりガタガタと重い音を立てて開いた扉の中、想像してたよりも荒れた部屋に俺は「うわ」と声を漏らしてしまう。
足元には散らばった書類やプリント、ガラスの破片、筆記用具、馬鹿共が散らかした煙草の吸殻と空き缶。白かった壁にはカラフルなスプレーで宜しくない単語がこれでもかと書かれていた。「魔楠・魔奇志真夢」という語呂合わせの漢字を見つけて鼻で笑う。
バリバリと破片を踏みながら目的の物を探す為に辺りを見回して奥へと進む。以前はちゃんと並べてあったのであろう乱雑に転がっている机の脚に膝をぶつけ、机面を見たら赤黒くなって埃のかぶった生々しい血痕が付着していた。
「ッわ、マジかよ」
転々と残った血痕は自分が今立っている床の上にまで落ちていて、そのまま蟻の行列でも追うように視線を這わせていったら背後にあった壁、そしてそこに固定されていた黒板に当時の衝撃を物語るように、ペンキのついた刷毛を振った跡のように血痕がほとばしっていた。スプラッタ映画の如く見事赤黒く染まっている。
当時こんな血が出るほど怪我をしていたのが一体誰だったのか、もうこの学校には居ないのか、まだ健在の先生なのか、いずれにせよこの量は明らかに致命傷だっただろ。
背筋に悪寒が走るのと同時に抑えきれない怒りが感情を支配して堪え切れず側に合った棚を蹴り飛ばした。
(ああ、決めた。絶対に決めた。俺は何が何でもここを統一する。単細胞で結構)
この部屋には俺しかいないのに「ふざけんなよッ」と辺りに言いつけながら散らかった周辺を探した。すると壁の一角に求めていた装置が固定されてるのを発見。
金属のカバーは半開きになっていたのでいとも簡単にボタンに触れる事が出来る。この装置に付いているボタンを押す事が俺の第一のミッションだ。
「非常時警報ベル」と書かれた下に、火災、震災等分類されその更に下にマイクが装着してある。俺は迷わずに火災用のスイッチを、入れた。
スイッチの上にあったランプが赤色に灯り一息置かずに天井にあるスピーカーと廊下からけたたましい警鈴の音がジリリリリと鳴り響く。「火事です、火事です」と音の悪いスピーカーから機械的な女性の声が火災を知らせる。
中学の時の避難訓練以来だな、とか思いながら煩いベルの音に両耳を塞いで廊下にでた。まだ人影は無い。
この警報ベルの目的は、単に不良共をビビらすためだけじゃない。まあこの程度であいつらがビビるはずがないが。非常ベルは俺と先生達との宣戦布告の合図だ。この合図で先生達は持ち場に付く。俺も、先陣を切りに行く。
職員室とは反対方向へゆっくりと歩きながら音を聞きつけて誰かが来るのを待った。都合良くどこのグループでもいいからチンピラが通りかかってくれればいいんだケド。
と、うろうろ歩きながら時間を潰す。もう何度目かの往復で火災を知らせる警鈴は既に鳴り止んでしまっていて、何分たったんだろうなと思った時。そして階段の前を通りかかった時だ。
丁度良く、獲物が現れた。
「オイ」
と、俺に声を掛けて階段からこちらへ向かってくる三人の不良共。それぞれ揃いもそろって目つきも格好も悪い。俺も人の事言えたモンじゃないですがね。
全員俺よりも頭一つ分ぐらい小さい。俺が大きすぎるだけでこの不良共の方が標準なんだろうが小さな優越感がふっ、と鼻をついた。
ぞろぞろと一定距離を保って俺の前へ並んだ男たちは体のあちらこちらに付いた無駄な装飾品をチャリチャリと揺らして且つ怖々言葉を投げかけてくる。
「御法、泉麓だなァ?」
二ヤリと口角が緩みそうになるのを必死で抑えて俺は不良共にガンを飛ばす。先生から言われているのだ…できるだけ悪い顔で、できるだけ低い声で、できるだけ悪く、悪そうに見えるように…。全力で顔面を顰めてから、唸るように鋭い八重歯をわざとらしく見せながら返事をしてやった。
「アァん?んだコルァ」
殺気満々の俺に不良共はウォッと一歩ずつ後ずさる。効果抜群じゃねぇか。俺演技派じゃん。出来るじゃん俺。
逃げ腰の男達の先頭に立っていた男がそれでも負けじと声を震わせた。
「お、俺達はマックスの、チーム紅龍のメンバーだ…、お前を勧誘しにきた。…入れよ、俺等んトコに」
マックスの中は色別に紅龍、青龍、黄龍と三つのチームが存在すると聞いていたがマジらしい。現に目の前にいるセンターの男のインナーは赤だし、両サイドの男の髪や装飾品にも赤い物がついている。成程なァ…とおもいながら俺は内心小躍りしていた。
一番最初に勧誘しに来たチームがマックスだからだ。そしてこいつらには申し訳無いが一番制圧し易いチーム。先生達の読み通り、作戦通りに事が進んでいる。だったら俺はシナリオ通りに動くだけ。
「俺を入れてどうする気だァ?入っても意味ねーモンじゃねぇのか」
「意味はあるッ!俺達マックスは近々ファービーとダンディーをぶっ潰して校内統一を狙ってる…俺等の中にテメェが入れば百人力だッ…」
「はァん…」
申し訳ねェが、校内統一を狙ってんのは「俺達」なんだ。
「言っておくが、俺は自分より弱ェ奴の下につく気はねぇぞ」
「何…だと?俺達マックスには上下関係は存在しねェ!だから最強だッ」
生憎皮肉、存在しねーから弱いんだよ。これ、泰華先生の受け売りね。
「あ?だから全員が全員弱いんじゃねェか。それとも全員俺より強いのかァ?あ?俺は強い奴にしか興味がねェ…ぬるィ奴等の中に混じってはしゃげる程優しくないんでなァ」
「…んだとコルァッ」
怯むのを忘れた男共、特にセンターの不良は沸点到達寸前らしい。仲間の事を侮辱されて怒らない奴はいねぇーよなぁ…。
こんな安い挑発に乗っちまうあたりが、ちょっと残念なトコかな。
「ハッ、だったら証明してくれやァ…俺に勝ったらテメェら、マックスに入ってやろうじゃねぇか。土下座して入れさせてくださいって懇願してやってもいいぜェ?」
「じょぉぉぉ等じゃねぇぇかァァ」
ゆっくりとそれでもって固く拳を握りしめたセンターの不良は「俺が分からせてやらァ!!」と一人先陣を切って飛びかかってきた。よしその度胸、褒めてやるぜ。
怒が心頭してる奴の攻撃は読みやすい。これはマジだ。俺の顔面を狙って飛んできたパンチを左へ避けて流す。空を切った拳はそのままに、男の襟首を掴み強く手前へ引くとそのまま相手の体を空中で一回転させ思い切り廊下に叩きつけてやった。元々空手を齧っていた俺にはこんな事造作ない。
盛大な音が響いて、背負い投げを食らった男は呻いたと思うとガックリと動かなくなった。
それを呆然と見ていた残り二名は青ざめて息を呑む。俺は悪い笑みを見せて倒れたばかりの男の襟を掴むとぽい、とそいつらに向かって放り投げてやる。
「俺を仲間に入れたきゃ全員でかかって来いやァァァ…それとも次はテメーらが相手してくれんのかァ?ん?」
ビクリと肩を震わせた二人は全力で首を横に振って動かなくなった男を担ぐと「おっかねぇ…」と呟いて元来た階段を脱兎の如く駆け上がってく。ざまあみやがれ。
残された俺はニヤニヤと自分の頭を掻きながら「すげぇな俺」と自画自賛しつつ二階の隅にある教室へと向かった。
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