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友達にしおりをはさみました!
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友達
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リョウさんに背中を押され、朝会ったら絶対潤に話しかけようと思っていたが、学校に来てから昨日潤に酷い態度を取ってしまった事を思い出した。
…怒ってるだろうな…
潤の姿を見て、話しかけなきゃと思うのに足がすくんで引き返す…それを繰り返している内に気づけば4時限目になってしまっていた。
昼ご飯に誘う。それが目標だった。
そのチャンスはもう、この授業が終わった時しかない。
…嫌われてもいい。無視されてもいい。
今日やらなくて、いつやるんだ。
当たって砕けても、きっと当たらないよりはずっとマシだ。
4時限目終了の礼をするとすぐに、僕は潤の席に早歩きで向かった。
机にバンッと手をつくと、潤は驚いたように顔を上げた。
「潤!今日お昼一緒に食べていいっ!?」
勢いに任せて一息で準備していた言葉を告げる。
潤は顔を上げた状態のまま目を丸くしていた。
硬直したまま何も言わない潤。
ものの数秒間がやけに長く感じる。
「…あの…ダメ?」
駄目ならそうと早く言ってほしい。
そしたら何も言わずに立ち去るから。
もうこんなこと言わないから。
君から離れるから。関わらないようにするから。
ガンッと大きな音を立てて、潤が立ち上がった。
びっくりして、今度は僕が目を丸くする。
「ダメな訳ないだろ!?」
「…え…いいの?」
「逆に何で断ると思ったんだよ。葵から誘ってくれたの、初めてだぞ!びっくりしたわ!」
そういえばそうだった。
いつもしつこいくらいに潤が誘ってくれたから、自分から言う必要も機会もなかったんだ。
その時、ガラリと教室のドアが開き、健人が顔を出した。
「おーい、飯行こうぜー」
「あ!健人、今日はまた葵と一緒な!」
「お、マジで!?オッケー!」
僕が思っていたよりずっと簡単に、二人は僕を受け入れてくれた。
何でもないようなその態度が嬉しくて、ホッとする。
潤は今日弁当を持っていないらしく購買に寄ってから屋上に来るというので、僕は健人と二人で階段を昇っていった。
無言の健人に僕も何を言えばいいのかわからず、気まずい沈黙が続く。
ふと、健人が踊り場で立ち止まった。
僕もそれを見て足を止め、健人の方を向く。
「あのさ…」
健人の声はいつものような明るいものではなく、真剣そのものだった。
「何…?」
「もしかしてさ、俺……邪魔だった?」
「え…?」
邪魔?誰の?何の?どういうこと?
意味がわからず茫然としてしまう。
「なんか…潤一と葵の中にズケズケと入っちゃって…
葵が最近潤一と一緒にいなくなったのって…俺のせいなのかなって」
「違う!」
思わず叫んでしまった。階段だから声はよく響いて、今更ながら慌てて口を塞ぐ。
一緒に食べなくなったのは…一条のことを知られるのを恐れて僕が勝手に二人から逃げたからだ。
そこに健人は関係ない。
「僕が二人と一緒にいなくなったのは…学校以外のとこで色々あって……原因があるとすればそれだから。
だから健人のせいじゃない。
ごめん…少しでもそんなこと考えさせちゃったのは、僕が何も言わずに避け始めたからだよね。
でも本当に、健人は悪くないよ」
「本当か?」
「本当だよ」
「俺のこと別に嫌いなわけじゃない?」
「うん」
「良かった…」
心底安心した声でそう言われ、僕も誤解が解けたことに安堵の溜息をつく。
「なあ、葵、」
「何?」
健人は右手を僕の方へ差し出した。
「改めて、俺と友達になってくれるか?」
僕は自分より大きなその手を見つめて、右手を伸ばした。
「うん、よろしくお願いします」
手を握ると、健人はあからさまにパァッと顔を輝かせた。
「健人って、なんか犬みたいだね」
「え!?そうか?」
「うん、なんか…なんとなく犬っぽい」
多分、反応が素直で分かりやすいからかな。
健人は複雑そうな顔で顎に手を当てた。
「褒められてる気がしないんだけど」
「別に褒めてないからね。犬は好きだけど」
そこへ、手にパンをいくつか持った潤が階段を上がってきた。
「何やってんだ、お前ら?こんなとこで」
「葵との友情を深めてたんだよ」
「階段の踊り場でやることか」
「はは、羨ましいか」
「べ、つに羨ましかねーよ!俺と葵はもっと前から友達だったし。なっ、葵!」
「え、そうだっけ?」
ついからかいたくなってトボけたように言うと、健人は腹を抱えて笑い出し、潤は僕の額を小突いた。
笑うと胸が暖かくなって心地良い。
昨日からこんな感覚ばかり味わってる気がする。
リョウさんは僕に道を示してくれた。
潤と健人は僕に居場所をくれた。
幸せは手を伸ばせば届くところにあったんだ。
「とにかく腹減ったし、早く行こうぜ!ほら、葵も!」
「うん!」
前を行く二人と並んで、階段を駆け上った。
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