アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
”7” 目覚めよ、王子の猫 ‐5にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
”7” 目覚めよ、王子の猫 ‐5
-
今日も俺は、佐藤医師と、監視カメラ越しの、健を観察。
ここ毎日、起きてる健と会うのは、監視カメラ越しだけど、顔色が今日はいいなとか
お風呂入ったって聞いたけど、ちょっと肌がかさついてないかとか
声を出させないままだから、まるで、言葉を話せない赤ん坊を見てる母親かってくらい
健の顔色や表情や仕草に、ものすごく集中している。
起きていられる時間は、大体合計6時間が上限で止まってしまっているから
百哉は、なるべく、俺の来られる夕方を中心に起こしてくれてるみたい。
俺以外に、女子達は、会っても支障がないので
昨日から、来てくれるようになった小田と阿川に感謝してて。
話すことって、すごく精神学的にもいいからね、健も、今日は、表情が明るくて、
2人が来てくれるのを、どこか楽しみにしてたみたいだ。
予測通り、圭介は、健の少しの怯えを、あっという間に払拭した。
人懐っこくて、話し上手で。健は前から圭介と楽しそうに話してた。俺が、やきもちを焼くくらいに。
しっかり者の阿川と、恭介の共同戦線は戦果を着々と上げる。
目の前のモニターには、ノダカナの妹と、LINE 通話を始められた映像が送られて来てる。
「信じられない気持ちも、信じたくない気持ちも、私は良くわかります。
静さん、私にも、病気のこと教えてくれてなくて。でも、来月からは来ちゃダメよって。
1月に、老人達のお茶会を開くから、裏方のお手伝いしてねって頼まれて
その日が、静さんに会えた最後の日だったんです」
ノダカナの妹、確か、美菜だったっけ?
高校生のその子が、思い出し泣きながら、語ってくれて。
「形見分けに、貰ったんです」って、静さんの大のお気に入りだった、訪問着を見せる。
あ~、俺からは画面が見えないから、多分、予定通りならそうなってる。
声は入ってくるからね、こっちにも。
それは、俺も見覚えのある、静さんの余所行きの訪問着。
静さんが、もう何年も着ているの、それこそ東京にいた時から、ずっとって言ってた奴。
最後に会った日。形見分けとは言わずに、いっぱい、着物をくれたんだそうだ、彼女に。
裁縫が好きな彼女は、これで、パッチワークをするといいんじゃないかって。
で、家庭科部の先生に見せたら、とんでもない、こんな上等なものもするつもりかって
怒られちゃったんだそうな。俺は、その一枚一枚を、見せてもらった。
で、必死に、静さんとの会話をその着物達を見ながら思い出した。
中学生の健が見たことがあるだろう、思い出の品を。
お気に入り過ぎて、本人が存命ならば、決して、他人が持っている筈のないものを。
健の顔色が掻き曇る。
「『他にもありますか?』、だって。美菜ちゃん、他にも何かあります?」
「あ、はい!いっぱいあります。これとかも、私、大切にとっておいて、着るつもりなんです。
私、着付け教室通ってて、お茶とお華も習い始めたんです。静さんに基礎は教えて貰って。
今は、静さんの学生時代の後輩さんのお宅に習いに行ってるんですよ。
いっつも、静さんの思い出話で花が咲いちゃって、ちっとも上達しないので困ってます」
狡いようだけど、健に見せるものはすべて、これと決めてある。
上等じゃない、本当の普段着もある。きっと、家事をする静さんが身に着けてたりしたものも。
健が、悲しそうに首を揺らし出した。
困った時、泣きたい時、ゆるゆるとせわしなく首が動くのは、健の癖。
俺は、阿川の携帯を鳴らす。
バイブ設定にしてるそれの短い着信は、阿川に、もう潮時だと伝えるためのサイン。
ダメだ、それ以上は、泣かせてしまう。瞬きがすごく増えて来てる。
最後通牒が待ってるんだ、そろそろ、その策は打ち切らないと!
「ヤバいです、かなり、動揺してる気がします。どうしますか?」
「でも、これはショックでも受け止めさせないとね、故人は、健くんを訪ねることが出来ない」
俺は、佐藤医師に、判断を仰ぐ。が、答えは、推して知るべしで。
最悪、百哉を動かさせるか。アイツにはイヤホンを着けさせてるから、こっちの直接指示が届く。
「美菜、ありがとう。もう、お喋り、終ろう。あたしが、後は、健くんと話すから」
どう、不自然じゃなく通話を終えるか、阿川が、頭を働かせる間に
ノダカナが、直で言って、美菜との通話を切った。
「今の健くんとは、初めましてになるね、お喋り。あたしは野田花菜です。
高校時代3年間同じクラスだったんだよ。いっぱいお世話になったんだ~。
健くん、あたしの制服、あ、さっき、美菜が着てたデザインのやつのね?
それ、着せちゃったんだから、文化祭の時に、スッゴク似合ってて、ね、圭介くん?」
「え?あ、う、うん。可愛かったよ~。家の学校の伝統行事だよね。
高3の学年は、クラス代表が、一人ずつ、女性と男性で制服を交換して、コンテストに出るんだ。
花菜ちゃんのクラスは健くんが男性で出て、女性が富田さんだったっけ?」
予定外の発言をし出した、ノダカナに、圭介が合わせている。
打ち合わせでは、ここで、戸籍謄本の出番だったのに。
戸籍を見せて、静さんが、除籍になってるってのを確認させて、俺の名前を教えるって手筈だった。
「そう!家のクラス、優勝したのよ。学食食券が全員に1週間分が景品なの。
あたし、提供した制服が誇らしかったわ~、けっこう、その頃は好きになってて。
あたし達の学校の女子制服ってね、静さん達が高校生の時に、あたし達後輩の為にって
皆で考えてくれたんだって、デザインを。それね、静さんがあたしに教えてくれたんだ。
あたしも美菜に、かなり遅れは取ったけど、なにか始めようって思うんだ、女を磨く習い事。
健くん、あたしに着付け、教えてくれることになってるんだから、頼むわよ?」
ぱちぱち、涙が出そうな健の仕草とは変わってきた瞬きで、ノダカナを見つめ返す。
ノダカナは何やら、自分のスマホを弄りだし、健に見せた。
途端に、阿川と圭介の表情が凍る。
な、何見せたんだ??ノダカナ~!!
「あった!これ、健くんが制服着たやつ~。恥ずかしかったんだろうね、静さんに内緒にしてたんだって?
静さんが送ってって言うから、添付しちゃったんだよね、えへへ。
亡くなったお母さんにそっくりだって、静さん、お返事くれたんだ。お母さんもあたし達のOGなんだよね」
健が、食い入るように、スマホを見つめてる。
カメラのある方へ、目線で、どうしようかって、阿川が指示を待っててくれてる。
圭介は、こっちをみない。多分、頭の中をフル活動して、何とかシナリオに戻そうとしてるんだろう。
不自然には、出来ない。健は、驚くほど、勘がいいんだ、こういう時。
何が、写ってる?アイツの写真は!
健が何かをモバイルに打った。
阿川が、俺の方にどうするんだって目線を送りながら、言う。
「『この人、だれ?』って、えーとね・・・・・・」
あ、バカ!高校時代の写真に、阿川がコメントするのは不味いだろ!
圭介が、阿川の言を遮る。
「それを、これから、説明するんだよ?健くん、コイツが、健くんと一番仲が良かった友達。
で、こっちを、見て欲しいんだけど・・・・・・健くん?ちょっと、スマホ、花菜ちゃんに返して?」
ノダカナの手から、スマホを奪って、健はなおも、その写真を見ようとする。
何度も画面を叩く、あ~暗転しちゃったんだな。で、ロックが掛ったんだ、ノダカナのだから。
スマホを握ったまま、じいっと、圭介の顔を仰ぎ見る健。
眼鏡、あの事件で、壊れたまま与えてないんだ。目を眇めて、圭介の表情を読もうとしてる。
あんの、ノダカナのバカが・・・・・・。
「何を見せたんだい?みんな動揺してる」
「・・・・・多分、俺と健のツーショットです。高校時代、アイツには俺達が付き合ってるのバレてて。
文化祭の後、ちょっとテンション上がってて、いちゃいちゃ写真を撮らせたような、覚えが」
モニターの前で、額に手を当てて、唸る俺に、佐藤医師が慌てて聞く。
あんの、バカ、マジで、ぶん殴る。
「どうする?私が行って、診察とかして、空気変えてくるかい?」
「あ~不自然過ぎます。・・・・・・百哉も、逆に地雷踏みそうだから、圭介に任せます」
謄本を手にしてる、流れは違うアプローチだけど、繋げられると思ったんだろう、アイツなら。
「これ、見てくれるかな?うん、こっちは壊れちゃったのかも。花菜ちゃんに返そうね?」
やんわり、健の手を取って、圭介はスマホの上に、書類を乗せる。
書類を手にした健から、自然な所作で、スマホを譲り受け、ノダカナに返す。
さすがに、ノダカナもやらかしたことに気が付いたようで、青くなっている。
「これ、知ってるかな、戸籍謄本って言うんだ。あ、知ってるよね、ごめんごめん。
これはさ、健くんのと、静さんの。健くん、丹羽家の方を見て?お母さんって除籍になってるでしょ?
これは亡くなってるとなるんだよね、そ、ここに死亡って書いてあるよね。
で、あれ?健くんも除籍になってるね!これ見て?そう、養子縁組してて抜けてるね。
じゃあ、こっち、静さんのを見て?」
すっかり、健の興味が、書類に移った!
やっぱり圭介はすげえ!佐藤医師が、興奮して俺の肩をバンバン叩く。
モニターを見つめる別室の俺達も、健の個室の女性陣も、ほっとした。
ほら見ろ、ノダカナ、小田がものすごい眼で睨んでんぞ~。後でしっかり油を搾られろ!
「オレも静さんが、大好きだった。健くんに見せるために、取り寄せたけど。
何度も見て悲しくなったよ、静さんの名前が除籍なってるの。
ふふふっ、気がついた?佐倉の籍に、健くんの名前があるね。
それと、もう一人、いるね。生年月日、そいつのほうが早いから上に書いてあるね。
そいつが、さっき花菜ちゃんが見せた写真の男、中舟生爽だ。
家庭であんまり大事にされていなくて、どうせ成人しているんだからって
静さんの養子に一緒にしてもらったんだ。だから、兄弟ってことになるね」
完璧に、修正しきった圭介に、別室の俺達も、個室の女性陣も感嘆の溜息が漏れた。
健は、もう一度、ノダカナのスマホに手を伸ばす。
何かの言葉で、唇が動いた。
「モモ!健、何て言ったの?」
マイクで、百哉のイヤホンに話しかける。
胸元の隠しマイクに百哉は、呟いた。
「お兄ちゃん、見せて。って言ったんだよ」
唇を噛んで、焦れた様に、タブレットで入力をし出す健。
明らかに、様子がおかしい。
圭介以外の面々が、おろおろして、俺達のいるカメラを見る。
「柳くん、皆を、部屋から出して!何でも理由をつけていいから!」
佐藤医師の悲鳴に近い声の指示が飛ぶ。
モニターの向こうで、百哉は椅子から立ち上がり、
俺も居ても立っても居られず、部屋を飛び出そうとする。
万力の如き力で、佐藤医師は、俺の手首を掴む。
「行ってはいけない!時期尚早だったんだ・・・・・・」
振り払えずに、呆然とモニターを見守る。
タブレットを取り上げられ、健が百哉と圭介の間で抗う。
まるで、駄々っ子をあやすように、百哉が抱きしめ、圭介が大丈夫と落ち着いてを繰り返し言う。
「多分、映像を見せたのが。敗因だ。今日は、もう休ませよう。強めの睡眠導入剤、使おう」
「そんなこと!また、眠っちゃうようになったら!」
「今は必要だよ。大丈夫、健くんはちゃんと目覚めるからね」
何が大丈夫なんだ!叫び返したいけれど。
画面の中の健は、苦しそうに、見えない何かに抗ってるみたいにみえた。
百哉も圭介も目に入っていないだろう。
部屋を出て来た、女性陣が、俺達の部屋に入ってきた。
震えて謝るノダカナを、拳で打とうとする小田を、阿川が止めている。
「野田さん、健くんに、何を見せたの?」
ノダカナはスマホを差し出す。
背後から、俺に抱きしめられてて、恥ずかしそうに笑う
女子の制服を着てて、まったく違和感のない美人の健がいた。
「オレね、健くんを見て思った。美人は言わねど隠れなしって。
きっと、この容姿だ、小さな頃から、嫌なことに巻き込まれたんだろうね。
鷲尾先生から聞いた。
佐倉さんは目立たないように、いつも気をつけていたって言ってたんだそうだよ」
佐藤医師は、看護師が運んできた薬を飲まされて、横になる健を見ていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
64 / 337