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そん時は、よろしく。にしおりをはさみました!
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そん時は、よろしく。
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人混みを掻き分けた俺は、更なる人混みへと入った。
お守り争奪戦という名の、戦争だ。
ここ、月巴(ツキトモエ)神社は、お守りの効力で有名な神社だ。
つっても、知ったのはつい最近だし、しかも、雪里から聞いたのだ。
雪里が、今年じゃなきゃ意味がないと言った理由、そして俺が参拝すると決断した理由は、この神社の合格祈願のお守りを手に入れるためなのだ。
奏が硯木高校に無事合格するよう、願を掛け、渡すため。
このことを雪里から提案された時、俺は二つ返事でOKした。
奏の受験が成功するなら、普段あまり信じてない神様やお守りを信じてみるのもいいなと思った。
神様にとっては、現金だ、の一言だろうがな。
だから、俺は最初、1人でここにお守りを買いにだけ来るつもりだった。
だが、どうやら、この神社は参拝しないとお守りが貰えないシステムらしい。
で、1人でさっさと参拝して買って帰る、と言うと、オレもついて行くと雪里が名乗り出て、あーでもないこーでもないと言い合っていたら、奏が“やっぱり初詣行くの?”話に入ってきて、何だかんだで3人で来ることになったのだ。
お守りの件は、奏にはひた隠しにしているが。
こういうのはやっぱ、サプライズのほうが味があるだろ。
・・・多分。
でも、秘密にしなかったとしても、奏を置いてきたのは正解だ。
目の前に映る光景は、人混みっつーか、バーゲンだ。
我先にと財布を片手にお守りを鷲掴む人々。
そんなことしたら、在り難いお守りも効力失うんじゃないか・・・?
そう思うも参戦しないわけにはいかず、俺は深呼吸を一つし、一歩中へ入った。
どこから来てるのか分からない腕が、俺の脇腹を殴る。
痛いとかそんなことを思う暇なく、次の一撃が脛に当たる。
お守りが並ぶ木箱が、見え隠れする。
手を伸ばせば何かしらは掴める、そう思うとすぐに人に隠され届かない。
仕方なく声を張り上げて巫女さんに合格祈願のお守りをと告げるも、雑踏の中じゃ無意味で、全く伝わっていない。
更に、年功序列だと、明らかに元気そうなお婆さんに押し退けられ、前を譲る形になってしまう。
まずいな・・・これ。
応援を、雪里を呼ぶにも電話じゃ周りが煩過ぎて会話にならないだろうし、メールで文字打ってる余裕も無い。
この神社は、これが売りだからか、普段はお守りの販売はしていない。
予約注文なら受け付けているらしいが、すでに再来年の12月分まで予約は満杯だそうだ。
更に、今年のお守りの販売は今日が最後。
初詣は後日にずらせても、こればかりはずらしようがない。
自力で何とかするしかない。
俺は痛みを堪え、せめてその場からは動くまいと何とか足を踏ん張らせる。
隙を見つけたらすかさず、一歩一歩と前へ進む。
だが、全く先が見えない。
これほどまでに文化系の自分を恨んだことはない。
やっぱ、最初の作戦通り、雪里がお守り係りのほうが良かったかもしれない。
奏のことだからと、自ら役割交代を望んだのは間違いだったかもしれない。
けど、弱音ばっか吐いていられない。
何だかんだでやるっつったら、やるのが俺なんだよな。
もう一度気合を入れ直そうと息を吸った。
が、どこからか伸びて来た腕により、俺はがっちり掴まれ、そのまま後ろへズルズルとお守り戦争から遠ざけられていく。
フラストレーションのピークと、緊張の糸が切れたのと、状況判断が出来ていないことが織り交ざり、俺は振り返り様に勢い良く殴り掛かる。
しかし、何時ぞやと同じく、拳はパシッと片手で包み込まれた。
そしてやはり、例の如く、目を細めて笑う顔が、そこにあった。
『大丈夫でしたか?上村先輩』
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