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悪いかよ。にしおりをはさみました!
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悪いかよ。
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聖也さんは哀を含めた目で、語り出す。
『律は静さんが・・・母親が亡くなってから、いつも気を張る子になったんだ。
昔からツンケンした性格だったけど、さらに増して。
わたしが頼りないから余計だろうけど、やり過ぎなくらい、気を張ってて・・・』
たしかに、りっちゃんは何でも1人でやりたがる。
家事も、料理以外はそこそこ出来るし、一般的な生活力はあると思う。
でも、
「気を張ってたんですか?
その・・・長谷川さんの前でも?」
たしか、長谷川と出会ってから静さんは亡くなったみたいだった。
長谷川も静さんと知り合いらしいし。
静さんが亡くなった痛みを分かち合えるはずの存在のはずだ。
プリクラで映る2人に、"遠慮"は見当たらなかった。
むしろ、気を許した相手に見せる、余裕の表情が多かった。
そんなボクの考えを、聖也さんはやんわりと否定した。
"痛みを知っている相手だからこそ、だよ"と。
『雪里くんも、静さんを好いてくれていた。
彼女の最期にも、立ち会ってくれた。
だからこそ、律は"弱さ"を見せなかったんだ。
自分がいつまでも悲しんでいたら、他の人まで悲しみから立ち直れない、と。』
そこで聖也さんは言葉を切った。
黙ったまま、目を閉じる。
でも、言われなくても分かるような気がする。
りっちゃんは・・・
りっちゃんは"普通"を装うために、気を張ってたんだ。
自分はもう大丈夫だから、と。
1番悲しい時に、平気なふりをした。
皆の先頭に立って。
すべてが偽りではないだろう。
本当に楽しい時もあったと思う。
心の底から笑ったことも少なくないと思う。
でも、ふと闇が心を支配する時も、あったと思う。
そんな時でも、彼は笑ったんだろう。
心配させないために。
闇を移さないために。
でも。
「バレちゃうん、ですよね・・・
りっちゃん、だから。」
ボクの呟きに、聖也さんが頷く。
"全然隠しきれてないんですよ"と。
『不器用過ぎなんですよね。
繕えば繕うほど、裏目に出る。』
「りっちゃんらしい、ですけどね」
"ですね"と聖也さんは苦笑いをした。
『自分がどれだけ分かりやすい人間なのか、気付いてないのでしょうね。
そのくせ、弱音吐かない子でね。
わたしも雪里くんも、内心困ってたんですよ。』
"でもね"と、聖也さんがボクの頭を優しく撫でる。
首を傾げるボクに、聖也さんは微笑みを返してくれた。
"奏君のおかげで変わったみたいだよ"と。
ボクは、え?、と目を丸くする。
ボクのおかげで、りっちゃんが変われた・・・?
りっちゃんのお荷物でしかない、ボクが?
りっちゃんの役に立ってる?
そんなの・・・
「そんなの、間違いです。」
キッパリ断言するボクの肩を、聖也さんががっしり掴んだ。
その顔には、微笑みと真剣さが混在していた。
掴まれた肩に、力が入る。
ボクの断言を、真っ向から否定していた。
『数日間律を見ていて感じたんです。
あの子の雰囲気が変わったって。
無理に笑わなくなったって。
わたしや雪里くんだけじゃ、どうしようもなかった彼の癖が、
君が来たことで、和らいだんです。』
彼の気迫に圧倒されたボクの頬を、涙が伝う。
それは聖也さんの指に掬われる。
今までで1番穏やかな目で、彼はボクの手を掴んだ。
そして微笑みながら、ボクに告げた。
"息子をこれからも支えてあげて"と。
ボクは静かに頷いた。
ボクの願いも、一緒に込めて。
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