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そん時は、よろしく。にしおりをはさみました!
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そん時は、よろしく。
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「なっ!
何で笑ってるの!?
ボクは真剣に・・・・」
『真剣に話してるんでしょ?
分かってるよ、そんなこと。
桐生君がここまで熱くなるの、多分後にも先にも上村先輩だけでしょ?』
笑いで言葉尻が震えているのが、イライラを助長する。
今度は何て言おう、そう考えていると、“でもさ”と急に言葉から温かみが無くなった。
氷柱どころか、毒を仕込んだ暗器。
でも、その続きを八尋君はなかなか口にしない。
今度はボクが、“何?”と催促する。
八尋君はクスリと笑い、“お望みなら言うよ”と告げた。
『君、自分を過大評価し過ぎじゃない?』
「何・・・?それ・・・?
ボクは自分自身を過大評価なんかしてないよ。
出来るはずが・・・ないよ。」
むしろ、ボクは自分を過小評価してる。
だって、ボクは汚れているのだから。
そんなボクの回答に、八尋君は驚いたような声を漏らし、“気付いてないの!?”と軽く非難を交えて告げる。
そして、ややあってから、またクスリと笑った。
“さっきから、ずっと君は過大評価しっぱなし”、と。
『そもそもさ、君は根本から間違ってる。
桐生君は、僕が上村先輩に近付くのは桐生君を翻弄するためって言ったよね?』
ボクは“そうだよ”と認めた。
だって、そうとしか考えられない。
実際、学校説明会の時、八尋君はりっちゃんに自分がボクの学ランを燃やそうとしているのを目撃させ、更に怪我まで負わされたんだから。
だけど、八尋君は言った。
“そうじゃない”と。
『あのね、桐生君。
君が居ようが居まいが、僕は上村先輩に近付いたんだよ。
だって、現に、僕は上村先輩が居るから硯木高に入学したんだし、上村先輩が所属してるから文芸部に入ったんだし。
それは、君が上村家に居候する前のことだよね?』
鈍器で頭を殴られたような、そんな衝撃がボクを襲う。
自分の見解が間違っていたからとか、そんなことじゃない。
そんなちんけなことじゃない。
だって、だってだってだって・・・・
「八尋君・・・、りっちゃんとどういう関係なの・・・?
どこで知り合ったの・・・?
八尋君はりっちゃんの何なの!?」
あまりにも取り乱しているボクを宥める声が、八尋君から発せられる。
でも、ボクは落着かない。
落着けない。
ボクはただただ“答えて!”と連呼した。
それに対して八尋君はだんだんと落ち着きが増していく。
そして、“ちょっとだけね”と前置きをしつつ、語り出した。
『僕と上村先輩の関係は、昔の友達・・・、知り合い以上友達未満、かな?
そのこと、上村先輩は忘れちゃったみたいだから、秘密にしててね?
そして、今は先輩後輩。だから、今も昔も君が心配するような関係じゃないよ?
・・・ただの僕の片思い。
安心した?』
安心どころか、余計不安になっちゃったよ・・・
そう言うと、八尋君は“そうなるかもね”とクスクス笑う。
そして、“本題に戻ろうか”と軌道修正に入った。
『えっとね、過大評価の理由の1つは分かったよね?
もう1つは・・・、言葉は悪いけど、簡単に言えば、君が思ってる程もう僕は君に興味が無いって言うか、遊ぶ優先順位が下がったんだよね。』
「・・・りっちゃんが1番になったってこと?」
八尋君は、“正解。”と少し嬉しそうに答える。
つまり、ボクがさっき糾弾したことはすべて筋違いだったってこと、か・・・。
身体の力が一気に抜け、ボクは床にペタンとお尻を付ける。
その様子をまるですぐ近くで見ていたかのように、八尋君はクスクス笑う。
多分、お腹を抱えて。
でも、すぐにまた毒の刃が突き立てられる。
『ねぇ、何を思ってるか知らないけどさ、僕、君に負けるなんて思ってないからね?
今は君達、イイ感じっぽいけどさ、それもすぐ終わりが来るからね?』
八尋君の言葉が、呪いのようにボクを縛り上げ、毒が胸を駆け巡り蝕んでいく。
でも、それでもボクは言い返す。
“キミの言葉なんて信じない”と。
“もう怖くなんかない”と。
そんなボクの勇気を振り絞って放った言葉も、八尋君は痛くも痒くも無いらしく、“そう?”で済まされてしまう。
そして、妙なことを出した。
“代わってくれる?”と。
何のことだか分からないでそのままにしていたら、“後ろ~”と指示される。
言われるまま振り返ると・・・
「っ!?
り、りりりりっちゃん!?」
りっちゃんが壁にもたれ掛ってボクのほうをじっと見ていた。
咄嗟に部屋の時計を確認する。
ボクがりっちゃんの部屋に来て1時間は経ってる。
八尋君が、“早く代わって”と催促する。
が、ボクは驚きと焦りと罪悪感とでブツッと電話を切ってしまった。
~奏Side~ END
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