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見てきた世界にしおりをはさみました!
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見てきた世界
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ギィ、と重い音がして、外の光が溢れてきた。
その中を、軽く汗を滲ませたレオさんが悠然と歩いてきて、思わずぼくは駆け出していた。
「レオさん、おかえりなさいっ」
「セシル」
柔らかく微笑むと、僕の頭を軽く撫でてくれた。
「……ところで、何でお前がここにいるの」
「セシルにお呼ばれしたもので。丁度ジョナス様ももうすぐお帰りになるのでご一緒させていただきました」
イヴさんを見て明らかに嫌そうにするレオさんと、それを軽く受け流すイヴさん。でも二人の仲が見かけほど悪いわけじゃないことを、ぼくは知っている。
「ふぅん……確かにさっき門兵が門を解錠していたから、そろそろかもね」
レオさんは近くの人に「ごめん、汗かいちゃったから湯浴みしてもいい?」と言って襟元を緩めた。
「ごめんねセシル。なるべく早く上がるから、僕の部屋で待っててくれる?」
「はい」
頷けば、「いい子」とまた頭を撫でられた。
そうしてレオさんが何人かの人とバスルームがある方へ消えていった直後、また扉が開いた。
「おかえりなさい、ジョナス様」
「ただいま」
ジョナス様と目が合って、慌ててお辞儀すると、ジョナス様は「はは、そんなに慌てなくていいのに」と言った。
「イヴ、何か変わったことはあった?」
「いえ、特には。……ああ、先日庭に撒いた種が芽を出しましたよ」
「えっ本当!? ちょっと待ってね、すぐ戻ってくるから、一緒に見に行こう」
パッと顔を輝かせたジョナス様はお城の奥へ駆けて行った。
「……面白いだろ、セシル」
顔を上げると、イヴさんはそんなジョナス様の背中を見つめて微笑んでいた。
「俺達には飽きるほど見てきた何てことない出来事が、あの人たちには全て新鮮なんだ。花が咲く前の姿なんて知りもしない」
──よくて蕾が色付き始めた頃までだ。
それはたしかに面白くて不思議なことだった。ぼくたちとあの人たちの見てきた世界はとても違う。なのに、同じ場所にいる。
「……『現実は小説より奇なり』、ですね」
「……そうだな。生憎と俺たちがあの人たちに与えられる教養はないが、あの人たちに与えられる雑学なら山ほどある」
そう言ってクスリと笑うイヴさん。だけどこの人だって、きっとただの元貧民じゃない。時折感じる気配は、ここに来てから培われたものなんかじゃないと、ぼくは思う。
そうして話していると、ジョナス様がパタパタと戻って来た。
「お待たせ、行こうかイヴ!」
「はい。しかしそんなに焦ると転び──ああほら、言わんこっちゃない……」
「え、へへ……でもイヴがいつも支えてくれるから」
たくさんの人が歩いたせいでふかふかの絨毯に少し皺がよって、そこにジョナス様が躓いた。けれど、イヴさんがそれを支えてあげたから大丈夫だったみたい。
「……ではセシル殿、レオ王子のお部屋へ参りましょうか」
「はい!」
来た時みたいに手を繋いで──その時には反対の手にイヴさんの手があったけど──レオさんのお部屋に向かった。
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