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異常心理(龍之介side)にしおりをはさみました!
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異常心理(龍之介side)
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ここのところずっと同じ夢を見る。
今よりずっと幼い自分の視線の先には、疲れて傷ついたガキがいた。
距離があるのはもとより分厚いカーテン越しのせいで、シルエットしか見えない。
学園の講堂の二階席に陣取り、いつも身動きひとつせず、演奏にじっと耳を傾けていた。
あの頃、一度は己のすべてだった世界を失い、再び仲間を得たが、人並みの学園生活を味わってみろと放り込まれた学園でも、心は未だ乱れたままで。
絶えず飢え、叫び声を上げてはのたうち回り、すべての感情を昇華するようにピアノを叩き続けた。
仲間にはさらせない。
だが、見知らぬ傷だらけの子犬になら、聴かれてもかまわなかった。
どうせ会ったところで気づかない、ぶ厚いカーテン越しの関係だ。
あの子犬はその後どうしたのか……未だこの学園で暮らしているのか、はたまた退学して外の世界へと羽ばたいて行ったのかと、その後を憂う内に、急速に意識が浮上した。
人様の部屋のソファと知りながら、堂々と仰向けに陣取り、伸び上がって大きなあくびをすれば、頭上でクスリと笑われた。
「珍しいね。龍ちゃんの本気で眠そうな顔」
ここんとこ留守が続いてたみたいだけど、また新しい誰かとお楽しみだったのかな? と意味深な視線が降ってくる。
アップダウンの激しい学園のお姫様だが、今朝のご機嫌はよろしいようだ。
「……まァ、ンなトコだ」
仲間以外に自分たちの裏の顔を知る者はいないし、知らせる必要もない。
ただでさえ問題を抱えまくりなガキ共に、これ以上の精神的負担をかけるなどバカげていた。
世の中には知らずに過ごした方が遥かに幸せなこともあるものだ。
それでも知りたいのなら、乗り越えてくればいい。
自分たちが築いた壁を。
それはそれで面白いが、大抵の人間はキナ臭い場所からは距離を置く。
もっともコイツの場合はそういうンでもねェんだよなァ、と学園の姫こと克己を見つめた。
もとよりズブ濡れの子猫を拾って世話しているうちに、思いのほか懐かれた。
ギリギリの場所で崩れ落ちそうな自分を必死に保とうとする姿には正直心打たれるものがあったし、長く手元に置けば多少の情も移る。
「そういえばここ数日、見かけなかったよね」
また謎の外出? と愛らしく小首を傾げて聞いてはくるものの、それ以上つっこんではこない。
触れて欲しくない部分はさらりと流してくれる、実によくデキた子猫だ。
時差ボケと戦いながら、組織が無理くり投げてきたミッションを灼熱の砂漠でこなしてから、まだ24時間と経ってはいない。
さすがに身体は重いし、ダルいし、出すモノを出し切っても興奮が冷めやらず、神経が荒ぶり眠りも浅く、そこにきてやけに昔の夢ばかり見るのはなぜなのか。
「欲求不満? ……なワケないか。声が欲情してないし」
欲情すると声に麻薬のように後を引く甘い毒が混じるらしく、この声を聞くだけで濡れると、声変わりして以来、とかく周囲が色めき立つようになった。
「……まぁ、タンクは空だな。ヤりまくったし」
「で? ヤる気もないのにセフレの部屋に来た目的は、いったい何なのかな?」
にこやかな顔をして、軽く戦闘モードである。
こちらのベクトルが自分ではなく大事な幼馴染に向けられていることを、この綺麗な顔をしたお姫様は敏感に感じ取っているようだ。
「言っとくけど、シロちゃんはあげないからね」
遊んだりしたら許さないからと、淡い色の瞳が語っていた。
一時は燃えても、落ちてこられると途端に冷めてしまう。
だからこそ、なるべく落ちそうにない堅い相手ばかりを追いかけた。
その方がより長く狩りを楽しめるからだ。
こんな自分に手を出される相手は、確かにいい迷惑に違いないと苦笑した。
だが、もとよりひどく好みだったのだ。
容易には崩れそうにない、ストイックの塊のような身持ちの堅さも、無表情の奥で強い光を秘めた瞳も、鋼のような鍛え上げられた身体も、幼馴染を想い続けるその一途ささえ。
ギリギリのバランスの上でようやく耐えているかのような今にも崩れ落ちそうな危うさと、硬質な見た目とのキャップが、たまらなく色っぽく映る。
手を出さなかったのは、ズブ濡れの子猫から親猫を奪うのはさすがに気が引けたからに過ぎない。
要は、その程度の熱量だったのだろう。
だが、明け方に見た夢が何かを暗示しているようで。
当時のガキが真に誰だったのか、実のところ確信はない。
危険な匂いがまるでしなかったこともあり、当時はあえて正体を確かめずに放置した。
だが、克己を通して初めて会った瞬間、不意にそのシルエットが重なった。
向こうはまるで気づいていないようだったが、もしかしてオマエはあの迷い犬なのかと口にしそうになった。
結局はズブ濡れの子猫哀れさに、その後も会えばからかうばかりの関係に終始したが、視線は隣室のドアを追ってしまう。
ミッションをこなした後によくある、異常心理状態のせいもあるのだろう。
心理学に詳しいルイいわく、逃避行動の一種らしい。
何かに夢中になることで脳内を一度リセットし、人の命さえ奪いかねないヒリついた戦闘モードから心を守っている。
自分がそんな繊細な神経を持っているのかと思うと、ひどくおかしかった。
「もうっ。笑ってごまかしたってダメなんだからね?」
克己がソファに身を乗り出し、鼻をつまんできた時だった。
ガチャリと、不意に続き部屋のドアが開いた。
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