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招かれざる客（士郎side）にしおりをはさみました!
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招かれざる客（士郎side）
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隣の部屋から人の気配がして、またアイツかとうんざりした。
人里離れた山奥の寄宿舎に、年頃の男ばかりが押し込まれて生活していれば、発散することのできない欲ばかりが溜まるのは想像に難くない。
そんな中、克己のような少女然とした容姿の少年は格好の餌食となる。
克己もそうバカではないから、部屋に招き入れる相手は克己なりに選んでいた。
逆を言えば、部屋に入れた時点で、そうなってもいいと考えているということで。
時折ふらりと訪れては克己を抱くこの龍之介という男は、様々な意味で桜華学園ではとかく有名な生徒だった。
生徒主導の学園内において圧倒的な権力を持つ生徒会の副会長を長年務める傍で数多の生徒と浮名を流し、悪魔のように魅惑的な声で周囲を従える。
自分にはまったく理解し難いが、学園内ではセックスシンボル的存在として圧倒的な人気を誇っていた。
人生すべてを面白がるような不遜な態度。
かといっておごり高ぶるわけでもなく、サバンナの百獣の王のように悠然かつ飄々と下界を見下ろすような男だ。
戦うまでもなく、なぜだかまったく勝てる気がしない。
空手と実践でそれなりに鍛えてはきたが、その武闘家としての勘が告げていた。
底が見えない。この男は危険だと。
本当は近寄らせたくすらなかったが、克己が懐いている以上なす術がない。
態度で不愉快だと示すことしかできない自分が、ひどく惨めだった。
無意識に薄い唇を噛みしめていたことに気づき、ため息の中で努めて身体の力を抜いた。
学園内のほとんどの生徒が自分と克己を恋人同士だと認識していたが、実際は違う。
自分は確かに克己を想っていたが、克己の側はそうではない。
克己の自分に対する感情が家族としての情に近いものであると、わからないほど鈍くはない。
いつか克己の気持ちも変わるかもしれないと、ここまでついてきてしまったが。
自分ではダメなのだと、いい加減わかり始めていた。
自分では近すぎるのだ。
愛情と罪悪感、依存の鎖が絡まり合い、互いに身動きが取れなくなっている。
克己を守るためならばすべてを捨てても惜しくはないほどに愛していたが、時折息が詰まりそうになる。
おそらくは克己も同じなのだろう。
時にこうして龍之介を部屋に招き入れては、無為に身体を重ね続けた。
桜華学園の寮の壁は厚く、隣室の物音が聞こえるような造りではなかったが、続き部屋だけは別だった。
ペア入学で入学した従者の最大の役割は、主を守り、快適な学園生活を送ってもらうことにある。
いつ何時何があっても駆けつけられるようにと、主と従者の部屋をつなぐドアや壁はあえて薄く造られていた。
克己の嬌声を聞かされるたびに、自分がどこに向かっているのかわからなくなる。
胸がえぐられるように痛んでも、相手の男を殴り殺したい衝動にかられても。
ガード役の自分にできるのはただ見守ることだけで。
克己が誰かに抱かれている以上に、自分では克己を幸せにしてやれない事実の方が重かった。
張り詰めて尖っていく神経をどうにかしたくて、本を閉じ、ソファから立ち上がると、バルコニーに続くドアを開けて、室内に風を通した。
視界を覆うのは、全面の緑だ。
太陽の光に芽吹いたばかりの木の葉が輝いて、鳥の鳴き声が聞こえてくる。
少しだけ心に余裕が戻ってきた。
隣室は未だ静かなままだ。
まったく気が進まなかったが、少し様子を見てくるかと、続き部屋のドアをノックした。
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