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見えない糸（龍之介side）にしおりをはさみました!
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見えない糸（龍之介side）
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「なぁ、リュー、訓練しようぜ！」
生徒会室の自分専用のデスクに腰かけて、机上に行儀悪く脚を投げ出しながら武器の手入れをしていると、マコトがクルクルと両手で器用にナイフを回しながら寄ってきた。
大して気分じゃなかったが、ノッてやらないと後がうるさい。
「……しゃーねェなァ。コレ終わるまで待ってろ」
手早く手の中のサブマシンガンを解体し、再び組み立ててオイルを差し、表面を乾いたタオルで磨き上げる。
作動確認はさすがにここではできないから後で射撃場で試そうと、所定の棚に仕舞い、戸を閉めた。
「武器を解体する手の動きって、色っぽいよなぁ……」
マコトが背中から腰に両腕を回してきた。
「相手探してンなら他当たれ。今は気分じゃねェ。っつーかナイフ持ったまま人の腰に腕回すンじゃねェよ」
ため息をつきながら腕をほどくと、
「えっ、何で！？」
マコトが驚いたように、手の中のナイフを落とした。
「っぶねっ！！ こンなん突き刺さったら笑えねェだろーが」
仕方ないヤツだとナイフを拾って、手渡してやる。
「……てか何で？ 前のヤツとは別れたって言ってたのに……。もしかしてまた好きなヤツできたとかっ？」
涙目でにらまれて、深くため息をついた。
「……いい加減オレ離れしろって。いつまでもガキじゃねェんだからよ」
生徒会役員であるマコト、ルイ、ハルト達とは、まだ毛も生えそろう前の、ほんのガキの頃からのつき合いである。
ストリートでぶつかり合いながら生きていた頃。
自分を中心にいつの間にかできていた身寄りのない子供たちの輪の中核にいたのが彼らだった。
「なんで離れなきゃいけないんだよ！？ ずっと一緒だって誓い合ったろ！？」
「ったく、オレと違ってオマエらは自由になれンのに。なンだって、ンな命削りたがる？」
ストリート時代の悪友であるリンが実は大層なお坊ちゃんで、おまえも少しは普通の学生生活を味わってみろと、冗談のような多額の出資金で設立した桜華学園に、気まぐれで移ってきてから早5年が経つ。
仲間の大多数は何とかまいて置いて来たが、どうしてもついてくると言って聞かず、実力行使でついてきたのが今のメンバーだった。
ストリート時代、リンとはまた別のとある組織からコンタクトがあった。
その組織は育ての親の名を口にした。
育ての親といっても6歳の頃までの話で、その後は捨て置かれたままだったが。
追ってこい。
一言だけを残して、ある朝忽然と姿を消した。
独りで生きていくのに東京という世界でも安全で有名な地域を選んでくれたのはありがたかったが。
悔しさと懐かしさ、怒りと愛しさが混在した複雑な感情の中、集約すれば『テメェ、ざけんなっ、いつかブッ殺す』である。
育ての親に唯一つながる糸を手放す訳にはいかなかったが、組織は援助と引き換えにあらゆるミッションを課してきた。
中にはかなり危険なものもあり、要はいざって時に捨て置ける体のいい駒として利用されているのだとわからないほど愚かではなかったが、非合法の武器や身分証、時に海外での戦闘経験や闇の世界の知識など、組織と関わるようになって一気に世界が広がったのもまた事実だった。
当初こそ一人でこなしていたミッションも、その動きを不審に思った3人に秘密を暴かれ、以降は共にミッションをこなすようになり今に至る。
慕われて悪い気はしなかったが、時々ひどく疲れるのも事実で。
己の命一つを背負うのは容易でも、仲間のそれとなると重みが違う。
このままでは組織との関係ばかりが濃厚になり、ズルズルと闇の世界に引きずり込まれかねない。
できるだけ早く組織との関係を断ち切り、光ある場所に戻してやりたかった。
だが、話し合いはいつも平行線をたどる。
「そんなんリューが好きだからに決まってんだろ！ それに家も家族も何も持たなかったオレたちが、こーしてまともに暮らしてけんのも勉強できんのも、みんなリューのお陰だろ？」
それこそリンのお陰だが、押し問答にしかならないので黙っておいた。
当初はいくら金があり余っているからといって、たかがガキ一人に幾らかけるつもりだと呆れたが、セキュリティーの高さと個人を識別されない秘匿性が受けて、いつの間にやら金はかかるが子供を預けるにはこれ以上安全な場所はないと、裏社会で密かな人気を博し、今やビジネスとして充分な収益を上げているというのだから笑ってしまう。
リンの実家は世的的に有名なコングロマリットであり、このバカげたプロジェクトを推進するにあたり、いったい国の上層部のどの辺りまでを巻き込んだのかと、呆れ混じりに聞いてみても、意味深に笑われただけだった。
どこぞのお偉いさん方の尽力の成果か、桜華は基本的には普通の学校の体を成しており、授業は秘匿性保持のために遠隔ではあったが通常通り行われるし、授業に関してもどんだけ金を積んだのやら、受けるに足るレベルの高さと面白さを兼ね備えていた。
唯一、他校と徹底的に違うのが、生徒会役員を取り巻くその権力構造にある。
基本的には生徒会役員がすべての頂点に君臨する。
オーナーであるリンを除けば唯一無二の絶対的な権力を持ち、その住居であり活動拠点である役員棟は、一般生徒やセキュリティガードの立ち入りを厳重に拒み、独立国家のような治外法権が許されていた。
学園を造るにあたって組織から横槍が入ったことは容易に推測できた。
アイツもその一人だろうと、生徒会長のユージンの氷のように冷たい横顔に向けて、殺気を放ってみる。
ピクリと頬を震わせて、ユージンがこちらを見た。
「ンな熱い視線送った覚えねェけど、何か感じたか？」
「……いや」
この春先に急きょ、それまであえて空席にしていた生徒会長の就任が決まった。
リンは苦笑いするばかりで何も言わなかったが、つまりはそういうことだ。
組織側に何らかの動きがあったとみて間違いない。
今まで放置に近い状態で放し飼いにしていたこちらの動向を間近で探る程度には、深刻なのかもしれない。
自分を取り巻く見えない糸がジワジワと引き絞られる気がして不快だったが、一方でこうした緊張感は嫌いではない。
「オラ、訓練終わったらシャワーで抜いてやるから、いい加減、機嫌直せ」
自分にもいくらか気分転換が必要だと、マコトの肩を抱いて格闘用の訓練ブースに向かうことにした。
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