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勇者とブサメンにしおりをはさみました!
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勇者とブサメン
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「誰?お前…………」
二年一組。
大和のクラス、大和の席。
大和は、目の前に立つ一人の男子生徒に、首を傾げる。
何度も言うが、自慢じゃないがクラスメートの名前は3分の1も、覚えていない。
目の前に立たれても、クラスメートかどうかすら、興味さえ無い。
「ボソボソ……………………です」
「あ…………?」
全く、聞こえない。
「クスクス…………やだ、古林ィ~、嵩原君が困ってるじゃん。ちゃんと喋りなよーっ」
「ダッセーなぁ。見た目だけじゃなく、声までブサイクかぁ?」
大和の前で、しどろもどろな男子生徒を見て、周りの生徒達が、小バカにしたような声を掛ける。
今や、自分の意志とは反対に、校内でも勝手にイケメントップにランクインしている大和と、その古林と呼ばれる男子生徒では、見た目のバランスが、あまりにも釣り合っていない。
それがまた、奇異の目を集める。
「………………ブサイク…………?」
ブサイクねぇ……………。
大和は、改めて男子生徒を観察した。
ちょっと小太りな体型に、身長は、颯よりも低い。丸顔で、ガリ勉風なフツーの眼鏡。髪型は、ややボサボサ……………確かに、イマドキな男子高生ではない。
ただ、颯以外目に入らない大和には、どいつもこいつも、皆同じ。
ブサイクの基準が、よくわからない。
「……………で、古林?俺に、何の用なん?」
自分の机に肘をつき、大和は古林を見上げて問い掛ける。
「え、あ………あの…………だから……………」
真っ直ぐ見てくるイケメン大和に、古林は顔を真っ赤にして俯き、再びゴニョゴニョ尻すぼみしていく。
昔から、周囲にイジられ役で、コンプレックスの固まりの古林にとって、自分とは真逆な大和は、話をするだけで心臓が張り裂けそうな程緊張する、苦手なタイプだ。
ダンッ…………!
「せやから、聞こえへんて!男やろ?デカい声出せやっ」
大和なりの、やんわりした言い方で、大和は机を叩き、古林を一喝する。
しかし、どうしてか?教室は静まりかえった。
勿論、古林にいたっては、ガクガク膝が震えている。
「す、す、すみませんっ!ですから、そのっ………きょ、今日…………一緒の日直、よ…………宜しくお願いします!」
飛び上がりそうな勢いで、古林はそう言うと、きおつけをして90度に頭を下げた。
「日直…………?…………日直…………て、何?」
***********************
「………………だから、日直と言うのは…………授業の後に黒板消したり、日誌書いたり、先生に何か頼まれたら動いたり……………」
休み時間の廊下。
大和は、颯から『日直』について説明を受けていた。
………………と言うのは口実で、単に颯に会いたかっただけ。
来年、颯とクラス別々になったら、先公シバいたる………………大和は休み時間の度に、そう思う。
「ふむふむ、成る程。よし、わかった!……………頼んだで、古林!」
「は…………はぃ………っ」
颯の説明を、颯だからこそ素直に聞きながら、大和の手が、隣にいる古林の肩へ勢い良くのし掛かる。
「………………大和?古林を連れ回すなら、俺の説明要らなくない?大体、日直の仕事…………どさくさ紛れに、古林へ丸投げしたよね?」
颯は溜め息をつき、呆れたように大和を見上げた。
「なんやぁ…………颯、妬いとんの?俺が、お前以外の奴と一緒におるからって」
「………はあ?………」
冗談っぽく言う大和の一言に、颯はますます呆れた顔をする。
「………………………………」
僕は今、どうなっている…………?
古林は、二人のやり取りを黙って見ていた。
ワケもわからず大和に連れて来られ、大和といるだけでも身体が爆死しそうなのに、学校中の憧れである神崎颯まで近くにいる。
こんな間近で、イケメンと美人を眺めるなんて…………全身から、変な汗が吹き出ている気がした。
「古林、大和に遠慮する事ないからね?言いたい事、ちゃんと言いなよ。大和、常識ないから」
「………え……………」
言いたい事……………言いたい事?
そんなの、今まで一度も口にした事がない。
自分が何かを言えば、皆が嫌な顔をする。
自分が前を向けば、皆がウザそうな態度をする。
言える訳がない。
古林は俯いて、返事に困った。
「おーい!もしもし?颯っ、常識ないって………何やソレ、酷すぎるやろ!?いや確かに、普通ではないけどな!普通ではないにしてもや、俺、どんだけやねん!」
「じゃ、ちゃんと日直する?古林に、負担かけちゃダメだよ?二人の仕事なんだから。ね?大和………」
…………………ハイ、やります。
颯の失言?にショックを受ける大和を、颯がまた絶妙な空気で優しく諭す。
惚れた弱味………………。
すっかり上手く転がされている。
「あかん……………俺、尻に敷かれるタイプかも…………」
大和は顔を赤くし、頭を抱えた。
「大和、俺………次、音楽だから行かないと………。また、後でね」
そんな大和に、颯は音楽の教科書を見せて、笑顔を向ける。
「あ、ああ……………悪かったな、颯」
たった、数分。
されど、数分。
大好きな笑顔が見れた。
それだけで、また少し頑張れる。
大和は去り行く颯の背中を、切なそうに見つめた。
「……………なんだか、恋人同士みたいだね………」
お似合いのカップル。
そう感じたら、古林は自然と思った事を言っていた。
「……………あん?………」
古林の言葉に、大和が聞き返す。
「あっ………いえ!す、すみません!わ、わ、忘れて下さいっ!」
怒られる!!
古林は冷や汗をかいて、咄嗟に顔を伏せた。
ポンッ…………
「…………!?………」
身体を小さくする古林に、大和が背中を軽く押す。
「凄いよなぁ……………颯って。あないに美人やのに、人を外見だけで判断せえへん。俺もお前も、扱いは同じや。………………ああ言う人間から見たら、見た目なんかどうでもええんやろな…………」
「た…………嵩原…………君…………?」
古林が顔を上げると、大和は見えなくなった颯の姿を想い浮かべるように、まだ廊下の先を見ていた。
「小さい人間程、他人の事ばかり言うとる。でも世の中は、その小さい人間ばかりや。ガキはガキなりに、踏ん張るしかないな……………俺も、あいつに恥じひんよう、頑張らなあかん」
もしかして……………ワザと僕に神崎君を会わせた?
僕が周りから馬鹿にされてるから、神崎君みたいに平等に扱ってくれる人がいる事を、教えてくれる為に…………………。
古林は困惑しながらも、どこかで嬉しかった。
皆が友達になりたいと思っている大和や颯と、一瞬でも肩を並べられた。
大和と日直が一緒でなかったら、こんな夢みたいな出来事はあり得なかった。
人間は、単純だ。
然り気無い大和の行動に、少し勇気が芽生える。
自分の中で、勝手に大和達が、味方になってくれた気になっていた。
ガシャン…………
「あれ、ごめーん。いたの、気付かなかったわー、古林」
古林が大和と別れ、教室に戻ると、クラスメートの足が古林の足を引っかけた。
「……………っう………」
近くの机にぶつかり、古林は膝まづきながら声を漏らす。
「ウザ…………ちょっと、当たっただけじゃん。リアクション、オーバーでしょ?」
「てか、嵩原君と神崎君と一緒って、マジ引いたわ。立場考えなよ~、ブサメンがさ。日直が一緒だからって、図に乗んなって」
嫉妬だ。
大和達といるところを見たクラスメートが、古林に嫉妬していた。
「……………………」
古林は黙って立ち上がる。
涙が、出そうだ。
小さい人間に芽生えた少しの勇気では、大勢の小さい人間には立ち向かえない。
何で、自分はこんなに嫌われるのか?
何で、自分はこんなにけなされるのか?
どうあがいても、大和や颯のような人には近付けない。
「何しとんねん、古林」
スボンについた埃を払う古林の後ろから、大和の声が教室に響き渡る。
自動販売機へドリンクを買いに行っていた大和が、戻って来たのだ。
ザワワ……………
「嵩原君……………」
スゴい…………。
古林は、息を飲む。
大和一人が現れるだけで、空気が変わった。
「ほら、コレやるわ。慣れへんのに、無理矢理颯の所連れて行ったしな」
大和は、買って来たドリンクの一つを古林に手渡した。
「た………嵩原君…………」
これ以上は泣きそうで、古林は、大和の名前を言うのが精一杯だった。
「お前は、この教室で…………俺が最初に覚えた名前や。これからも宜しくな」
大和はそれだけ言うと、自分の席に座った。
それだけ………………たったそれだけなのに、クラスメートは黙り出す。
手を差し伸べた訳でも、皆に意見した訳でもない。
それが、嵩原大和の力。
大和が、颯を尊敬するように、古林は、大和を尊敬した。
こんな人になりたい。
初めて、そう思った。
変われるだろうか?
小さい人間は。
頑張れるだろうか?
小さい人間は。
何度も挫折するかもしれない。
何度も後ろ向きになるかもしれない。
それでも、やってみよう。
自分を見つめ直し、自分を探し出し…………。
なりたい目標が出来た。
あまりにも大き過ぎるけど、ただの一歩でも近付きたい。
ブサメンはブサメンなりに、汚なく這い上がる。
***********************
しかし、そんな中、落ち込むクラスメートが一人。
「俺……………まだ、嵩原に名前覚えてもらってないんだ……………」
大和の隣に座る大浦は、ショックで机に顔を伏せた…………。
*古林正哉(こばやしまさや)……………17歳。身長167㎝。昔からのいじめられっ子。大和の行動をきっかけに、少しずつ変わりつつある。眼鏡&ぽっちゃり体型の内向的な男子生徒。ボンボン校にしては、珍しく家庭は一般的。
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