アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
神保町と都。 にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
神保町と都。
-
……俺だって言葉が嫌いだ。もちろんそれを伝える手段の会話も。
できる事なら俺も都のように喋らないで、写真だけ撮って気持ちを伝えられたらどんなに楽なんだろうかと思う。
…… ……でも、それは今までの俺の場合だ。
、喋る事ができない都と出会って、しかもそれが喋れない"フリ"だと知って、…、。
他の人には感じない魅力も、なぜか見つけてしまったたくさんの共通点も、……それから初めて感じた他人への興味も、…声も自分も全く出さない、俺以上の言葉恐怖症のこいつの前では、俺から全てを仕掛けなければなにも前に進めないのだ。
……だから、俺も自分の気持ちを、自分の感じた事を、言葉で、ちゃんと自分の意思でこいつに伝えなければならないのだ。
…………あぁ、こういう時になって、自分があまりにも言葉に対して耐性がなかったことに気づき、後悔する。
言葉の使い方が上手い人は、コミュニュケーションを取るのが上手い人は、今こういう場面に直面したらどうやって気持ちを伝えるのだろうか。
聞けるものなら誰かに聞きたい。
でも、それを聞いた時点でそれは他人の意見となって俺のものとは違うものになってしまうから、俺はこうやって不器用にも都に大声でど直球に叫ぶ事しか出来ないのだ。
……って、俺、こいつの事になると頭でぐるぐると考えすぎて破裂しそうになる。
でも、俺はこうして都とぶつかるしかない。
俺のその言葉はホーム中に響き、歩き行く何人もの乗客を振り返らせた。
でも肝心な都自身は、その言葉に足を止めるもそれから一切動かず、俺が次になんて言葉を発しようか悩んでいるすきに、また歩き始めてしまった。
……ああ、……行ってしまった、、
もっと叫ぶ事もできたけど、やはりまだ言葉に抵抗がある俺はその使い方に慣れていなくて、都にもっと言いたくてもなんて言ったらいいかわからなくて伝える事ができなかった。
……それでも……、…今の言葉は、あいつにちゃんと届いたのかな、……
…………っま、いっか。
……どーせこれからこいつとはもっと話していくだろうし、まだ時間はたっぷりあるんだから。
いつか、こいつに伝われば、……んであいつの意思も聞けたら、……
俺はそんな事に期待と少しの不安を込めて少しため息を吐き、先を歩く都の方へと駆け寄った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー……………………
がらららららーーー……
「おばちゃんいるーーー??」
たくさんの古書街の中でも更に古びた門構えの店へ着くと、俺はいつも通り躊躇なくガラス戸を開けてそう声を出した。
他の古書店は普通、扉はオープンになっててだれでも入っていけるようになってるもんなんだけど、…ここ"樋口図書"は店主のおばちゃんが全くやる気ない為完全に扉は閉まっていて、なおかつ店主はほぼほぼ店頭にはいない。(噂によると二階が家になってるらしい)
本なんか全く手入れされてないから埃まみれだし、凝ったディスプレイなんかも一切無し。…極め付けには本の値段すら提示しておらず、おばちゃんが認めてくれた奴(おおよそ気分)にしか本を売らないという始末だ。
「ったく、相も変わらずきったねぇなぁ……」
分かってはいたけど、何度見てもこの店は汚ねぇ……
多分、掃除とかしたら何らかの死骸が沢山出てくるだろう……おえ、考えたくもない。
さっきから何も話さず俺に黙って付いてきた都も、そんな店内をゆっくりと眺めて、小さぬコホンコホン、と控えめに咳をした。
……すると、
「…… んだい、悪態つくなら帰りな。」
奥の方からガラララーー…っと引戸の開けられる音がして店主であるおばちゃんがでてきた。
「…あ、ばあちゃん久しぶりーー。今日も機嫌悪いねー、!いつも通り、。! 」
「…ったく、ばあちゃんいうなゆうてるのに、今度ばあちゃんゆうたら、今度こそ本当に店畳んでやるからな、この小僧が。あんたが来るからこっちはいつも機嫌わるぅなっとんねん。頼むから静かにしといて」
「……ふふっ、なんやかんやおばちゃんのその毒舌聞くと落ち着くわ、。はいはい、言われなくてもいつも通り静かにしてますーー。」
きれいな白髪を後ろでお団子にしたおばちゃん……えーと、…名前は、……ゆりゑさんだっけ、。そうそう、おばちゃんとはかれこれ15年以上の付き合いになる。
ここに来始めたきっかけはもちろん父さんに連れてこられたからだけど、その時からゆりゑさんはこんな感じだった。………、いや、…違うか、。正確には、人柄は、ね。?
見た目なんて女優のようにすごく美人だったし、……ちっちゃい頃の俺にはそりゃぁまあ綺麗な大人のおねぇさんに見えてた訳だけど、、。実は父の愛人だったとかそういう一筋縄じゃいかないような関係もあって、まぁ色々勝手に仲良くしてもらっている。
まぁ、なんといってもゆりゑさんは味のある人で、ここの古書街でも他にはない本ばかりを置くような店を昔からずっとやっている。…何を隠そう俺が初めてフェニックスと出会ったのも、ユリウスと出会ったのもここの書店が始まりなのだ。
だから、俺にとっては父さんとの思い出もいっぱい詰まってるし、……とてもかけがえのない大事な店で、このおばちゃんも大切な人の一人だ。
「あ、おばちゃん風邪治った?この前風邪声だったじゃん。、…あ、はい。これ、 。柚子。……さっきそこで売ってた。」
すり潰してお湯に入れて飲んでよ。と付け加えながら本当にさっき駅の近くで買った柚子(5個入り380円)をおばちゃんに渡す。
「…ったくあんたはいつもばばあ扱いだね、。…… めんどくさい仕事ふやしやがって、…。」
「してないって。すり潰すくらいやってよ笑、。あぁ別に柚子酒でもいいんじゃない?…でもそれじゃあ風邪予防になんねぇか、。…まぁどうでもいいけど、。でもまぁ本当に病気にだけは気をつけてよ。俺、おばちゃんに死なれたらユリウスよめなくなっちゃうもん。」
はははっと笑いながらそういう俺。
「……ふん、あんなの読む人間の気がしれないね、。……大体あんた以外読んでる人見たことないし、…わたしゃ、ユリウスなんて大っ嫌い。」
「……またぁ、そんなこといってー。……嫌いなら売ってくれればいいじゃんー、……、なんてね?ここ以外に世界のどこにあるかも分からない貴重な本を手放す訳ないよね?」
俺はそう言ってもう一度おばちゃんに笑いかける。
そう、…さっきもいったけどおばちゃんはたまにしか本を売らない。
俺も今まで何冊かは買わせてもらったけど、何回も売ってくれと懇願したフェニックスやユリウスの本は絶対に売ってくれないのだ。
ユリウスの本は希少価値がすごいから。だから売ってくれない。確かにそれも一理ある。
ーーー……でも多分、おばちゃんの本当の理由は、もしユリウスを売ってしまったら俺がここにもう来なくなってしまうのではないか、と思ってるから。
実際にはそんな事ないし、もしユリウスがなくても俺はここに来ると思うけど、……でもおばちゃんはそれを恐れて売ってくれない。
あんなに普段はツンケンしてて、俺も俺でおばちゃんには悪態もつくけど、それでも俺とおばちゃんはこのユリウスで繋がってて、そしてちゃんとそれぞれお互いの事を思っている。
おばちゃんにとっても俺は多分子供のような存在で、俺にとってもおばちゃんは親のような存在で、そういう大切な関係なのだ。
だから、なんでも言い合える。
「……、あれ、基。……そのお坊ちゃんは、?」
そんな事を思ってるとおばちゃんが俺の後方に視線を向けながら眉を上げてそう言った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
58 / 130