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ユキツネさんにしおりをはさみました!
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ユキツネさん
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「……あ、あなた、えっと、神社の……?」
そこに立っていたのは、神社で僕の背中をさすってくれた男の人、と……
「ウェーイ、さっきぶりぃぃ!! 覚えてるー?」
あの、茜色の狐さんだ。
質問されたのでガクガクと頭を縦に揺らした。
「あはは、忘れられてたかと思ったじゃぁ~ん」
「あ、いえ……わ、忘れません……」
茜色の狐さんとしどろもどろになりながら会話を交わしていると、綺麗な男の人はわざとらしく咳払いをした。
それを聞いて茜色の狐さんはプルプルと肩を震わせ下を向く。
笑いを堪えているらしい。
それを見て綺麗な人は、茜色の狐さんの背中を思いきり肘で突いた。
そして、僕の方を見てくる。
……狐さん、すごく苦しそうだけど大丈夫なんだろうか……
「このバカが迷惑をかけてすまない。
……私は今日からお前の世話をするものだ。 宜しくな」
綺麗な人がバカ、を強調してそう言った。
その瞬間、悶えていた狐さんがバッと顔を上げる。
「えー!? 僕は迷惑なんてかけてないからね!?
寧ろ迷惑かけてるのはお前の方じゃないの!?」
「黙れ下僕が。
俺はこいつを助けたんだよ。 こいつが連れだしてほしいって願ったから叶えたの。
お前と一緒にすんな」
綺麗な人は狐さんを睨むが、狐さんはわざとらしく僕の方に寄ってきて、
「僕椿っていいまーす☆ 気軽に椿ちゃんって呼んで? ちなみに見ての通り狐でーす、宜しくぅ!」
なんて自己紹介を始めた。
なんとなく僕もやらないといけないのかな、って思って口を開く。
「ぼ、僕は赤坂 零……ゼロって書いてれいって読みます……」
そんな僕を綺麗な人はなにも言わずに見ていた。
狐さ……椿さんはべっと顔をしかめて、
「アイツ、めっちゃ感じ悪いねぇ……自己紹介も説明もしないつもりかねぇ……
ねぇちょっと、お前がいかに変人奇人か僕が話すよ!? いいのかよジジイ!!
そして僕が世話係を引き受けて零ちゃんと末永く幸せに暮らすよ!?いいの!?」
僕に耳打ちしてから、綺麗な人に大声で言い付けた。
綺麗な人はムスッとした顔をして、
「黙れ阻害」
とだけ言った。
それから僕の方に向き直し、
「私は狐だ。……呼び名は好きなようにすればいい。
お前をここに連れてきたのは私だ。
……別にお前の願いを忠実に叶えただけだぞ。 変な誤解はするな」
と、よく意味の分からないことを言った。
……願い? 僕、狐や鬼に会いたいって願ったんだろうか?
「……ほら、神社で願ったろ。 逃げたいって」
「……ぁ」
ちょっとだけ、この人の言うことが理解出来た。
願いって、多分神社で僕が〈連れだして〉って思ったことだ。
それを理解すると同時に、一気に頭が覚醒する。
ーーこんな所にいちゃだめだ!
今頃家族は怒り狂っているだろう。
僕は僕の分際でなんてことをしてしまったんだ!
「あああああの、僕、僕、帰らなきゃ……!
ここはどこなんですか!? えぇぇぇぇぇっと、神社までどれくらいですか!?」
「え、なに、帰りたいの? もうちょっとゆっくりしていこう? 大丈夫だから、落ち着いて」
いきなり慌てだした僕を椿さんがなだめてくれているが、僕は軽くパニックで、〈帰らなきゃ〉としか考えられなくなっていた。
そんな僕を、綺麗な狐さんは
「帰さない」
と一蹴した。
「……えっと、でも、あの、僕、帰らなきゃ……おこられます」
「震えてただろ」
「え?」
「お前、私と会った時震えてただろ」
「…………それが、どうか、したんですか」
綺麗な狐さんは僕の肩にそっと手を置く。
情けなくもビクッと体が強ばる。
綺麗な狐さんは僕と目を合わせる。
綺麗な狐さんの綺麗な目に僕が映った。
「……今も、お前は震えてる。
そんな姿二回も見せられて、ほいほい帰せないだろ。
それに、ここはお前が思っている様な所じゃない。 簡単には帰れない」
「……は、い」
“帰さない”そう言われて、安心している僕がいた。
僕は、悪い子だ。
「……ぼくは、ここで暮らすんですか」
でも、もう少しだけ、
「ああ。 なんだか申し訳ないが、ここでしばらく生活してもらう。
……詳しいことはまた説明する。 今日はもう寝た方がいい」
悪い子でいてもいいですか?
「あ、えと、また、今度? 椿さんと……」
別れ際、少し言葉に詰まった。
そういえば綺麗な狐さんの名前、教えてもらってない……!
……あ、でも好きに呼べって言ってたっけ。
えーと、えーと……
「……えっと、椿さんと……ユキツネさん。 ユキツネさん、さようなら」
そう言って軽く手をふる。
(さっきから椿さんが腕がもげるような勢いで手を振ってくれているのだ。 大袈裟な人だ)
「……ユキツネ、か」
ユキツネさんは、目をただ細めて文句も何も言わなかった。
これからは、ユキツネさんと呼んでいいのだろうか……
判断に苦しむ。
「じゃあ、バイバイ零ちゃん!! またすぐに来るよ!! ゆっくり休んでね!」
まあいいか。
今はとりあえず寝よう。
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