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僕は生まれた時から責任を背負って来た。
将来、父の仕事を継ぐ事は生まれる前から決まっていた。
学校の勉強も一番で当たり前。
人の上に立つには人以上の能力を有していて当たり前。
そう、この学校に入学するまでは思っていたのに。
タチバナユキ。
白い肌に涼やかな目元、すっきりとした鼻筋にどこか色を匂わせる唇。
今まで塾でも名を聞いた事の無い男が新入生代表に選ばれていた。
悔しかった。
代表挨拶は首席が行う決まりだ。
僕は、生まれて初めて、誇っていた学力で、負けたのだ。
呆然とした1日はあっという間に過ぎていった。
途中、担任から生徒会入りを打診され縋り付いた。
海石榴高校の生徒会長は襲名制だ。
選挙では無く現生徒会長が次を決め役職を与える。
一年生で補佐として入れれば他の生徒よりもずっと生徒会長が近付くのだ。
父から生徒会長になって当たり前だと言われたのはつい最近だ。
でも言われて当たり前だと思っていた。
将来を考えて組織を率いる経験はしなくてはならないと僕自身そう考えていた。
教室でのオリエンテーションが終わり担任から言われた通り別棟の四階へ向かった。
生徒会室へ向かう階段を上り四階へ足を踏み入れる。
一歩足を前に出そうとした時どこからか賑やかな声が響いてきた。
その声を聴いて、なぜか取り残されたような気持ちが湧いた。
逃げるように足を踏み出した。
階段から右手に生徒会室はあった。
扉を軽く叩く。
中からはーい、と愛想の良い声が聞こえ入室を促した。
「失礼します。
一年S組、御堂院 尊です。」
『ようこそ、生徒会へ。
補佐の御堂院くんだね。』
にこりと声と同じく愛想の良い笑顔で生徒会長が出迎えた。
生徒会室には会長だけが居た。
少し吊り上がった目元に皺を寄せ満面の笑顔で出迎えてくれた会長は静かに立ち上がり僕に近付いた。
『今日は特にみんなの仕事は無いんだ。
俺だけ御堂院くんの挨拶って事で残ってた。』
「そうなんですね、わざわざ済みません。」
『いやいや、これも俺の仕事だからね。』
笑顔を絶やさずに返答する会長にソファへ促される。
腰掛けると対面に会長が腰を下ろした。
『それでね、補佐とはいえ生徒会に就任する事になるから授業免除とか色々特典が付くのを前提に仕事をしてもらう事になるよ。
一応みんなは放課後メインで動いてるけど、俺とかは授業中も昼休みとかも仕事してたりするからそこは自分のペースで任せるね。』
会長が簡潔に仕事内容を説明してくれるが話は分かりやすく、こちらの目を見て理解しているかを確認しながら進めてくれた。
人の上に立つというのはこういう事なのだろう。
話に相槌を打ちながらふと頭に考えが過った。
『今日は説明だけだからこれで終わりなんだけど、明日の放課後全員集めるから挨拶して貰うね。
何かわからない事有ったら俺に聞いてね。
連絡先、一応教えておこうか?』
「あ、はい。
お願いします。」
有難い申し出に直ぐに了承した。
連絡先を交換し終えると生徒会室の電話が鳴り始めた。
会長は電話まで向かい一層目元を緩め僕に挨拶をする。
『御堂院くん、今日はこれで終わりね。
じゃあまた明日。』
「はい、ありがとうございました。」
頭を下げ退出する。
閉まる扉からは会長が兄さん、と呼ぶ優しげな声が漏れ聞こえた。
息を吐きエレベーターへ向かう。
下ボタンを押すと数秒後、扉が開かれた。
扉が開くと同時に顔を上げると中に数人が乗り込んでおり一番目の前に担任の教師が乗り込んで居た。
「あ…、済みません。
どうぞ、次乗りますので。」
先に行ってもらおうと言葉を掛けると担任の腕が僕に伸びがっちりと掴まれた。
え、と思う間もなくエレベーターに引き摺り込まれ僕の後ろで扉が閉まっていった。
『御堂院、生徒会はもう終わったんだ?』
「っ!
…はい、今日は会長とご挨拶だけさせて頂きました。」
抱き込まれるように引き寄せられた僕の耳元で担任が口を開く。
ばっ、と勢いよく身体を離しなんとか返答を口にした。
『そうか、御堂院は寮だったよな。
生徒会って寮の部屋一人部屋だから説明とかあんだよね。
一旦職員室寄れる?』
僕の焦りなど毛頭気にしていない様子の担任は一人で淡々と話を進めていた。
困惑する僕に新たな声が掛かる。
視線を移すとそこにはステージで見た理事長が居た。
『御堂院くん、授業とも両立が必要だし大変だろうけど宜しくね。』
柔らかな表情で言葉を掛ける理事長にほっとしたのも束の間、理事長のその腕に抱かれるタチバナユキが目に入ってしまった。
すう、と胸が冷えた感じがした。
「ご心配ありがとうございます。
会長もお優しい方でしたし、精一杯務めさせて頂きます。」
出した声音は冷ややかにエレベーター内に響いた。
反転させた身体は真っ直ぐ扉を見詰める。
談笑する声に一人取り残された気分になった。
『親父さん達から入学祝い届いてるそうだよ。』
父からの贈り物なんていつから貰ってないんだろう、そう考えた時エレベーターの扉が開いた。
「先生、行きましょう。」
言葉と共に窮屈な空間から足を踏み出した。
足早に職員室へ向かう僕に深い溜息が届いた。
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