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エンディング(5)ーシンとヤスにしおりをはさみました!
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エンディング(5)ーシンとヤス
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さらに数日後
side:シン
ゲームが終わってからしばらく経った。
ヤスのことを見捨てて、ショウヤのことは傷つけたままで、2人とはそれっきりだ。連絡先もわからないし、今どうしているのかも知らない。
…結局、その程度の関係だったんだろうか。ゲームが終わったら、もう会うこともできない。
ともかく俺は、すっかり日常に戻っていた。
基本的にぶらぶらしていて、たまに宝くじを買い、時々危険なにおいがする高収入バイトに参加し、ちゃくちゃくと貯金を増やしていく生活だ。
そう。俺が好きなのはこういう暮らしだ。恋とか愛とかゲイとかそういうのは置いといて、そもそも俺はただお金を増やしたかったんだ。
やっと原点に戻ったんだ。
でも…元に戻ったはずなのに、気持ちが元に戻らない。
心のどこかで、ヤスのことが気になってしまう。
あんなやつ、これ以上関わらない方がいい。忘れた方がいい。…そう思ってはいるんだけど。
そんなことを考えていた新薬被験者バイトからの帰り道、あまり会いたくない人に会ってしまった。
「やあ!シンくん。久しぶりだね」
…透だ。相変わらずの考えの読めない笑顔で、俺に手を振っている。
「帰れ」
「一言目にそれはひどいなー!」
「お前は嫌いだ」
「二言目もひどい!僕は用があって来てるのに」
「じゃあ何の用だ」
何を言っても余裕そうな透にイライラしていると、透は楽しそうな表情を浮かべ、さらにそれにイライラする。
「僕はシンくんの願いごとを聞きにきたんだ。ほら、シンくんはゲームに勝ったから、賞品として願いごとを1つ叶えてもらえるんだよ」
「ああ…そんなのもあったっけ」
願いごと…そんなの特に思いつかない。何が欲しいというわけでもない。ヤスを手に入れたいと思っていたはずだけど…今はよくわからない。それに、どんな力を使っても、あのヤスを変えるなんて無理のような気がする。
「…願いごとって、なんでもいいんだよな?」
「うん!なんでも叶う石だからね」
「じゃあ、もう俺には関わらないでくれ」
「ん?」
「お前も村木も洋子もあの園児も、今後一切俺に近づかないでくれ。縁を切りたい」
「ええー!じゃあ次にゲームをするとき、誰にゲイをやってもらえばいいのさ」
「それが嫌だから関わるなって言ってるんだよ。…ヤスとヤスの彼氏のうちの誰かに頼めばいいだろ」
「うーん、ヤスくんにはもう頼めないからなぁ」
「…え?ヤスに何かあったのか?」
頭の中に次々と悪い想像が浮かんでくる。嫉妬に狂った恋人に崖から突き落とされるヤス。不倫相手の正妻に刺されて血をドクドクと流すヤス。
「ふふっ。僕たちは縁を切るんでしょ?もう口ききませーん」
「おい!子どもかよ」
得意げに言い放つ透に心底呆れる。
「願いごとはちゃんと叶えるからね!…最後に1つ、今度は僕からお願いがあるんだけど、あと5分くらいそこで立っていてくれない?」
「は?どういうことだよ」
「じゃ、バイバイ」
それだけ言い残して、透は煙のように消えてしまった。
ヤスに何があったんだろう。「ヤスくんには頼めない」って、やっぱり死んだってことか?それとも、前みたいに入院中…?
…って、だめだ。どうしても俺は、ヤスが気になってしまうみたいだ。
あんなやつ、気にしない方がいい。忘れた方がいい。
願いごとを聞かれたとき、そう考えて透たちやゲームとのつながりを断ち切ったはずなのに。
なのに結局…何かを期待して、透に従ってその場に立ったままでいる。
このまま待っていたら、ヤスが来てくれるんじゃないか…なんて。
心の中が矛盾しまくっていて、自分がどうしたいのかよくわからない。
全く悪びれずに浮気をして、開き直ってごまかして、変なゲームに参加させて、理解できない理由でショウヤを襲って。
嫌いだ、そんなやつ。大嫌いだ。
…嫌いになりたい。
ふと時計を見ると、そろそろ5分経つころだった。
秒針が12まで行ったら帰ろう。
5、4、3、2、1…
「あ、シン!待っててくれたんだな」
聞き覚えのある声に顔を上げると、遠くからヤスが歩いてくるのが見えた。
…結局俺は、1時間もその場に突っ立って待ってしまった。
何が5分だ。何が5分だ!!
「お前、5分で来るんじゃなかったのかよ…って、え?どうしたんだ、それ…」
近くに来たヤスを改めて見ると、体のあちこちに傷ができていた。しかし本人は、へらっと笑って聞き返してきた。
「ちょっと殴られちゃって。5分ってなんのこと?俺、ついさっき透さんにシンの居場所を聞いて来たんだけど」
「はああ?…ああ、そう」
きっと俺に対する透の嫌がらせだな。器の小さい男だ。
「…何の用で俺の所に?」
「謝りたくって」
「え?な…何を?」
謝罪される心当たりはたくさんあるけど、ヤスが謝りそうなことなんて思いつかない。罪悪感とか、無縁そうに見えていたから。
「全部だよ」
「全部?」
「俺、シンに対して謝りたいことばっかりだよ。最初にレイプしたこと、好きだって言ったのに浮気したこと、人狼ゲームに参加させたこと、それから」
「待って」
俺がそう言うと、ヤスは素直に静かになり、俺の顔を見つめた。
「何が目的なんだ?」
「…え?」
「急に謝るなんておかしいぞ。何か目的があるんだろ」
「うーん、目的かぁ…」
ヤスはしばらく首を傾げていたが、真顔で言い切った。
「ひどいことをしたら、謝るのは当然だろ?俺はシンに謝りたいから謝るんだ」
「はああ?なんだよそれ。今までの態度と全然違うじゃないか。どうして急に反省したんだよ」
「いやむしろ、俺は過去の自分がよくわからないよ。大好きな人に対してあんなことしたなんて、本当最低だと思う。ごめん。そしてありがとう。こんな最低な俺と付き合ってくれて。色々我慢してくれて」
「え、ええ…?」
一体どうしたんだ。この後自殺でもするんだろうか。
そんな推測は、ヤスの次の言葉で覆された。
「本当は俺なんて、シンの前から姿を消すべきなんだろうけど…お願いがあるんだ。俺ともう一回、新たな気持ちで付き合ってほしい」
そう言ってヤスは頭を深く下げた。
「シンのこと、本気で好きなんだ。絶対ちゃんとするから、そばにいさせてほしい」
好きという言葉に、不覚にもドキッとしてしまった。
いや、でも、何かが変だ。まともなことしか言わないヤスは、なんだか気持ち悪い。
「俺と付き合うって…じゃあ、他の恋人はどうなるんだ?みんな大好きって言ってたよな…?」
「俺が好きなのはシンだけだよ」
またしてもドキッとしてしまった。これはまずい。正常な判断力が奪われる。
「他の恋人とは、さっき全員別れてきたんだ。だからちょっと、殴られちゃったんだけど」
「そ、それでその怪我…」
「いや、この怪我はほとんどショウヤだよ」
「…え?ショウヤに会ったのか?」
「うん。ショウヤに会って謝ったら、タコ殴りにされちゃった」
「そ…それで?ショウヤは何て?」
「シンをよろしくって」
「………」
「っていうのはさすがに嘘なんだけど」
「嘘かよ」
急に力が抜けてしまった。
真面目な話かと思ったら、なんだ突然。
…でも、これがヤスだよな。これが、俺が好きになったヤスなんだ。
「…いいよ」
俺はため息をついてそう言った。
「もういいよ。付き合う、付き合う」
「え、いいの?」
「相変わらずヤスは何考えてるのかよくわかんないけど、そういうところも好きだって思ってたし。俺だけと付き合ってくれたらいいのにってずっと思ってたんだし。これで願いが叶ったってことだよな」
「今までのこと…許してくれるの?」
「許さないよ。でも、ああいうところも含めて俺はヤスが好きだったんだよ、きっと。だから何をされても本当に嫌いにはなれなかったし、別れたいとも言えなかった」
「…そうなんだ」
「すぐ浮気するとこも、そのくせたまに妙な独占欲を発揮するとこも、全部まとめて好きになってあげるから、これからちゃんと付き合おう。そんな風に、無理に変わらなくてもいいよ。なんか今のヤス、気味が悪い」
「……そっか」
ヤスは俯いていて、表情がよくわからない。
「…俺、もう浮気したいなんて思わないよ」
「そう思ってるの、きっと今だけだぞ。浮気は繰り返すものらしい」
「本当に、これっぽっちも思わない…思えない…」
「ヤス」
俺はヤスの顎を掴み、俺の目線まで顔を上げさせた。
「この先ヤスがどんなことをしても、俺はヤスのことが好きだよ。だから、安心しろ」
そう言って、ヤスの返事を待たずにキスをした。
『ありがとう…』
そんな声が、どこか遠くから聞こえた気がした。
〜終わり〜
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