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無料体験から1週間以内に登録すると、入会金無料にしてくれるらしい。
「つっても、金曜の晩しか来られそうにねーからなぁ……」
飲み会は減らせても、残業は多分減らせねぇ。人手不足ってのもあるし、習慣でもあるし。
そう考えると、やっぱ週1のコースしかねーんだろうか。そうぼやくと、暑苦しいスタッフが「朝はどうですか?」とハキハキ言った。
どうやら、出勤前に一汗流してくリーマンも多いんだとか。
タイムカレンダーを見ると、確かに6時から11時までって書いてあって、改めて感心した。定休日は月1回だっつーし、多分シフト制で回してんだろうけど、なかなか大変そうだ。
11時までやってんなら、残業の後でも来れなくはねぇ。ただ、その体力があればって話になるけどな。
「朝でも土日でも、気が向いたときにご利用になれる、ジムフリーコースもございますので。どうぞご検討ください」
ハキハキしたセールストークに「そうっスね」とうなずく。
最初に計った数値の表や、トレーニングメニュー案なんかの用紙を貰い、入会申込書を渡されて、体験トレーニングは終わった。
入会はもう悩んでなかったけど、週1にするかフリーコースにするかでちょっと悩む。
七瀬はいついるんだろう? いつ、いねーんだろう?
ニアミスを避けてぇのか仕組みてぇのか、自分でも自分の気持ちが分かんねぇ。
女にちやほやされてる姿は、正直言うと見たくねぇ。けど、オレの知らねーとこでちやほやされてんじゃねーかって、そう思うとモヤッとする。
もう恋人でも何でもねーのに。
嫉妬する資格はねーんだと、分かってたけどイヤだった。
だが運の悪ぃことに、見たくねぇってモンに限って、そういう場面に出くわしちまったりするんだな。
トレーニング終了後、5階のシャワールームで汗を流し、着替えて受付のある3階まで階段を駆け降りてる途中――。
「あの、困ります」
すぐ下の踊り場から、そんな声が聞こえてギョッとした。
足を止めて耳を澄ますと、やっぱ七瀬の声みてーだ。誰かと一緒らしい。
「お客様との個人的なやりとりは、禁止されてますから……」
「そんな堅苦しく考えないで」
と、女の声が聞こえた。こっからは残念ながら顔が見えねぇ。でも、若い女だってのは声の調子で分かった。
どうやら女は、七瀬にプレゼントか何かを押し付けてるらしい。
「時々使ってくれるだけでいいの。付き合いたいとか、そう言うんじゃないから。安心して」
そんな声と共に、シャカシャカと包装紙のこすれる音がする。
「七瀬君、格好いいから。いろんな人からプレゼント貰うでしょ?」
「そ、んなことは……」
しどろもどろのセリフは、ほとんど「Yes」って言ってるも同然で、妬く権利もねぇのにモヤッとした。
『そんないいモンじゃないですよ』
客との恋愛は禁止だ、と、あの暑苦しいスタッフが言ってたの思い出す。心底困ってる風な七瀬の声を聞いて、確かにいいモンじゃなさそうだなと思った。
とにかく、オレが聞いてていい話でもねーだろう。足音立てねぇよう、そっと階段を引き返し、エレベーターで3階に降りる。
受付で挨拶を済ませつつ、ぐるっとジムフロアを見回したけど、七瀬の姿は見えなかった。
帰りの電車に揺られながら、ケータイのアドレス帳を何気なく開く。
そこに登録されてるアイツのデータは、別れた5年前から変えてねぇ。でもホントは、もう住所も電話番号も、メールアドレスも以前とは違うんだろう。
変わってねぇのは名前と生年月日くらいなもので、このまま残しといても意味がねぇ。ハッキリ言ってメモリの無駄だ。
自分でも分かってんのに、今までズルズルと消せねーでいたのは、やっぱり未練があるってことなのかも知んねぇ。
さっさと謝ればよかったのに、なかなか踏ん切りがつかなかったせいで、このザマだ。
大学を卒業した後、今の部屋に引っ越す前に、実は1度、七瀬に連絡を入れてみたことがある。
「ウゼェ」って言うべきじゃなかった。謝りたかった。
けど、残念ながら謝ることはできなかった。メールは宛先不明で返され、ケータイにかけた電話は「現在使われておりません」と機械音声で拒否された。
どこに引っ越ししようと、アドレスや電話番号を変えようと、さすがに実家は変わってねーだろう。だから、ホントにその気があったら、七瀬の実家に連絡して、取り持って貰うこともできた。
共通の友人、高校時代のチームメイトにでも、事情を話して繋ぎを取って貰うことだってできた。
けど、オレはそれをしなかった。
ぽっきり心が折れたっつーか、連絡取ろうって気力を失くしたっつーか……もうそれ以上、傷付くのが怖かった。
以降はすっかり出不精になっちまって、ろくに運動もしねーまま今に至る。
残業残業、飲み会飲み会の毎日で、ようやくアイツのこと思い出さねーようになってきたのに。なんで再会しちまったんだろう。
ファイティングエクササイズのスタジオで、鏡越しに一瞬、目が合ったような気がしたけど。
アイツ、オレがいるのに気付いたかな?
まさか……太り過ぎて、ワカンネーってことはねーよな?
そう思うと急に不安になって、腹筋50回と背筋50回、スクワットと腕立て伏せも50回ずつ、アパートに帰ってからやってみた。
かなりキツかったけど、なんとかこなせてホッとする。明日は60回ずつに増やしてみようと思った。
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