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昼下がり。薄紅の花弁を惜しみなく広げた桜は、それはもう見事としか言いようが無いくらいに綺麗だった。家の畑に植えた桜となんて比べ物にならない。樹齢何百、下手したら四桁は生きているかもしれない。たった一本、たった一本なのに、堂々と誇らしげに花開く姿はまるで気品溢れる女性のようで、大和撫子を思わせる。儚く散る花弁もしかり。
「何、思いに耽っている」
ボーと桜の木の根元、上を見上げていると頭をコツンと小突かれた。
「いや、俺の生まれ故郷にも桜があったからさ。懐かしんでたんだよ」
「あそ」
自分から聞いたくせにすぐに興味をなくしたらしい魔王はホクホクとお弁当をつつく。普段、図体がでかくて可愛げがない魔王も食べ物を前にすると子どもになる。その姿に悪い気はしないため、微笑ましい光景だ、と眺めている。
桜の木の根元、聞こえるのは風に揺すられる地の草花と、木の上の花弁。他には何も聴こえない。本当に、今ここに俺たちしかいないんだと感じる。人の声も、物音もしない大自然の中、自分たちの小ささを感じさせられる。
このまま、この村で静かに過ごせればいいのに、と願うんだ。
そんな小さな願いさえも、決められた運命は叶えさせてくれないらしい。
花見からの帰路、僅かに胸がざわついたこと。
未だ存在する聖剣の気配が強くなったこと。
大地をくすぐる風が騒がしくなったこと。
自然が身を隠し始めたこと。
俺たちが村に戻ってきたときに、村人たちがこぞって集まっていたことから察した。何か起こったのだと。何かとはまさに、俺が感じ取った全てで……。
「ああ、良かった。ヒロさん、マオさん、実はですね……」
耳を疑った。疑いたかった。
「魔王が復活、したと……」
嘘だと知っている。魔王はここにいるから。
「勇者一行が再び魔王城へ向かったと」
破壊したはずの魔王城は再建されていた。
「英雄伝説は終わっていなかった」
どうしても終わらせたくば、本当に終わらせろといわんばかりの強引っぷり。
「いい加減やつをぶん殴りたくなるね」
運命というくそったれを。そして、英雄伝説を続けたがるバカやろうどもを。
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