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それって最高の口説き文句だね。(一カラ/壱ヒラ)3にしおりをはさみました!
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それって最高の口説き文句だね。(一カラ/壱ヒラ)3
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壱の甘い歌声に、さっきの言葉が重なった。
ライブに来てほしい。そう言っていたが。
実は、休みを取ろうと考えた事はない。ライブに行こうと思わないからだ。
酷いやつだとは思う。悪いとも思っている。でも、行きたくなかった。
だって、行ってしまったら。否応なしに目にするじゃないか。
彼の立っている輝かしいステージだとか。それを食い入るように見つめる、大勢のファンの子たちとか。
それをただ、離れた所から見る事しかできない、自分の立ち位置だとか。見たくなくて顔を背けていたものが、全て見えてしまう。
そうしたら、俺はどうしたらいいんだ。
きっと辛くなる。壱はこれから先、未来のある青年だ。一方の俺は、彼が言うようにただの社畜。それもまともな会社じゃない、過労でぶっ倒れるのが当たり前なブラック中のブラックな会社に勤めている。10連勤以上もざらじゃないし、もちろん残業代なんか出やしない。色んな意味でヤバい会社だ。
そんな俺が彼と一緒にいるっていうのは、どういう事なんだろう?
少なくとも壱にとっていい事だとは思えない。
今まで、別れようと何度言おうとしたか。
さぁ今日こそと意気込んで、玄関のドアを開けて。
そして、壱の顔を見て……言葉を飲み込む。
漆黒に紫の星を散りばめた壱の瞳は俺しか映しだしていなくて、他の何物も見てはいなかった。
無表情な仮面をつけているはずの彼は、俺と顔を合わせる時に必ずそれを外す。
目を細めて、嬉しそうに。ただいまカラ松と笑ってみせる。
そんな顔、反則だ。そんな風にされて俺が。お前の事が心底好きな俺から、終わりのセリフなんか言える訳ない。
せっかく、いっぱい練習したのに。最後だからかっこよく去りたいと、一生懸命何日もかけてクールなセリフを考えてたのになぁ。くそ、時間が無駄になったから責任とってほしいよ。
思っている事の一言も言えずに、俺は壱を部屋に入れた。仕方なかったんだ。今すぐに抱きしめてほしくなってしまったんだから。
その日は結局、別れようのわの字も口にできなかった。
今は、別れを告げるのを諦めている。それでも、そういう悩みがなくなった訳じゃない。やっぱり別れた方が壱にとってはいいんじゃないかという不安は留まることを知らない。
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