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51にしおりをはさみました!
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隣にはぐいぐい迫ってくる茶髪女、向かいには笑って怒る黒い恋人。挙動不審を極める俺に、それまで様子を窺っていた幸が寄ってきて耳打ちしてくる。
「ウサマル、あのイケメン誰なん?歩とお前の知り合いなんはわかるけど」
「あ……あの人は」
俺たちの元担任で、歩のお兄ちゃんで「実はリカちゃんって彼女じゃなくて彼氏だったんだよ」到底言えない言葉を飲み込む。
けれど、ここで俺が変にごまかせばリカちゃんは確実に気づくし、それは色んな意味で死ぬ。
リカちゃんを試したくてついた嘘が、自分自身に降りかかる。
男を恋人だなんて言ったら、俺は週明けから大学でホモだと後ろ指をさされる……でも嘘をついたらリカちゃんを怒らせる。
こんなことになるなら、リカちゃんのお父さんの言葉なんかに振り回されず本人に聞けばよかった。今さら遅い後悔をしても無意味で、みんなが俺の答えを待つ。
今すぐこの場から逃げたい。
急いで帰ってベッドに潜り込んで、何事もなかったかのように朝を迎えて…なんなら記憶がないふりをしてしまいたいけれど、それは絶対に叶わないだろう。
もうどこにも逃げ場はなくて、俺は目を瞑った。すると目の前から、それはそれは深いため息が落とされる。
「歩は俺の弟」
俺の代わりにリカちゃんが答えてくれる。閉じていた瞼を開けると、呆れきったリカちゃんが俺を見て、次に幸を見る。
「弟がドタキャンした挙句、その代打が俺みたいな場違いでごめんな」
最後の「ごめん」はみんなに対してだった。それに女が一声に首を振り、リカちゃんに詰め寄る。
さっきまで俺の隣に張り付いていたはずの茶髪女でさえ、身を乗り出してリカちゃんに近づいていた。その身の返し方が早すぎてもっと女が嫌いになりそうだ。
捕まったリカちゃんは質問攻めにあっていて、俺と幸は完全に放置される。
「うわぁ…歩の兄ちゃん餌食やん。歩も整ってる方やけど、上には上がおったわ」
俺に同意を求める幸に曖昧に頷くしかできない。否定するのもおかしな話だし、けれど肯定したところをリカちゃん本人に見られたくなからだ。
でも、そんな心配は無用だったようで、リカちゃんは女の対応に追われて俺のことなんか見えていない。
次から次へとくる質問をかわしつつ、笑顔で受け流す。その様子があまりにも自然で、ホストの幸でさえ感心するほどだ。
「女の子の食いつきやばいな。ウサマル、どんな人か教えてや」
「なんで俺が?」
「なんでって、どう見てもアレ抜け出せんやろ」
幸がアレと指さす正面には、愛想よく受け答えを繰り返すリカちゃんがいる。
せっかくピンチを乗り越えても、すぐまた次が来る。リカちゃんは今度は助けてくれそうにもなく、俺は1人で切り抜けなきゃいけない。
「歩の兄ちゃんってことは牛島やろ?牛島何さん?」
「……牛島あき、よし?」
「なんで疑問形なん。言い慣れてない感すごいな」
俺から視線をそらした幸は、やっと落ち着いたらしいリカちゃんに話しかける。
「綺麗な顔してんのに名前は男っぽいんですね。何歳なんですか?」
訊ねた幸にリカちゃんは先生モードの時の笑顔を見せた。久しぶりに見るその顔が今はとにかく怖いのは、リカちゃんの一挙一動で俺のこの先が決まるからだ。
ここにいるのは、みんな20歳前後でリカちゃんより遥かに年下ばかり。どう考えてもおかしな年齢差だけれど、それよりもおかしいのがリカちゃんだ。
年を聞かれたリカちゃんは、躊躇することなく口を開く。
「25歳。若く見えるよう気は遣ってみたんだけど、やっぱり大学生には負けるね」
リカちゃんの口から出たのは、明らかに嘘の年齢だった。さすがにバレるだろ、と頭を抱える俺の隣で幸が「ええ?!」と大声を出す。
ほらやっぱり……そう思った俺だったけれど、忘れていたことがある。
リカちゃんは変態で俺様でドSの上にアレだってことを。
「俺より2、3こ上ぐらいやと思ってた……牛島家って大人っぽく見えるんですかね」
まさかの嘘よりも年下の感想がきて、リカちゃんの口元が引き攣る。こんなところでリカちゃんの童顔が役に立つなんて、やっぱりリカちゃんはおかしい。
ふざけているとしか思えない動物の靴下も可愛いと言われ、そのギャップで、既に輪にとけこんでいるリカちゃんはどう考えてもおかしい。
おかしいところだらけのリカちゃんは、幸に向かって「ありがとう」と笑顔で返した。
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