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「痛いわ…心と腰が痛くて堪らない」
ソファにうつ伏せになる桃の腰に湿布を貼ってやり、俺はダイニングで椅子に座って仏頂面を浮かべる男を振り返った。
「なんでそんなに機嫌悪いんだよ」
「なんでだと?」
「桃に騙されたから?
それとも何ともなくて安心してる自分がいるからか?」
様子のおかしい豊を問い詰める為の作戦に、まんまと引っかかった大きな男が俺を睨む。
俺たちが豊の家に行っても門前払いされるのはわかっている。それなら向こうから来させればいい。
「豊も桃に甘いよな。具合悪くて早退したって言ったら様子見に来るんだから」
「もう二度と来ない。うるさくて迷惑なだけじゃなく、嘘までつくなんて救いようがない」
嘘つき呼ばわりされた桃が非難の声を上げた。
「これは全部リカの作戦よ!あたしは言われた通りにしただけでっ」
「黙れ。今度は腰じゃなく前を蹴るからな」
豊の言葉と鋭い視線を受けた桃は口を尖らせ、拗ねたように黙ってしまう。
本当にこの2人は昔からちっとも変わらない。
文句を言いつつも、豊が桃を放っておけないのはみんなが知っている。それは学生時代も社会人になってからも同じだ。
「こうやって強引に呼び出された理由わかるだろ?」
「ちっとも心当たりがない」
本人は何を考えてるかバレていないつもりだが、それは違う。親しくなればわかることだが、豊はわかりやすい。
元々が無表情な分、些細な変化が顕著に出る。今だって眉間にこれでもかと皺が寄ってるし俺を見ようとしないからな。
「約束は急にドタキャン。その理由もよくわかんねぇ事だし連絡しても音信不通。
お前さ、昔からどんな内容でも絶対に返事してくる癖があんの知らないのか?」
律儀な豊は返事だけでも必ず連絡を寄越す。それが今回は真逆だった。
いきなり約束を断ってきたかと思ったら返事を返さないどころか電話にも出なかった。
何かあったんだって気付かない方がおかしい。
「うちの豊君はわかりやすくて助かるねぇ」
いつもは俺の上にある豊の目が悔しがるように揺れる。ウサギや歩をからかう時とは違う満足感に自然と笑みが零れた。
「リカ…その顔、あんた本当に性格悪いわ」
「むしろ最近更に悪くなった気がする。そのうち捕まるんじゃないか」
「性格悪いだけで捕まってたら世の中犯罪者だらけだろ。
仮にそうなったら俺はウサギ連れて逃げる」
っていう冗談は置いておいてだな。
わかりやすいくせに隠そうとするのはいただけない。
普段が落ち着いてる分、豊が落ちた時は厄介だ。
前にもこうなって殻に籠った時がある。あの頃は俺は留学していて後から話を聞いただけで何もしてやれなかった。でも今回は違う。
「鳥飼が関係してんだろ?」
「……ウサギ君に聞いたのか」
「いいや。アイツが歩と電話してんの聞こえて俺なりに推理してみただけ」
ウサギは秘密をバラしたりしないし、俺も無理に聞いたりしない。
俺の力が必要なら自分で言ってくるタイプだ。そのくせ自分のこととなると黙り込むから…ちょっと揉めたけど。
数日前のウサギとのやりとりを思い出し失笑が出た。それをバカにされたと勘違いしたのだろう、豊がより凶悪な顔になる。
「別にお前たちに関係ない」
「それなら普段通りにしてくんない?あからさまに態度に出しといて気にするなって方が無理に決まってるだろ」
「俺に構わないでくれ。自分のことは自分で出来る」
なぜこうも俺の周りには頑固で面倒くさいヤツが集まるんだろう。自分じゃどうしようもできないのに、自分1人でなんとかしようとする。
「気になるならしばらく放っておいてくれたらいい」
言い逃げるように立ち上がった豊に、身体を起こした桃が張り詰めた雰囲気をぶち壊す言葉をかける。
「あらそれは無理よ。だって行けなかったお店、来週に予約変更しちゃってるもの!それに今度は豊がご馳走してくれる番だし」
空気を読んでいないようで、おそらく読んでるはずの桃に俺は黙って2人のやり取りを見守ることにした。
「日頃子供たちに嘘はいけませんって教えてるのにダメよ。そんなんじゃ嘘つきうま先生って言いふらしちゃうんだから」
「桃。お前…」
「それよりも嘘つきムッツリうま先生の方がいいかしら?豊と言えばムッツリで有名だものね。
あ、でも語呂が良くないわ。いっそのことムッツリだけ残し………ぎゃっ!!!」
桃の顔面に豊の投げたコースターが当たる。
俺の目の前には鬼の形相をした友人と額を摩りながら目に涙を浮かべる友人。
「何すんのよ!」
「次はこれを投げるからな」
豊が手に取ったのはテーブルの上に置いてあったマグカップ。それを見た桃の顔が青ざめる。
「それ陶器よね?!死んじゃう、さすがのあたしも死んじゃうから!!」
いつものようにギャーギャー騒ぎ始める桃と、それに暴言を吐く豊を眺める。どうやら空気を読んでると思ったのは俺の勘違いらしい。
なんだか長引きそうな予感に、帰ったあとのウサギの恨めしそうな顔を想像した。
拗ねた慧君をどうやってご機嫌取りをしようか頭の中で考えつつ、騒ぐのをやめない2人の仲裁に入った。
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