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手の皮
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「面倒臭いな。僕が行くよ」
「はい。こちらです」
名残惜しく感じながら、夜見の口から指を抜いて、そのまま自分で咥える。
一通り唾液を舐めとって、綺麗な方の手で頬を摘まんだ。
「一緒に来る?寝てる?」
「ふゆ」
「ん、じゃあ立って。あ、伊集院」
「何でしょう」
「次にくる前にね」
「わかりました」
伊集院は楽で良い。みなまで言わなくても分かってくれる。可愛くはないけど。
都合よく身体が動き出した夜見に苦笑して、連れ立って部屋を出る。
伊集院が入ったのは、隣の部屋だった。
「ちゃんと言った通りにしてるね、助かるよ」
「どうぞ」
拷問するのに地下室なんて、貧乏人の発想だ。
僕はそう思う。
だってビルの最上階なんて、いくら騒いでも絶対聞こえないし、見えないし。
何よりこのビルにはエレベーターしかないから、居なくなったら電源落とせばそれだけで逃げられない。地下なんて、雰囲気が出るだけだ。まぁ、嫌いじゃないけど。
ゆったりと部屋の中にはいると、椅子に縛られた、顔に痣のある男がいた。
「んーっんーっ」
「喋らせていいよ」
「はい」
伊集院が男に近づき、口元のガムテープを剥がす。
「君、誰?」
「自分から名乗るのが礼儀じゃねぇのか?」
強気だな。まぁ、でも、それもそうか。
「これは失礼。僕は三神。三神凱史―みかみかいじ―。で、そちらは?」
「三神凱史…いきなりお出ましか」
ぼそりと、目の前の男が呟くのを聞いて、近場に会ったペンチを持って近づいた。
「ん、は?何だよ、おい」
「一回だけ許したから、今のでチャラね」
「何がだ」
「僕が君に礼を欠いた事。君の名前を僕は訊いてる。無視するのは失礼でしょ?」
「…俺は、あんたに訊きたい事が有って来た」
やっぱり、話が通じない人は嫌いだ。
ペンチをあてがう。
「俺はっ、話し合いをしに来たんだ!止めろ!」
僕の話を聞かない上に、止めろ、だって?
「とりあえず一枚目ね」
手の甲の皮を適当に挟んで、力任せに引っ張った。
みりみり、ぷちっ、びりりいりりりぃぃぃっ。
広い室内に声ともつかない絶叫がこだまして、夜見が僕の耳に手を添えてくれる。
「ありがとね。夜見はうるさくない?」
顔をしかめたまま、こくり、と頷く。健気だなぁ、ほんと、良い子。
僕もそっと夜見の耳元に手を添えてあげると、眉のしわが消えて、余計に可愛くなった。
暖かい手の向こうから聞こえていた雑音が小さくなったのを確認して、僕は男に向き直る。
「手の皮をむくって、良心的だよね。どうせまた出来るし、生活に支障が出ない」
「ふざ、けんな!ぃっ、つ、んの、糞ガキ!はぁ、く」
「ガキって言われてもね。君いくつ?僕三十くらいなんだけど、年上?」
「は?」
と、痛みを忘れたかのように男がぽかんと口を開けて、僕の顔をまじまじと見る。
嘘、だろ。とぼやいたのを、僕は訊き逃さなかった。
「あぁ、君、僕より年下なんだ。って事は最近入社したんだね、会社に。
後、取材の事を『話し合い』って呼ぶのはG社だけだから、このくらいで絞れるよね?」
「はい。すぐに」
伊集院がすかさずどこかへ連絡を取り始める。うん、優秀。
「さてと、持ち物チェックもしとくか…はぁ」
鞄の中身を見るまでも無く、溜息が出た。
「誰が見たの、これ」
その場に居た何人かの黒服にそう聞くと、直ぐには返答が無かった。
「おい、答えろ」
伊集院が援護射撃。ほんと、助かる。
するとその場に居た中で一番の年長者が、ゆっくりと手を上げた。
「私ですが」
「が。何?」
「はい?」
「私です、が。って事はさ、私です。だけど、って続くんでしょ?何?」
突っ込まれると思っていなかったのか、焦ったように言葉を紡ぐその男を見て、あぁ、そう言えば情報部の臨時班長か何かだった気がする、と思い至った。
「あ、そ、その。私が、見ましたけど、何か問題がありましたか?という、意味です」
「君さ、意味も無く部下の名前呼ぶの?」
「ぃ、いやそれは、そうですけ…呼びません」
「これ見て」
ばさっ、と、まずは手前にあった男の鞄を投げる。
「は、はい…えっと…あの。これが、何か」
「馬鹿だね。何でお前が班長なんかしてんの」
「そ、それは会議で決まって」
「一番歳が上だからって理由で、強引になったんでしょ?知ってるよ」
「じゃあ、最初から聞かないでください」
「別に訊いて無い。皮肉って知ってる?」
「私はただ、代表が仰ったことを手本にしただけです」
「どう手本にしたらそうなる訳…はぁ、まぁいいや。それで、他に分かる人居る?こいつに意見を無視されました、みたいな」
どうせ誰も、と思ったら、まさかの伊集院が手を上げた。
「もう、折角夜見に振ろうと思ったのに」
「それは失念していました。申し上げても?」
「良いよ」
「新しい品ですね。型も、物自体も」
「そう。つまり?」
「最近購入した」
「で?」
「この歳で、仕事用の鞄を買い直すとは考えにくい。つまり、最近記者になった」
「もっといけるね」
「はい。入社したばかりあれば、今度は、これほど質の良い靴や、スーツを着込んでいる事に違和
感が有ります」
「その調子その調子。中見ても良いよ」
「はい…成程」
「誰だった?」
「G社の御曹司です。そろそろ連絡も来ると思いますが、ほぼ間違いないかと」
「見せて…あぁ、うん。だね」
鞄の中に入っていたメモ用紙や万年筆を見て、僕も確信する。
「典型的な七光りの馬鹿息子じゃん。逆に何で分かんないかなぁ」
もう用事は済んだから、夜見に癒してもらうとしようかな。
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