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左の手の甲で、うつむき掛けた大志の右頬にそっと触れる。
「な…なにっ…?」
ビクッと驚いた大志の顔色は、少し赤みが戻ってきているようだ。
頬の冷たさも、先程の冷えた指先ほどではなくなっている。
「それで…?大志は、俺がどう思うと思ったんだ?」
「えっ?…どう、って…?」
「俺がため息をついたのが気になったんだろう?
今、それが嫌だって言ったじゃないか」
「そ…、それは…」
もごもごと、口ごもる。
胸の辺りまで引き上げて掛けていた俺のコートを
顎のあたりにまで持ち上げ、口元を隠すように顔をうずめている。
「俺が迎えに行かない方が、良かったか?」
大志からの着信があった後、折り返した電話先に応答しない事に焦ったのは事実だ。
迎えに行かないなんて判断は絶対にしなかったが
顔を会わせたくないと言われるなんて思わなかったからな。
それは、それで俺もあまり気持ちのいいものではないぞ。
「そんなっ…ことは、ない…」
口元を隠して俯きかける大志の横顔は、ほんのり色味が戻って。
なんと言葉にしたらよいのか、思案している様子に俺も安堵する。
もう、きっと大丈夫だな。
距離にして、そんなに遠い場所ではなかったのに
時間がかかってしまったのは事実だ。
連絡が取れなかった事は、俺自身も相当焦ったし
大事な仕事も、途中で放ってきてしまったのも大志の事があったから。
でも、もう…いいか。
大志と無事に会うことが出来た…。
「悪かった、な…。遅くなって…」
本当は、会ったら真っ先に言うはずだったんだぞ。
どんな顔するか、喜ぶか怒るか…泣くか。
楽しみにしていたんだがな~…。
「…!!違っ…。迷惑かけたのは、僕だし…」
俺の言葉に、慌て始める大志に。
「じゃぁ、言って?」
「へっ…?」
「大志から俺に。言う事あるだろぅ?」
言う事?…と首をこてんと傾けてしばらく黙った大志が
あっ!と口を開いて俺の方を向いた。
「正貴くんっ…。ありがとう…迎えに来てくれて…。
本当に、助かりました…」
ぺこり…と頭を下げる姿に、思わず苦笑してしまう。
「…え?なんで?…笑ってるの?」
思わず俺の口元から漏れた笑いに、大志が訝し気に見てくる。
「ん?飛びついてキスでもしてくるかな~って、思ったからな~」
「そっ!?そんな事っ!…するわけないでしょ~っ!!」
プリプリと怒りながら、口を尖らせている姿に笑みが止まらない。
それがまた腹が立つのか、俺がいる運転席とは逆の窓の外へとそっぽ向いてしまう。
「そうか~?遠慮しなくていいんだぞ~?」
「遠慮なんかしてませんっ!何考えてんですかっ!」
もうっ!と頬を膨らます大志の横顔が…可愛くて。
もっと弄ってやろうと…思ったら。
「…ぅ…ぇ…っ…。…ふぇ~ん…」
俺たちの声で目が覚めたのか、チャイルドシートの流大が泣き出した。
「あっ!流大っっ!!」
慌てて、後ろの座席へと移動する大志の姿に。
「おいおい…。俺との話は?」
「そんなん後で、ですっ」
俺には視線も向けずに、流大を抱き上げてあやしている。
「ふ~ん。後で、ねぇ…」
寝起きで機嫌の悪い流大が、必死に泣きながら大志にしがみ付いている。
しっかりと抱き上げ、背中を優しく摩る姿に。
心配しなくても、お前はちゃんと父親だよ。
悩むことなんか全くないんだって事に、早く気づけ。
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