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Encounter_1
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その日は、今年初の雪が降った日だった。
20代後半の男が雪が降って喜ぶ筈も無い。朝起きてベランダに積もる雪を見てはがっくりと肩を落とした。
小学生の頃は大抵雪が降ったら学校が休みになって、皆で雪だるまを作ったり雪合戦をしたりしてたが。…今は雪なんて電車を止まらせるわ、歩きにくいわ、スーツを汚すわ、大人達にとってはたまったもんじゃない。
しかも予想以上の大雪に結局思ったような仕事は出来なかった上に、7時くらいには家に着いている予定だったのに最寄り駅に帰って来れたのは10時だった。
「疲れた………」
公園で雪合戦をして遊ぶ親達と小学生くらいの年頃の子供達の眩しさに目を細めつつ横を通り過ぎ、ざっくざっくと雪を踏みしめながら家路を急ぐ。
幸い、明日は久しぶりの休みだ。どうせ呼び出されて休みも無くなる気もするが、取り敢えず遅くまで寝よう。
真っ直ぐ行くと少し遠い道を、近道をするため左に曲がって細い路地を通る。
少し長い路地、此処を抜けたらすぐに俺のマンションに着く。
だが灰色のコンクリートの壁に囲まれた路地は冷たい風が吹きこんでいて、寒さが心なしか増してる気もして。
無意識に足早に路地を歩いていた、その時だった。
「―――」
「……え?」
酷く掠れた声を、辛うじて拾っていた。
職業病か分からんが、酷く悲痛な声が確かに聞こえた気がして、俺は声のする方へ足を進めた。
「……なんだ、あれ」
声を辿ると、路地の少し先の端っこに、薄汚れた布の様なものが落ちている。灰色に雪化粧の様にまだらに白くなっていて、今にも雪に埋もれてしまいそうだった。
近付いて、しゃがみ込んで、――そんで後悔した。
それは、固く目を閉じた子猫だったのだ。
「可哀想に…」
無類の…では無いけど、実家で猫を飼っていた割と猫好きの俺にとっては大分ショッキングな出来事だった。
飢えて力尽きてしまったのか、鴉にでもつつかれたのか…よく見ると、子猫の周りの白い雪には点々と赤いものが付いている。多分身体中に傷があるのだろう。
せめて埋めてやろうと思い、鞄が汚れた時様に持って来ていた予備のタオルで子猫を抱き上げ包んでやる。
だが、冷たく凍っているかと思ったその子猫の身体は、とくとく、と僅かに脈打っていた。
「……!まだ生きてるな」
子猫の方も俺の存在に気付いたのか灰色の毛を少し震わせて、また一段と体を丸める。まだ、暖かい。
子猫に付いた雪をぱっぱと軽く手で払って、俺は鞄を持って家へと急いだ。
しっかりと子猫を落とさないよう胸に抱きながら。
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