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Encounter_6
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おにぎりの具は俺の大好きなおかかとツナだ。
俺は大きめの、少年には小さめのをそれぞれ一つずつ作ってソファ前のテーブルに置く。
少年は申し訳無さそうに、そしてまだ俺を警戒してるのかちらちらと俺を見上げながらそっとおにぎりを手に取った。
炊きたての米だから美味いはず。俺も帰ってきてから色々ごたついてたから、これが夕飯だ。
同じ具のおにぎりをがつがつと頬張ると、少年もそっと口を開いておにぎりを齧る。
尖った犬歯でほんの少しだけおにぎりを齧ってから、ゆっくりと咀嚼してはこくんと喉を鳴らして飲み込む。
美味しかったのか、徐々にひと口が大きくなっていってホッとした。やっぱり腹減ってたんだな。
「お前、名前は?
あ、俺は桜庭巽って言うんだけど」
おにぎりの最後の一口を放り込んでから簡単に自己紹介して、少年に聞き返す。
少年はまた耳を垂らして俯いてしまって、地雷踏んだかな…とまた頭を抱えそうになる。
だけど、少年はふるふると首を振って一言だけ、「名前、無いんです」と小さく答えた。
「……は…?」
「…皆は……付けてもらってたんですけど、俺だけ、番号で呼ばれてて……」
答える声は段々小さくなって、少年は俯いたまま何も言わなくなってしまった。
しまった…またやらかした……本当に、デリカシーが無いってよく言われてたが、今になって自覚する。
ことごとく地雷を踏み抜いてて、俺は慌てて訂正した。
「あ、じゃあ…今付けてやるよ。そしたら今後も使えるだろ?」
俺が慌てて言った言葉に、少年は少しだけ驚いた様に赤い目を俺に向けた。
とは言ったものの…全く良いのが思い浮かばない。
最近流行ってるキラキラネームとかは死んでも付けたくないが、「太郎」とか付けたら可哀想だよな…
「えーと」を何度も繰り返しながら、少年をじっと見る。
ふと、窓を背景に薄く透けるような綺麗な髪の毛に目が行って――窓の外の空から、雪がちらほらと舞うのが見える。それから、少年の空みたいな色の美しい瞳。まるで空に溶け込む様にぼんやりと光を放ってる様な少年を見て、ハッと閃いた。
そう言えば、出会いは"雪"だったよな。
「じゃあ…"雪"でどう?」
嫌だったらすぐ変えてもらってもいいし、と付け足してやると、俯いてた少年は「嫌じゃない、です」と消え入りそうな声で答えて…それからまた目元をゴシゴシと擦り出した。
声を出して泣かない少年――改め"雪"の頭をそっと撫でる。
名前なんて付けたら愛着が沸くだろうな、と思う。
もしかしたら直ぐにでもお別れになってしまうかもしれないのに、無責任だということも分かっていた。
だけどきっと、泣くほど嬉しがってくれてる雪を見たら――そんな事どうでも良くなった。
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