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Encounter_16
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「いただきます!…ほら、雪も」
「…いただ、きます…?」
雪が、俺の真似をして手を合わせる。
早速ぐつぐつと美味しそうに煮える鍋を取り分けてやると、雪は拙い手でフォークを掴んでちびちびと食べ始めてくれた。
――さっきの、冷たい顔はもう無くなってて、安心する。
"お仕置き"とは…どういう意味なのか。それ以上は聞けなかったが、思い付くのは、多分雪の精神的苦痛があの傷として身体に残ってるのだということ。
あの雪の酷い自虐的な思考は、きっとその施設とやらと、外の世界での仕打ちの所為だろう。
馬鹿みたいな考えも、あんな痛々しい傷も…植え付けられて、簡単には変えられないかもしれない。
「…たつみさん?」
「…あぁ、ごめんごめん」
気付いたら雪が心配そうに覗き込んでて、慌てて笑い返す。怖い顔をしてたらしい、雪はおどおどと俺の顔を伺っていた。
大人の顔色を窺う所も、まだそんな歳ではない筈なのに…これもまた、雪が生きてきた世界の所為で強要される事になったんだろう。
「…なぁ。俺とは、対等の関係だと思ってくれていいからさ」
空になった雪の皿にまた野菜と肉をバランス良く盛り付けてやりながらそう言ってみる。ちらりと雪の顔を伺うと、雪は湯気の向こうで目を丸くしてた。
「え、で、も……」
「でもじゃねーの!
お前くらいの歳でそんな固っ苦しい敬語、使わなくていいから。
今から敬語禁止な、あと"さん"も付けなくていい」
「…でも、たつみさ――」
「んー?」
「…………たつ、み……」
「よしよし」
戸惑ったように俺の名前を呼ぶ雪の頭を、手を伸ばしてわしゃわしゃと撫で回すと、雪は少し困った様に眉を下げた。
表情は酷く大人びてしまっているけど、これで少しは子供らしくなるかな、なんて期待を込めて。
それからは敬語を使わないルールで、ぎこちなくなけど他愛も無い会話を重ねて、雪も少しはほっと出来たんじゃないかなと思う。
だけど、和んだ空気になる一方――いや、和んだ空気になるにつれて、それがちくちくと俺の心を痛ませた。
だって、雪にとってこれは……期間限定で、一時だけの安心かもしれないからだ。
結局は雪を手放さなくちゃいけなくて、俺はそれを知ってて優しくしてて…なんて卑怯な奴なんだろうと、自分で自覚していた。
雪にとって、俺は自分の都合で雪を突き放したり、勝手に拾ったりする外や施設の連中と同じ扱いになるのかな…なんて考えたら、酷く胸が痛む。
――だけど。今だけは。
雪が、安心出来るように。
雪の笑顔が、いつか見られるように。
これくらいは許されるだろう。
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