アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
蝉の声
-
その場所からやっと動けたのは休み時間のチャイムが鳴ってからだった。
でも動けただけで、教室に戻るなんて気分じゃなかった。
ごろん、とその場に寝転がる。
さっきまで耳鳴りがするくらい鳴いていた蝉の声は聞こえない。
ほぼ無意識にネックレスを握りしめて、心の中で愛しいあいつの名前を呼ぶ。
はる、ハル、陽翔。
俺のたった一人の弟、たった一人の血の繋がった家族、たった一人の……
「……くそっ」
好きなのに、こんなにもハルが好きなのに、俺はそれさえも許されない。
この想いを持つこと自体許されない。
世界は生きずらくて、息苦しい。
一番大切な人を護りたいと望んだら、一番大切な人を捨てなきゃないなんて、残酷だ。
視界を塞ぐように腕を当て、耐えるように唇を噛む。
「……っなんで弟を好きになっちゃいけねぇのかなぁ……」
俺は選んだ。
ハルを諦める、という答えを。
辛くて胸が張り裂けそうだ。
今にもハルへの想いが形になって溢れ出しそうで、怖い。
だから押し込めて、潰して、殺して。
必死に心の中に閉じ込めるけど、俺の方が壊れてしまいそうだ。
想いを殺すという行為も、別れをハルに告げなきゃ行けないということも。
それでも時間は過ぎていく。
残酷なその瞬間が近づいてくる。
ハルは何て言うだろう。
怒る?悲しむ?それとも、笑う?
実くんの言っていた幸せを、もしも本当にハルが望んでいたのなら……
「……はは、ははは」
きっついなぁ……
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
78 / 108