アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
堕ちる 3 (シローside)
-
「飲めよ」
「いえ、わたしは……」
「……いいから、飲め」
睨むと、仕方なさそうにスプーンの端をそっと咥えた。
目を伏せると、切れ長の瞳に密生した長いまつげが目元に儚げな影を落とす。
途端に硬質な空気感が揺らぎ、不意に現れた脆さに、ゾクリと震えるほどの艶を感じた。
わざと角度をつけてスプーンを傾けると、こぼれたホワイトシチューが唇の端を伝う。
顔を近づけて舐め取れば、シローが首を紅く染め、震えた。
「戯れは……」
「……美味いだろーが」
「そういうことではなく……」
主と食事の共にするのは、執事のルールに反すると言いたいのだろう。
だが、主人がそれを望むのなら、話は別だ。
「……座れ。見下ろされンのは、好きじゃねェ」
己の横の椅子をアゴで示せば、言い出したらきかないこちらの性格を知ってか、ため息の中で従った。
「……食えよ」
余分に持ってきた分があるだろうがと目をやれば、軽くうなずき、ためらいがちに手を伸ばす。
物をそしゃくし飲み込む姿にじっと目をやれば、闇色の瞳が怒気を孕む。
その唇に己のものを咥えさせ、喉の奥を犯す妄想を見咎められた気がして、焦った。
普段なら我慢できる些細な刺激に、いちいち昂ってしまう。
今宵の自分は明らかにおかしい。
わかっているのに、温もりが恋しくて、シローを離せもしないのだ。
まったく、何がしたいのやら。
手を伸ばし、頬に触れた。
シローの瞳が戸惑うように揺れる。
「主……?」
頬を撫で、唇をたどり、口内に指を差し入れた。
熱い粘膜を蹂躙すれば、ためらいがちに吸い、舐め返してくる。
すべて奪い尽くされてもかまわないと、全力で堕ちてこようとするシローを前に、しだいに我慢すべき理由が見えなくなる。
これほどまでに飢え、カラカラに乾いては、独りでなど歩けない。
せめて、隣に立つ者が欲しい……!
ドクトクと血が沸騰し、気が狂いそうになる。
不意に雷鳴が轟いた。
カーテンの開け放たれた窓越しに、雷が走るのが見えた。
ビクリと、シローの身体が震えた。
「……怖いか?」
あらゆる意図を込めて問えば、指先から逃れた唇が、
「……いえ、少しも」
はにかむように微笑んだ。
「あなたがいてくだされば、そこが楽園だと申し上げたはずです」
「……っ」
「何をそんなに苦しんでおいでなのです……?」
「……聞くな」
「そうおっしゃると思って、ずっと触れずにきましたが。今宵の主は言いたがっておいでのように見えます。吐き出して少しでも楽になるのなら、どうかこのシローに。主、お願いですから……!」
「……聞けば、終わる」
「終わったらまた、始めればいい」
「ンな簡単にいくか……!」
「難しく考えたところで、答えなど出ないでしょうに」
「……っ」
「……主、あなたは優し過ぎます」
「……は? ……言われたコトねェし」
「一見、欲望のままに生きているようで、すべてをご自身の中で押し殺してしまう。それが残念でなりません」
「ンな生易しいモンじゃねェ……」
真摯な光を宿す黒曜石の瞳が、刻一刻と輝きを増していく。
「ここにいるわたしは、あなたのためだけに存在しています。共に喜び、共に泣き、共に生きてゆきたいのです。どうかその願いまでも奪わないでください」
ガラガラと何かが音を立てて崩れていく。
再び雷鳴が轟いた。
「オマエに……話しときてェことがある」
やっとのことで口にした言葉は、ひどくかすれ、震えていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
69 / 177