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「あ、鯉のぼり」
ゴールデンウィークも後半を迎え、どこに行くにも混んでるだろうと家の中でまったりしていたおれと要さんは、ずっと家にいたせいで何もない冷蔵庫をどうにかするために買い物兼散歩に出かけていた。
あんまりいい天気だからおれもちょっと気分が良くなって、なんも変わらないいつも通りの道をキョロキョロしてたら、見つけた。
いつもと違う、トクベツなモノ。ちっちゃいケド。
「おれさぁ、鯉のぼりってちゃんとしたデカいの見たことないんだよねえ。東京だとこんな申し訳程度なやつじゃん?実家は洋風だしさぁ。屋根まーでぇとーどく、こいのーぼぉり、なんてテレビでしか見たことないからさあ」
いっかい見てみたいなー。なんて、ふっと思って言ってみただけなのに。
「じゃあ見に行くか」
要さんってばそんなこと言うから新也くんびっくり。
「へ?どこに?」
「皐んとこ」
晃が生まれた時に、親父がでっかいの買ったんだ。って、急遽要さんのマンションに戻って車に乗って、1時間くらい。
なんかすっげー高級住宅街っぽいとこの一際でっかい家に、それこそ屋根まで届くでっかい鯉のぼりが見えた。
「うっわ…泳いでるねぇ…」
車窓から覗くだけで圧巻の鯉のぼりに変な感想を漏らしたおれを横目で笑って、要さんはそのでっかい家の敷地に車を入れた。
「おい、要。来るなら来るで先に言え」
流石にいきなりおしかけたのはマズかったのか、不機嫌そうな皐さんが文句をつらつらと、ソファーに優雅に腰掛けてる要さんに投げかけている。
「まあまあ、これで私もようやくカナちゃんの恋人さんに会えたんだから」
コーヒーを淹れてきてくれた美人さんが、皐さんをなだめる。
おれの前に置かれたコーヒーカップに、お礼を言って口をつける。
あ、美味しい…。
………………ん?
「カナちゃん…?」
要さんのこと、だよな?今ピクってしたし。
この、鋭い美形で無愛想でキツイ性格な(いや褒めてるんだよ?)要さんをカナちゃんなんて呼べるこの美人さんは何者だ。
「おい、歌恋(かれん)。こいつに変なこと吹き込むな」
「あら、何のこと?ふふ、初めまして。皐の妻で2人の幼馴染の有村歌恋です」
「あ、久留須新也です。あの、突然お邪魔してすみません…」
「あらなにこの子!凄く良い子な予感だわ!!」
よろしくねっ。なんてテンション高く握手した手…ってか、もはや腕をブンブンと振られていると。
「「おい。あまり触るな」」
皐さんが歌恋さんを、要さんがおれを、それぞれ止めさせた。
さすが双子だ。嫉妬も息ぴったりだ。
「あっ、そうそう。鯉のぼりを見に来たのよね?あきちゃん、お兄ちゃんをお庭にご案内してさしあげて?」
そう促されたあきちゃん…晃くんの案内で、リビングの窓から庭に出たおれは、下から見るとまた違う雰囲気の鯉のぼりに感嘆していた。
ほんとに上から大きさ全部違うんだな…
ゆらゆらと空中を舞う鯉たちを眺めていると、後ろから声がかかった。
「そんな見て飽きねぇのかよ」
「皐さん。飽きないっすよー。一緒に見ます?」
掛かった声と視線を感じつつ、上を向いたまま応えると、その姿が右隣に現れた。
「もうずっと目に入ってるからな。いい。つかお前、声だけで俺らが分かんのな」
「えー、分かりますよ〜?要さんがおれを呼ぶ声って、もっと甘いもん」
たまにすげぇ怖かったりするけど。なんて笑うと、隣の皐月さんがおれの頭をぐしゃぐしゃとかき回してきた。
「うぉ!?なにするんですかぁ!」
「うっせぇ。…あー、その、なんだ。……要のこと、任せた」
「っへ?」
ぐしゃぐしゃになった頭を整えていたら、なんかすげぇことを言われた。
「あいつはあんな顔で泣き虫で、情に厚いヤツだからな。お前のことが本気で大事だって伝わる。言わなくてもな。今までそんなことなかったから、これでも心配してたんだ」
だから、あいつのこと、頼む。
こんどはおれが上を向いた皐さんを凝視する。
でもそんなの長くは続かない。
そんな、そんなこと言われたら。
「っっ!勿論です!!要さんのこと、絶対!ずっと幸せにします!!」
なんて叫んでしまって。
皐さんには鼻で笑われるし、窓を閉めても聞こえてたらしい歌恋さんにはカナちゃんをよろしくね、なんて言われるし、真っ赤になった要さんにはその場で怒鳴られるし帰りの車でもブツブツ言われるし。
まぁ可愛かったから許すけどね。
正式なプロポーズは、もう少し待ってね、要さん。
愛してます。
fin...
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