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痍
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屋上に続くドアノブを捻ると、案の定鍵は開いていて、俺は思いきりドアを開けた。
「坂谷!!!!!!」
柵の向こう側に立っていた坂谷が、俺の声に驚いて一瞬足を踏み外しそうになり、心臓が止まりそうになった。柵にしがみつきながらへにゃりとその場に座り込む坂谷の元へ、慌てて駆け寄った。
坂谷の手足は見るからにガクガクと震えていて、真っ青な顔で息が乱れている。・・・当たり前だ、こいつは高所恐怖症なのだから。
「お前っ・・・馬鹿か!?何あいつらの言うこと間に受けてんだよ!!!」
「烏堂が・・・言ってたって、いわ・・・れて・・・。」
「んなこと言うわけないだろ!?・・・てか、なんで俺なんかのためにここまですんだよ!?・・・バカじゃねぇの?!」
・・・今までだってそうだった。俺に嫌われたくないだとか、俺のためなら何でもするだとか、自分は二の次で俺の事ばかり考えてこいつは動いていた。
もう少し遅れていたら・・・そう冷静に考えると俺の手まで震えてきて、柵越しに坂谷の冷たい手を握った。
「なぁ・・・答えろよ。なんでここまで出来んだよ。」
「・・・だから。」
「・・・え?」
「烏堂の事が、好きだか・・・ら・・・。」
虫の鳴くような声でぎゅっと目を瞑りながらそう言う坂谷を、何故か無性に抱きしめたくなった。・・・なんだよ、これ。
「急に怒鳴って悪かった・・・1人で怖かったよな。とりあえずこっちに来い。しっかり俺の腕につかまって。」
慎重に柵を乗り越えさせて俺の方に引き寄せると、すっぽりと腕の中に収まる坂谷は、まだガクガクと震えながら俺にぎゅっと抱きついた。
「・・・嫌いじゃないから、思ってる事、もっかい言ってみ?」
「怖・・・かった、ほんとに・・・怖かった。でも、烏堂に嫌われる方が・・・もっと怖くて・・・今日までずっと・・・皆のいう通りに、してきて。」
「・・・それで?」
「・・・烏堂の事が、昔から、ずっと・・・好きだった事も、隠してたんだ。傍に居られるだけで良かったから。」
そこまで言うと我に返ったのか、はっと抱きつく手を離した。顔を真っ赤にさせながらそっぽを向こうとする坂谷の顔を無理矢理自分の方に向けると、俺らの唇の距離はもうなくなっていた。
薄くて柔らかい坂谷の唇は、舌を入れようとしてもぎゅっと強く閉じていて、仕方なく唇を離した。
「・・・う、どう?今なに・・・して・・・。」
唇に触れながらアワアワしている坂谷が 小動物に見えて、これは俺も末期だな・・・と頭を抱えた。
「・・・さーな。けど、本当に間に合ってよかった。・・・俺の心臓が止まるかと思った。俺の事が好きってんなら、もう俺の言う事以外絶対に聞くな。」
「ごめ、なさ・・・。」
「じゃーなーくーて。返事は?」
「・・・うん、わかった。」
そう言った坂谷の唇をもう1度塞ぐと、徐に手を回してきて、先程よりも長いキスをした。
「・・・さーてと、先生になんて言い訳すっかねー?」
「あっ・・・す、すっかり忘れてた。」
「人のもん盗ったりすんなって言ったのに屋上の鍵ふつーに盗ってるしな、お前。」
ごめん、と言いながら俯く坂谷の髪をわしゃわしゃと撫でると、俺はそっと手を差し出した。
「皆勤賞、なくなってもいいなら今からウチ来いよ。あ、これはお願いとかじゃねーからお前の意思聞かせて。」
「・・・い、行かせてください。」
ぎゅっと握った手を力強く引いて、屋上から教室の前の廊下へ駆けていくと、物凄い剣幕で追いかけてくる先生とぽかんとしている他の奴らがいた。坂谷は挑発するようにベーッと舌を出して、嬉しそうに俺の方へと向き直った。
「お前、意外にワルだよな~・・・明日生徒指導室呼び出し確定だな、これ。」
「烏堂と一緒なら、平気。もう何も怖くないよ。」
悪戯に笑う坂谷の手をもう1度握り直すと、転ばないように気を遣いながら、長い長い廊下を2人で走っていった。
-end-
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