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三
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五度目は、そう、初めて彼を見た日から、三ヶ月くらいたった日だった。
私は終電を逃してしまったが、明日から有給の消化の為の連休に入るからとサウナに寄って、人の少なくなって居た居酒屋にふらりと入っていた──。
外観がカフェに見えるその店は料理がうまいとは聞いてはいたが、女性をターゲットにした店で入りづらく諦めていたのだが、店の中はもうほとんど客も居ないようで、扉越しにうかがえば中の店員が気付いた様子で会釈してくれた。
「団体さんが入ったあとだから売り切れもありますが、それでも宜しければ味見てやってください」
扉までやって来たその背の高い店員は、そう言って店に入るように勧めてきた。カウンター席に何人かはいたが騒ぐようなタイプには見えず、私は一歩前へ足を出していた。
「いらっしゃいませ」
改めて言葉をかけられると、奥の方からも男の声で同じように挨拶をされた。
背を向け先を歩く店員は膝より少し上の丈に切られたジーパンを履いていて、席についた先で見た厨房の男もまた同じ丈を更に二度ほど折ったジーパンを履いていた。
…なるほど。私は思わず強張っていた肩を落とした。
彼らと自分が同種だと分かると、急にお腹が合図を鳴らした。
適当に注文してビールのおかわりを頼めば、店のどこからか痛みを伴う音が聞こえてきた。
店員は私の後方へと視線を送り、私はそれを見ながら新しいビールに口をつけた。
この時間に痴話喧嘩が珍しい訳ではない。ビールが不味くなるから他所でやってもらいたい、との願いが叶ったかどうかテーブル席から駆け出した女性が、先程私が通り抜けた扉から何も言わずに出ていった。派手な服装をしていたわりに、感覚は幼いままなのだろうか。自身への装飾は自信の補填であると誰かが言っていたが、その見た目に騙される男も大概である。
「お騒がせしました」
頬を押さえながら長身を曲げて奥から出てきた男は、私の視野の端で店員からおしぼりを貰っていた。
「指輪かな、ココちょっと血が滲んでますよ」
「安物の指輪でも凶器になるって、覚えとこうかな」
少し気になり顔をあげれば、見覚えのあるあの彼だった。
そうと分かれば、先程駆けて行った女がいつぞや見掛けた派手な女であったとすぐに照合された。
おしぼりで頬を押さえたその彼は、カウンターの端に腰を掛けた。火も着けない煙草を指で遊ばせながら厨房をまるで片想いの眼差しで見詰めて、半分ほどになっていたビールを煽った。
厨房の彼は、そんな彼には気づきもしないで炎の上がるフライパンを振っていた。
「振られたばかりだからって取らないで下さいよ」
店員の小さな声は、私にも聞こえた。
「一回くらい目瞑ってくんない?」
「アイツが望むならね。まっ、無いだろうケド」
「…言うねぇ~」
二人の会話はどこまでが本気なのか。笑みを含んだ二人は厨房の彼に熱視線を送っていた。
私は残りのビールを一気に煽った。
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