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<50、繋がる>
言葉を忘れてしまったかのように、何も言えなかった。
好きな人が、自分を好きでいてくれた。その喜びと、少しの戸惑いが俺を惑わしていく。
このまま、孝太郎を好きと言っていいのだろうか。本当に信じても大丈夫なのだろうか。
どう答えればいいのだろう。まっすぐに伝えればいいのに、捻くれた俺の心はそれさえも許してくれない。
「……俺は男、だぞ?」
「知ってる。知ってて好きなんだ」
被せるように即答する孝太郎は困ったように苦笑している。俺の手なんかを本当に本当に大事そうに柔らかく握る。
手の温かさにクラクラする。
涙に濡れた瞳が孝太郎を映していく。
「…俺、特別顔がいいわけじゃないし、女みたいに、可愛いことはできない……」
「お前が気付いてないだけで樹はかっこいいよ。それに、樹は樹でいい。無理に可愛くなんてしなくても、樹は十分可愛い」
俺のちっぽけな感情を、壊していく。
「と、取り柄だってない。不器用で、お前を困らせてばっかりだ……」
「困ったことなんてないよ。お前を好きでいて、困ったことなんてない」
「っ……、でもっ俺は! お前に何かあげられるもの、してやれる事なんて、ない……」
「それは間違ってる、樹」
最後は震え出してしまった声を孝太郎が笑顔で遮る。
俺の大好きな、あのおひさまの笑顔がキラキラ光る。
「もう樹はしてくれただろ。あのとき、どん底にいた俺を引っ張りあげてくれた。俺に居場所をくれた。もう一度家族の温かさをくれた。これ以上のものはないよ」
たまらずぼたりと大粒の涙が零れる。泣きすぎて頭が痛くなってきた。
そんな痛みさえ、嬉しくてたまらない。うまく息が吸えない事さえ、もう気にならなかった。
「…………なあ、樹」
涙でぐしゃぐしゃな頬に触れながら、孝太郎は優しい声で囁く。
「自惚れてもいいか。樹が、俺と同じ気持ちだって、自惚れでもいいか」
「孝太郎……」
「俺をーー好きになって、くれる?」
少しだけ。
最後の言葉が少しだけーー震えた孝太郎に、愛しさだけが込み上げてくる。目の前の男に手を伸ばし、体当たりをするように抱きついた。
「……樹?」
「す、きだ」
「……え?」
「お前が好きだよ、孝太郎っ……!!」
そう言い切った時、足の先が浮くくらい強く、きつく抱きしめられる。息が苦しかったけど、孝太郎の腕の温もりをどうしても手放せなかった。
「好きだ、樹。好きだよ」
「……うん」
「ずっとずっと……好きだった」
小さな声で、俺の事を好きだと言う。額をコツンと合わせながら、幸せそうに笑う。
男同士で、幼馴染。他の人が見たらきっと後ろ指を指されるかもしれない。もっと他に最善の方法があるかもしれない。
それでも、この腕を失いたくないと思う。
孝太郎が望むなら、いつまでも傍にいよう。いつまでも好きでいよう。
できる事ならーー孝太郎の、家族になりたい。
一緒にいるのが当たり前の、一番近い存在に。
「……キス、したいな」
「ここじゃ駄目」
「わかってる」
即答する俺にぐずぐずにとろけた笑顔で返す。
もしも、孝太郎が俺に飽きる日がきたとしても構わない。その時は何も言わずに離れよう。
(できる事なら、そんな日が来なければいい)
この男は、俺のだ。
「……家に帰ろ、孝太郎」
「うん」
お互い何も言わずに、そっと手を重ねる。
家に帰ってたくさん話をしよう。
今はお前と二人きりでいたい。
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