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混交雑 1
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(まずいわねぇ)
ジルは体温計を見て、それから時計に目を移した。
起床して倦怠感を感じ、念のため体温計を咥えてみたら熱があった。
微熱だが頭痛もある。
しかも間の悪いことに、今週は再婚旅行に出かけた次女、マルトの一人息子を預かっているのだ。
ジルは2度の離婚を経て今は一人暮らしで、孫のロロを任せられる家族はいない。
長女のシビルは遠くに住んでいて頼れない。
季節柄インフルエンザも流行っている。
自分も倒れられないし、彼にうつしては大変だ。
しかし今日は金曜日。
仕事にも行かねばならないし、早く支度しないとベビーシッターが来る時間になってしまう。
ロロはまだ3歳。可愛いけれど、やんちゃで活発だ。
彼に朝食を食べさせている間は、特に目を離せない。
ジルは鎮痛剤を飲むとロロを起こしに向かった。
遅刻はしないで済んだがギリギリだ。
ロロは結局食事に時間がかかりすぎ、ジルはベビーシッターに後を任せて家を出てきた。
これも月曜の朝までだ。
日曜日の夜遅くに帰国する娘夫婦は、ジルの出勤前にロロを迎えに来ることになっている。
お土産は受け取れるけど土産話を聞く暇は無いだろう、とジルは残念に思ったが仕方がない。
ジルは秘書室に駆け込むとアルに挨拶した。
「おはようございます、ジル。さすがにお孫さんの相手は疲れてきましたか?」
苦笑しながら聞くアルに、ジルは「なぜ?」と聞き返した。
「疲れた顔してるというか、寝不足ですか? 少し顔色が良くないようですけど…」
マルトと同年代の後輩に心配されるとは情けないなと思いながら、ジルは
「平気よ」
と見栄を張った。
ジルは何とか仕事をこなしたが、そろそろお昼という頃にアルは彼女の顔が赤いことに気が付いた。
「ジル、熱があるんじゃないですか?」
「少しね。大丈夫よ」
「いや、結構つらそうですけど」
「平気だから、心配しないで」
「だって帰ったらロロの世話しなくちゃいけないんでしょ? 午後は休んでください。来週に回せるものは回して、私で出来ることはやっておきますから」
そこまでしなくていいと言いたかったが、ほんの数秒目を閉じただけで引きずり込まれるような眠気に襲われて、ジルは返事をできなかった。
アルの呼ぶ声が遠くに聞こえる。
(まずいわね…)
アルはミカにジルの具合が悪いと報告に行った。
何とか歩けはするがふらつくジルを2人で支えてソファに寝かせた。
アルがタオルケットを掛けてあげると、ちょうど体温計がピッと鳴った。
「38.8℃。ジル、立派に発熱だよ」
そう言うミカにジルはすまなそうな顔を向ける。
「今日は帰って、週末しっかり休んで元気になって。アルに送らせるから」
「でも、ロロが…」
ジルは帰っても休めないことや、ロロにうつす心配もあって、どうしたものかと悩んだ。
「ああ、お孫さん預かってるんだっけ」
「はい」
力無く答えるジル。
どうしたものかとミカも考え込んでしまった。
一縷の望みをかけてジルは自宅にいるベビーシッターに電話した。
しかし、泊りがけのシッティングはできないと断られ、明日と明後日の日中も他に仕事が入ってると言われた。
彼女を派遣した会社にも電話してみたが、そちらも空きが無い状態だった。
「困ったね」
アルも何も良い案が浮かばず、ミカに頷くしかできないのがもどかしかった。
しかし、ミカが唐突に言った。
「うちで預かるよ」
なぜか自信満々な様子のミカ。
驚いて固まってるアル。
熱のせいで耳がおかしくなったかと混乱してるジル。
「ね、いいよね?」
アルとジルはどうにも返事できなくて言葉に詰まった。
「社長、子育ての経験は?」
「無いよ?」
当然でしょと言わんばかりに即答するミカに、アルは
「あの、私も未経験なのですが…」
と、おずおずと不安を口にした。
しかし、それ以外に策が見つからない。
ジルは一抹の不安を覚えながらも2人に縋った。
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