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俺が声を押し殺して身体を震わせていると、ふと世良さんが立ち上がり、こちらに近付いて来た。
「っ……?」
ふわりと、何かが肩に掛けられる。
そしてその後で、頭にフードが被せられた。
「大丈夫。オレが見えないようにするから、泣いてもいいよ」
世良さんは俺の背中に手を置いて、優しい声を掛ける。
その行為は、俺に好かれたいからなのか、ただ単に優しさからなのか。
(…嫌だ……)
どっちにしても、そんなこと言われたら、我慢出来るものも、堪えられなくなるじゃないか。
俺が嫌なんだよ。
こんなところで泣くなんて、みっともない。
一ノ瀬くんが出会ってから泣いてばかりで、俺が泣き虫になったみたいだ。
だから、これは全部、一ノ瀬くんのせい。
俺が泣きたい訳じゃ無いんだ。
「うぁぁっ……!」
もう何もかもが吹っ切れたように、俺は手元へ涙を落とした。
自然と、言葉が口をつく。
「分からないんですっ…こんなに……こんなに誰かのことを考えるなんてことは初めてで…俺、変なんです……っ」
そうだ。
過去に彼女がいた時にだって、ここまで彼女のことを考えたことは無い。
こんなに一ノ瀬くんのことばかり考えて、こんなに一ノ瀬くんのことで悩まされて、こんなに、こんなに苦しい思いをさせられて。
一ノ瀬くんには、初めてのことばかり経験させられる。
出会ってすぐに泣かせられたことから始まり、今だって一ノ瀬くんのせいで泣いていた。
「…一ノ瀬くんの言う"好き"が分からない……っ、だって、俺の"好き"と、一ノ瀬くんの"好き"は違うっ……」
「何が違うの?」
優しく俺の背中を叩く世良さんが、即座に問い掛けてくる。俺は、その言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
(何が……?)
何がって言われたって、そんなの、明確な根拠なんて無い。
でも、違うんだ。
俺は、一ノ瀬くんにもらっただけの"好き"を返せる自信が無い。それは、俺の感じる"好き"が、一ノ瀬くんとは違うから。
俺は一ノ瀬くんのことが、恋愛感情で好きなのかどうなのかが分からない。
「じゃあ、好きって何ですか……恋愛感情で人を好きになるって、何ですか…っ……?」
真剣な恋愛なんてしてこなかった俺にとって、本当に他人を好きになるなんてことは、よく理解出来なくて。
それが一ノ瀬くんを傷付けているのだと思うと、胸が締め付けられた。
それでも、俺が一ノ瀬くんと付き合うことは、許されない。
たとえ周りが許しても、俺が許可出来なかった。
「…俺の気持ちが、本当に一ノ瀬くんを好きだっていうことなのか……不安、なんです……っ、自信が無い……」
それはもう、消え入るような声だった。
「認めたくない……」
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