アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
⑤
-
一ノ瀬くんに背中に手を添えてもらいながら、廊下を歩く。
大して距離がある訳でも無かったが、俺は壁を伝って向かった。吐き気は引くところを知らなくて、呼吸は荒れるし自然と涙目にもなった。
ほんとに、お酒でいい思いをすることは無い。
自分でもどうしてかと思う程、弱過ぎるんだ。
いつもより、トイレが遠く感じる。
「…はぁぁ…、は……っ」
だけど、そこまでは我慢して、俺は何度も息を飲み込んだ。あと少しの辛抱だと、一歩ずつ踏ん張る。
「大丈夫ですか」
「…無理……っ」
目的の場所へ着くと、一ノ瀬くんはドアを開けてくれて。俺は中へ入るとすぐに、床に膝を付けて座り込んでしまった。
「…何か、手伝いますか」
気遣いで一ノ瀬くんに聞かれるが、そこまで手を掛けさせては、と申し訳無く思い、俺は首を左右に振った。
一ノ瀬くんはそれを素直に受け入れてくれて、静かに扉を閉める。
(もう無理だ……っ)
便器に手を付いて何とか吐き出そうとは試みてみるも、なぜか喘いでいるしかなくて。
なぜかこういう時、吐き気はして苦しいのに、それから開放されるまでには至らないのだ。
毎回そう。
吐いて楽になることなんて少なかった。
「苦しっ……」
だんだんと、視界も歪んでくるようになって、指先も痺れるような感覚を覚える。
もう泣きたくなる。
二日酔いの個人差激し過ぎるだろう。
そう思って何も出来ずにいると、ドアの向こうから一ノ瀬くんが話し掛けてきた。
「……佐伯さん」
「なん、ですか……?」
俺の返事は小さくて一ノ瀬くんにまで聞こえていたかは分からないが、一ノ瀬くんは言葉を続ける。
「やっぱり俺、手伝います。苦しい……ですよね」
俺が二日酔いになったことを負い目に感じているのか、一ノ瀬くんの口調には申し訳無さが含まれていた。
しかし、手伝うにしても、これは他の人にはどうしようもないことなのではないのだろうか。
(何するの……?)
俺は何も答えられない。
「入っても大丈夫ですか」
そう気遣われるから、俺も断るに断れなくて。
俺は吐き気を堪えながら出来るだけ大きめな声を出した。
「…はい」
短い言葉の後で、一ノ瀬くんがドアを開けて中へ入って来る。すぐに俺の隣にしゃがんで、背中に手を置いてくれた。
「駄目そうですか」
俺は一ノ瀬くんの方も向けないまま、頷く。
「……俺、いつもこうなんです……」
弱々しい声しか出なかった。
一ノ瀬くんに背中を擦ってもらっても、症状には何の変化もない。頭痛も吐き気も、ずっと続いていた。
「じゃあ、手伝います」
「…手伝うって、何……」
「少し辛いかもしれないですけど、確実に戻せます」
そんなことを真顔で言われるから、俺は妙に怖く感じた。でも、何をされるかも分からないから、とりあえずは頷くしかない。
「……指、噛まないでくださいね」
「は…っ…?」
すると、僅かに開く口の中に一ノ瀬くんの指が挿し込まれる。
(なに?嫌だ……!)
その行為の意味が分からなくて、俺は咄嗟に一ノ瀬くんの腕を掴んで抵抗した。空いた方の手は、自身の服を強く握り締める。
「…ぁ……はっ…」
「大丈夫。怖くないですから」
そう言われたって、怖いものは怖い。
腕以外に一ノ瀬くんの身体に触れられる部分は無かったから、俺は一ノ瀬くんの腕を必死に掴んで訴えた。
泣く寸前だったのが、耐え切れずに涙が流れる。
(嫌だ!)
怖いのに、苦しいのに。
否応言わせず、一ノ瀬くんの指は次第に奥へと入り込んでいった。
▽ ▽ ▽
水を流してもらった俺は、ぐったりとして正面から一ノ瀬くんに身体を預けた。
「…はぁっ……ぅ…」
肩で息をしながら、一ノ瀬くんの首に腕を回し、必死になって縋り付く。さっきよりは苦しさは紛れたと思うが、それでもまだ辛い。
「少しは良くなりましたか」
「…も、やだぁ……っ……酒なんて、嫌いです……!」
すごく苦しいのに、一ノ瀬くんが側にいてくれるから、そんな情けない声も出てしまう。
一ノ瀬くんはそれを知ってか何なのか、俺の頭を撫でて甘やかしてくるんだ。
「佐伯さん」
呼ばれた名前に、俺は顔を上げる。
一ノ瀬くんは自分の袖口で、俺の口元をグイッ拭いた。
(汚れるよ……)
でも、一ノ瀬くんはそんなこと気にしなくて。
「ごめんなさい」
そういって、申し訳無さそうに笑うんだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
149 / 331