アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
④
-
「んっ……」
何度も全身へ当てられる唇に、俺はピクンと身体をよじらせる。
唇は勿論、額、頬、首筋、喉、鎖骨。
一ノ瀬くんは、いろんなところに唇を這わせてきた。
俺は何とか声を出さないようにと、手の甲で唇元を押さえる。こんな声は、一ノ瀬くんに聞かれるなんて嫌だった。
(声、やだ……)
少し視線を下に向けると、一ノ瀬くんと目が合うから、顔を見られるのも嫌で。
優しく触れられる度に、脳みそが溶かされるみたいに麻痺した。
手も、次々と触ると場所を変える。
頬から首、首からも下に手は添えられてきた。
「…い、一ノ瀬くんっ……」
すると一ノ瀬くんは、俺の肩から服を下ろし始める。だけども俺は、何の心の準備も出来ていなかったから、思わず咄嗟に一ノ瀬くんを引き離してしまう。
「これ以上は、駄目……!」
目元には涙が溜まって、羞恥に顔も赤くなる。
声も、僅かに震えていた。
「怖いですか」
一ノ瀬くんは気遣うように聞いてきて。
俺は目を伏せながら頷いた。
だって、本当に怖い。
このまま雰囲気に飲み込まれていまうのが、怖かった。今はどうしてか、前みたいに耐えられそうにない。
「一ノ、瀬く……っ」
「はい」
(……違う)
違うんだよ。
別に、泣きたい訳じゃ無い。
俺が泣かされるようなことをされた訳でも無い。
それなのに、一ノ瀬くんの前だとどうしても抑えが利かなくて。
本当は、こんなに涙脆くない。
一ノ瀬くんにいるから。一ノ瀬くんの前だと、何もかも満たされて、心までも許してしまうんだ。
だから、俺が泣くのは一ノ瀬くんが悪い。
一ノ瀬くんが、温かいから。
「…すみません。嫌、でしたよね」
「…っそうじゃ、なくて……!」
一ノ瀬くんに誤解されそうで、俺は反射的に首を振る。だけどさすがに、一ノ瀬くんと顔を合わせるなんてことは出来なかった。
「…俺はっ……」
何が言いたいのだろう。
全く言葉はまとまらなくて、ただただ頭の中が真っ白になるばかりだ。
「もう、どうしたらいいのか…分からない……っ」
最近、一ノ瀬くんはよく俺に触れてくる。
それでもいいと言ったのは俺だけど、やっぱり一ノ瀬くんの触れ方が少しでも過激になってくると、俺は困惑してしまって。
だけど、俺は俺がどうしたいのかがさっぱり分からなかった。
それで終いにはこの有り様。
嫌ではないけど、受け入れてしまうのも怖い。
気持ちの矛盾は、結果的に涙を誘った。
「…大丈夫。無理して俺に合わせようとしなくてもいいですから。嫌だと思ったら、すぐに言ってください」
「………」
「…多分俺も、自分では気付かないうちに佐伯さんを困らせてるかもしれないです。嫌なことも、してるかもしれないですね」
(全然、そんなことない……)
一ノ瀬くんは十分俺に優しくしてくれるし、嫌なことなんて何にも無い。
一ノ瀬くんを困らせてるのは、俺だけなんだよ。
こうやって、一ノ瀬くんの側にいると泣いてばかりだし、結局は気も遣わせるから。
「…………」
俺が言葉に困っていると、一ノ瀬くんはポンポンと頭を撫でてきて。そのまま、そっと腕の中に抱え込まれる。
「だから、佐伯さんが俺を傷付けるって言うなら、俺だって同じですよ」
「……ど、して……?」
違う。
一ノ瀬くんが俺を傷付けるなんて、そんなのは無い。俺が一ノ瀬くんを困らせているだけなんだ。
そう思うのに、俺には一ノ瀬くんの言葉を否定する術も無くて、ただずっと、腕の中で泣いているしかなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
153 / 331