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④
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これでも一応昼食を食べに来た訳だから、3人でメニューを頼んだ。
一ノ瀬くんはパスタ。俺はオムライス。青山はグラタンで。この中で言えば、ダントツで一ノ瀬くんが大人っぽい。
そうして昼食を食べている間にも、青山の性格が幸いしてか、一ノ瀬くんと青山は結構打ち解けていた。
「…他にも佐伯の話あるよ。聞きたい?」
「そうですね。ぜひ」
「もう良くないですか……」
青山が話すことは、ほとんどが俺の大学時代の話で。それも、俺が何かやらかしたような話ばかり。
だけど、その話を聞いている一ノ瀬くんも楽しそうだったし、はっきり止めてくれとは言えなかった。
「じゃあ、次は佐伯の酒事情についてお話するねー」
青山は、わざとらしい口調で言う。
俺は青山の話そうとしている内容なんて容易に想像出来たから、溜息交じりの声しか出なかった。
「あんまり余計なこと話すなよ……」
その言葉にも、青山はにこにことしているだけだ。
「これは大学2年の時の話なんだけど。おんなじクラスの奴らと遊び行った時だっけ?」
「…打ち上げした時じゃん……」
それは、俺が初めて酒を飲んだ時の話だった。
その時は酒がどれほどの威力か知る由も無く、調子に乗っていたことが災いした出来事だ。
「そうそれ。カラオケで佐伯が初めて酒飲んだんだよな」
酒で失敗したという出来事自体はよく覚えているのだが、何の打ち上げだったのかは覚えていない。
ただの遊びだったかもしれないし、学期末の集まりだったかもしれない。
当時20歳だった俺は、まだお酒なんて口にしたこともなくて。それを皆に言ったら、ものすごい勢いで馬鹿にされた記憶は、嫌に鮮明に残っている。
多分俺は、そんなことで馬鹿にされるなんて有り得ないとか、ムキになってしまったんだ。
"佐伯お前、飲んだことねぇとか笑えんだけど"
"飲まないだけで全然飲めるから!"
そんな子供じみたことを友達と言い張っていた。
初めは相手にすることない話だと思っていたんだけど、その場の雰囲気で飲まざるを得ないような状況になってきて。
"じゃあ飲んでやるよ"
俺のその一言がきっかけで、もう後には引けなくなってしまったのが始まり。
「…佐伯さん、お酒弱いのにそういうこと言うんですね」
「その時はそういうノリだったんです……」
一ノ瀬くんが可笑しそうに笑うから、俺は無駄に恥ずかしくなる。どうして青山は、そんな余計なことばかり覚えているのだろうか。
当の青山もすごく楽しそうで、にこにこと話を続ける。
「そんで佐伯、でっかいビールジョッキ頼んだんだよな」
飲んでやるだなんて大口を叩いたら周りに煽られて、生半可なものじゃ済まされない雰囲気が出来上がっていた。
ビールの量は何種類かあったのだが、たかが酒如きに酔わないだろうと思っていた俺は、いちばん大きなビールジョッキを頼んだ。
それで俺は、そのビールジョッキを一気飲みしたんだけど。
"まっず……"
っていうのが俺の最初の感想で。
それでも俺は、周りに押される形で何とか全て胃袋の中に収めたんだ。
青山がそこまで言うと、一ノ瀬くんは僅かに驚いたような表情で俺を見る。
「佐伯さんが一気飲みですか」
「有り得ねぇよな」
そうだ。今なら有り得ない。
だから、こんな話は過去の出来事として流してくれればいいのに。
俺の意思とは無関係に、青山は次々と話を進めた。
一気飲みなんかした後は、当然の如くものの10分で俺は酔い潰れた。
呂律が回らなくなるくらいで、別に変なことをした訳でもなく、ただ眠たくなって素直に寝たのだ。
まぁ俺は寝たからその後にどうなったのかは知らないが、後日友人に聞いた話では、青山に抱えられて家まで送られたらしい。
その時点で俺は青山に迷惑を掛けてしまっている訳なのだけれども。最大の問題が起こったのは、その次の日だった。
次の日は幸いにも休みで、俺は勿論、二日酔いに大いに苦しめられていた。
朝、目を覚ましてから、吐き気に頭痛に眩暈、倦怠感、その他諸々の苦痛で眠ることも出来ず、1人で唸っていた。
あの時の俺は、お酒を舐め過ぎていて本当に馬鹿だな、と思っていた訳で。
「その後がやばかったよな」
何も面白い話じゃないのに、青山はいい思い出だとでも言うように語る。
人生で初めての二日酔いは本当に苦しいし、立てないしで俺にはどうすることも出来なかったんだ。勿論当時の俺は、薬なんか持っている訳が無くて、二日酔いを治す方法なんてのも知らない。
吐き気はするのに、えずくことしか出来なくて。
もう1人では何も出来ないと思い、とりあえずは朦朧としながらも青山を電話で呼び出そう試みた。
"もしもーし。あ、佐伯?どした?"
"……青山、家来て……"
"え、なんで?遊ぶの?"
"いいから……助けて……"
そこで会話を切ってしまったことが悪かったんだと思う。
助けて、と口にした瞬間に酷い嘔吐感が込み上げてきて、俺はスマホを乱雑にテーブルに置いてトイレに駆け込んだ。
周りのことなんて何も考えられない状態だったんだから、仕方無い。
「…佐伯は死にそうな声出すしなんか携帯落とすみてぇな音聞こえたしで、そりゃこっちだって焦ったわ」
「あれは、悪かったよ……」
もうその時は、青山に迷惑を掛けてばかりで、今更ながら申し訳無くなる。
そして数分が経ったくらいの時に何とかトイレから脱出した俺は、やっとの思いでスマホに手を伸ばした。
しかし、それは時既に遅し、というやつで。
スマホの向こうからは何の音も聞こえてこなかったのだ。俺は変なところで通話を終わらせてしまったと思い、もう一度青山に電話を掛け直した。
"佐伯ー!"
青山はすぐに出た。
だけどその声はなぜかすごく焦っていて。
"ちょ、生きてんの!?救急車呼んだんだけど!"
ぼんやりとした頭では、俺が青山の言葉を理解するのには多少の時間を要した。
"は……?"
結局口から溢れた声は、そんな間抜けなものだった。青山は、俺が応答しなくなってからすぐに救急車を呼んだと言うから、もうすぐで救急車はここに到着するらしい。
"もう佐伯死んだかと思ったわー"
全然笑い事じゃないんだけどね。
「…あん時は怒られたわ」
「そりゃそうだろ」
救急車に乗って来ていただいた人には、お酒は程々に、なんて注意されたし、大学では、初めて教師に怒られた。
ほんとに、お酒でいい思いはしない。
それがあってから、また何かやらかしてしまいそうで、俺は必要最低限のお酒は飲まないようになっていた。
別に楽しい話をしていた訳でも無いのに、青山は、まるでいい思い出だとでも言うような表情をする。
「……あの、俺少し外出てます」
しかし、俺からしてみれば、こんなに自分の汚点を一ノ瀬くんに晒されては、居心地が良いとはとても言えなかった。
だから、少しだけ外に出て、それからまた戻って来ようと思う。
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