アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1.不安だらけの引越し-2
-
ポン太との出会いは、偶然だった。
それは、李登が小学校低学年の時、下校途中に河川敷の下でクーンクーンと泣いている黒い仔犬を見付けた事がきっかけだった。
毛は汚れ、体はガリガリに痩せ細り、傷だらけだったその仔犬が、ポン太だ。
その時のポン太は、誰かに捨てられ、捨てられてから最低な人間にいじめられていた姿をしていて傷が痛々しく残っていた。
そんなポン太と目が合った瞬間、李登は『助けなきゃ』と瞬時に思い、すぐにポンを家に連れ帰り、家にあったミルクを少し温めて与えてみた。
すると、ポン太は恐る恐る李登があげたミルクをペロッと一回だけ口にし、大丈夫だと判断すると、一気にペロリと平らげる姿を見せてくれた。
その姿を見て安心した李登は、次に慣れない手つきで汚れたポン太を風呂に入れる事にして、傷を労わりながら丁寧にポン太の体を微温湯で洗って行く。
洗って行くと、汚れて黒かったポン太の毛の色は徐々に流れ落ち、本来の毛の色が現れた。
黒だと思っていたポン太の毛は狸のような茶色で、犬というよりも狸に見え、その姿を見て、李登はポン太と名付けたのだった。
そのポン太は、李登がタオルを持って来ようとその場から離れると、そっと李登の後ろを付いて行き、李登の足元に鼻を寄せる姿を見せる。
その姿を見ていると、昔の自分を見ているように思えた李登は、ポン太をぎゅっと強く抱き締めて不安を取り除いてあげようと試みた。
不安になると桃李の後ろにすぐ隠れていた自分と、李登の後ろを離れないポン太。
ポン太も捨てられたのだと思うと、自分の元から離したいとは思えなかった。
李登は悩む事無くポン太を飼う事に決め、親に何も言わずにポン太を飼った。
何も言わなくても、あまり家には帰って来ない二人なので、家に犬がいる事自体気付かないだろう。
けれど、犬を隠れて飼っている事を、父でも母でも無い人間に見付かってしまう。
それは、ポン太を飼って数日経ったある日、李登がトイレに行っている間、少し開いていた隙間から知らないうちに李登の後を追ったポン太が部屋から出て来てしまい、家の中で迷子になっている所を父の秘書に見付かってしまったのだ。
李登の不注意でポンが見つかり、父はその夜、久しぶりに家に帰って来ては一言目でポン太を飼う事を大反対してきた。
けれど、李登は何度同じ事を言われてもポン太を離さず、首を縦には振らなかった。
そんな李登を見て、自分が何を言っても無駄だと思った父は、李登が寝静まってから桃李に電話をした。
父は、李登は桃李の言う事なら素直に受け入れると思っているのだろう。
でも、桃李は逆に父を説得してくれ、ポン太を飼う事を認めさせてくれた。
桃李はポン太を李登の弟という位置に考え、李登だけではなく、ポン太にもおもちゃを買って送ってくれるようになり、李登の部屋にはポン太のおもちゃで沢山溢れている。
普通はそんな事をしないだろう。
そんな桃李の優しさを知っているくせに、李登はまだ感謝しきれずにいるのだ。
李登がトリマーになりたいと思った切っ掛けだって桃李が海外から送ってきた一冊の雑誌から始まっている。
英語で書いてあったその雑誌は、幼い李登には読めるわけがなかったのだが、絵本のように写真が沢山載っているのを見て、李登はその写真だけを見て目を輝かせた。
いろんな犬が一人の人間によって次々にカットされていき、別の犬のように変身していく。
そして、ハサミという先端が尖っている物を近付かせ、毛をカットされていても犬の表情は安心しきった表情を見せてリラックスした状態になっていた。
その時の李登にとって、それは衝撃的で、どうしてそんな安心した状態にできるのかが幼い李登には不思議だった。
この時の李登の夢は、動物と仲良くなりたい一心で獣医になりたいと思っていた。
けれど、勉強ができないと獣医にはなれないと分かった李登は、勉強を自分なりに頑張ってはいたが、成果がまったく出なくて自分には勉強は無理だと諦める事にした。
そんな時に送られてきた一冊の雑誌は、幼い李登の心を動かすのに十分だった。
桃李の手紙には、その仕事がトリマーと言う仕事だと書いてあり、李登はその初めて聞く“トリマー”という言葉になんだろうと不思議に思った。
その次の日の朝、李登は学校の図書室に向かい、いろんな仕事が分かりやすく説明されている一冊の分厚い本を取り出して、トリマーという言葉を探し始める。
〝ト〟の列を探していると、トリマーという職業はすぐに見付かり、李登はトリマーと言う職業がどんな事をするのかをその時初めて知る。
その当時はまだ幼かった李登だが、自分が目指している物がそこにあるように思えた。
「絶対…一人で頑張るんだ……」
両親に反対されて決めた道。
条件付きで、それを一つでも裏切ればここへまた戻される。その事を思うと、不安じゃないと言えば嘘になる。
けれど、両親の言いなりには絶対になりたくはない。
それに、自分の道は自分で決めたい。
「一緒に頑張ろうな、ポン太」
李登は不安な気持ちを打ち消そうと、大好きなポン太に話し掛ける。
そんな李登の心境が分かったのか、ポン太は黙って李登に撫でられながら、その小さな体でエールを贈ってくれていたのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
3 / 29