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4.最悪な告白の仕方-1
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「大丈夫か…?」
李登は次の日の学校を休んだ。
「大丈夫…ゲホッ…ゴホッ…」
それは、久しぶりに風邪を引いてしまったからだった。
昨日の帰りに雨が急に降り、アパートに着いてもそのまま着替えずに呆然としていたのが原因だと思う。
それと、精神的なショックも加わって。
「たく、心配かけんなよ」
陽二が心配してくれて学校帰りにお見舞いに来てくれた。
今日使った授業のノートと栄養ドリンクを持って。
「ごめん…心配掛けて…」
陽二がここに来た時に、風邪が移るからと言って中に入るのを阻止したのだが、陽二は強引に中に入って来てそのまま台所に立ったくれた。
そして、夕ご飯を作ってくれた。
卵が入ったお粥の味は、疲れ切った李登の心に沁みた。
「目も腫れてるから、ちゃんとこれつけろよ」
そう言って渡されたのは、冷たい水で絞ったタオルだった。
「ありがとう…」
「何かあったんだろ?」
陽二は鋭く聞いてきた。
「……。ちょっとね…」
陽二には言えない。言えるわけが無い。
李登が元晴の事が好きで、昨日失恋したなんて口が裂けても言う事はできない。
「まぁ、話したくなったらでいいから、話してくれよな」
陽二は李登が何かを隠している事が分かっているようで、それ以上は追求して来なかった。
「そう言えば、昨日スモモの首輪買いに行ったんだろ? 良いの買えたか?」
陽二は昨日李登が元晴と買い物に行く事になっていたのを知っている。
その質問に、李登は何て答えたら良いのか分からなくて、嘘を付いた。
「良いのが無かったから、買わなかった…」
買わなかったのでは無く、行かなかったのが正解だが、陽二にはそう言うしか無かった。
「そうか…。じゃあ、風邪が治ったら俺の行き付けの場所連れて行ってやるよ」
「本当?」
「だから早く風邪治せ」
陽二は李登のおでこに貼ってある熱を冷ますシートの上から軽くその部分を叩き、そう優しく言ってくれた。
「ありがとう…」
初めて、友達の存在がこんなにも大きい事に気付いた李登は嬉しくて泣きそうになる。
今までそんなに深く付き合う友達はいなかったから、家に遊びに来るとか、行くとかも経験が無かった。
今日、陽二が来たことは最初は戸惑ったけれど、嬉しかった。
「おい。携帯光ってるけど大丈夫か?」
「うん…。そのままで良いよ…」
陽二はそう言って携帯に指をやるが、李登は携帯が光っている理由が分かっているので取らなかった。
取らない理由は、電話の相手が元晴からだと分かっているからだ。
『今日来なかったけど、どうしたの?』
昨日来たメールはそんな内容だった。
李登はその内容に腹が立ったが、元晴は李登がその一部始終を見ていた事を知らないから何にも言えず、メールを返すことができない。
『バイトが長引いたので、今日は行けなくなった。ごめん』
そう送信すると、元晴からすぐに返信が来た。
『そうか…。俺も今日患者さんが緊急に入ったから、気にしなくて良いよ』
患者じゃないだろ。そう内心思いながらも李登は次にこう送った。
『これからバイトが忙しくて、天宮さんの家に前みたいに行けなくなった。スモモの事よろしくお願いします』
この気持ちのまま元晴のマンションに行き来する事はどうしてもできなかた。
たぶんマンションにはあの秋桜という人が一緒に住んでいる。
前々から、一人暮らしには広すぎるマンションだと思っていた。
最初は、犬を飼ったり、預かったりする為に広めのマンションを購入したのだと思っていたが違かったようだ。
二人で暮らす為のマンション。暮らしていたマンション。そう思えてきた。
『そうか…。昨日、哀原君来なくてスモモもアキオも元気が無かったんだ。忙しくなくなったら来てね』
そんなやり取りをして、メールは終わった。
けれど、元晴は何故か今日も李登に連絡をしてきた。
そんな元晴に対し、李登はもう何も考えたくなくてそのまま携帯を放置していたのだった。
このままじゃいけないと思っている。だが、スモモを引き取らない限りこの関係は続いていく。
元晴がスモモを飼う事になったのは李登が飼えないからだ。
だから、どうにかしてスモモを自分が飼えるような環境にしなくてはならない。そうすればこの関係は無くなる。
「陽二…。お願いがあるんだ」
「何だ改まって?」
李登は陽二にある事をお願いする事にした。
「スモモを三か月だけ預かって欲しいんだ…」
それが、1番の解決策だ。
その間に、李登はバイトを増やして家賃代を稼ぐ。三か月の間にお金を稼いで、スモモを引き取ってもそのまま続けて働けばなんとかなるだろうと考えた。
スモモには悪いが、シフトの時間をどうにかやり繰りすれば、餌をあげる時間だけでも帰る事ができるはずだ。
「俺はかまわないけど…。やっぱり、あの院長と何かあったな」
陽二は李登にそう言って来たが、溜息一回で流してくれた。
「身体には気をつけるんだぞ。スモモは何か月でも預かってやるからさ」
「ありがとう」
陽二は、またなと言って自宅に帰って行った。
そんな陽二を寝ながら見送り、李登は重い身体を起こして、携帯電話を開いた。
着信が二件来ていた。
二件共、元晴からだった。
「これで良いんだ…」
李登はそう自分自身に言い聞かせ、元晴の電話番号に発信した。
『もしもし?』
元晴はすぐに出た。
「ごめん、電話出れなくて」
李登はまず、電話に出れなかった理由を話した。
『そうだったのか。悪いね、熱があるのに』
「全然平気だよ」
熱は下がって来ている。身体もさっきよりも軽くて節々の痛さは感じなくなってきた。
けれどまだ、心の部分だけの痛みは消えない。
「どうしたの? 電話してきて…。まさかスモモに何かあった?」
李登はスモモの体調が悪くなったのかと思ってそう聞いた。
『違うんだ。逆に良い話しだよ。スモモの傷がもう完治したから包帯も取れるし、リハビリが自宅だけになったんだ』
李登はそれを聞いて良かったと思った。
『今では家中走り回って大変だよ。早く哀原君にも見せてあげたいよ。スモモ、君が帰って来るのが待ち遠しいみたいだよ。今日一日ソワソワしててさ。早く哀原君に元気になった自分の姿を見てもらいたいんだよ。俺も哀原君の喜んだ笑顔が見たい』
電話での会話。
なのに、なぜか元晴の笑っている顔が鮮明に映る。
そんな優しい言葉で言われてしまったら、李登はどうしたら良いんだろう。
そう思うと、昨日押し込んだ物がまた込み上げてくる。
『哀原君…?』
李登の笑顔が見たい。元晴はそう言ったが、李登はもう元晴の前で笑顔なんて向けられない。
「天宮さん…話しがあるんだ」
『何?』
李登は震えそうな声を我慢して元晴に打ち明けた。
「スモモを俺が引き取りたい」
『え…? 何を言ってるんだ? そんな事したら家賃が上がるんだろ?』
元晴は李登のアパートが動物を飼うとプラス三万円家賃が上がる事を知っている。だからポン太を飼う事を諦めたと知っているからこそ、李登がそんな事を急に言い始めるのがおかしいと思ったみたいだった。
「友達がスモモと一緒に暮らしてみたいって言ってくれたんだ。家も俺の近くだから安心できるし、そいつの性格も保証できる」
本当は陽二の家はここから少し離れていて、桃李の店の所が地元らしく、ここから専門学校ぐらいの距離にあるらしい。
でも今は嘘も方便だ。
『そうか…。俺には止める権利は無いからな…』
「天宮さんには色々お世話になって感謝してる。ありがとう…」
『でも…』
元晴が何かを言おうとした時、電話越しであの人の声が聞こえた。
石鹸が無い。そんな風な声が聞こえる。
「ごめん。頭痛くなってきたからもう寝るね。来週の日曜日の午後にスモモ引き取りに行く。その時に合鍵も返すから…ばいばい」
李登は一方的に電話を切った。
あのマンションに、やはりあの人が一緒に住んでいた。
その事が今の電話で分かってしまい、素直に傷付いている自分がいた。
「痛い…ここが…」
頭でも喉でも手足でもない。
心が痛い。
「助けてよ…天宮さん…」
李登は携帯を握り締め、心臓の部分を抑えながら涙を出すのを必死に堪えたのだった。
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