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4.最悪な告白の仕方-3
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日曜日。
李登は元晴に“今から行く”とメールを入れると返事はすぐに来た。
李登はすぐにアパートを出て元晴のマンションへと向かう。
この日が来るまでの数日、李登の頭の中では何も印象が残っていなかった。
ただ毎日同じ事の繰り返し。
そんな薄い日々をおくっていると、元晴と過ごした短い時間は李登の中でとても濃い物だったのだと思い知る。
スモモもいて、アキオもいて、誰かが側にいてくれるだけでこんなにも見方や時間の過ぎ方が違うのだと思った。
「着いちゃった…」
あっと言う間に行き慣れた元晴のマンションに着いた。
李登はエントランスゲートで元晴の部屋の番号を押し、何回かベルが鳴った後、ガチャッと鳴って通話状態になった。
「天宮さん、俺です」
『誰…?』
それは元晴の物では無く、あの人の声だった。
『郵便?』
声は何だか低く、訝しむような物だった。
だからか、李登は何を言えばいいのか分からなくなり黙ってしまう。
『間違ってるなら切るよ。今忙しいから』
そんな李登に対し、相手はそう言って話しを閉ざそうとしてきた。
それはまずいと思った李登は、慌てて話しを続ける。
「俺、哀原って言います。今日天宮さんと約束していたんですが、天宮さんに繋いでもらえませんか?」
李登はその人にそう聞くが、その人は何も答えてはくれなくなる。
「あの…?」
『元晴は今忙しいんだ。俺が話し聞くからそこにいて』
突然ガチャッとエントランスのインターフォンをガサツに切られ、李登はその場に立ち尽くしてしまう。
すると、背後から咳払いが聞こえ、李登は後ろに誰かが並んでいる事に気が付いた。
「すみません…」
李登は謝りながらその場を少し離れ、元晴から来たメールを見直す。
忙しいって言われたが、元晴にはさっきメールして返事が来た。
「待ってる」そう帰って来たメールを李登はもう一度見直した。
もう一回元晴にメールしてみようかと思うと、突然肩を掴まれた。
「あんたが哀原って言う人?」
その人物はやはりさっきの声の主、秋桜と言う人だった。
「そうですけど…」
李登は警戒しながら秋桜そうに言った。
「ここじゃなんだからこっち来て」
李登はエントランスホールの中に連れていかれ、誰もいない椅子に座らされた。
すると、秋桜の身体から甘い石鹸の匂いがして、李登は一瞬躊躇った。
「何? あぁ、匂った? 俺この石鹸好きなんだよ。薔薇の匂いがキツイのが気に入ってるんだ」
秋桜は自分の細くて白い腕を嗅いでそう言った。
「あの…俺今日天宮さんと前から約束していて、その事は天宮さんも知ってるんですけど…」
「だから?」
秋桜は李登の顔を睨むように見て来て、李登を困らせる。
「だからって…。天宮さんに俺が来た事言ってくれたんですか?」
李登はその威圧に負けじと聞く。
「言ってないよ。だってアイツ風呂に入ってたから」
「風呂って…」
「君いくつ? それくらいわかるよね? こんな真昼間から風呂に入ってるって意味?」
李登はそれを聞いて、信じられない気持ちでいっぱいになった。
「君…あの時見てたでしょ…?」
「え…?」
「俺と元晴がキスしてた所」
李登はそう言われて顔を真っ赤に染め、指摘されて恥ずかしくなった。見たのは行為では無いが、それを気付かれていたとは思わなかったからだ。
「あれは、身体が動かなくて…」
李登はそう言った。
事実だから。
「子供には刺激が強かった?」
秋桜は李登を馬鹿にした言い方をしてきて、秋桜は何をしたいのかが李登には分からず、更に困ってしまう。
「見てたなら分かるよな…。俺達縒り戻したんだ。縒り戻りたてで毎日抱き合っても足りないくらいなんだ。それを他人に邪魔されたくないわけ。元晴も、今日が来るのを溜息ついてたよ」
「天宮さんが…?」
李登は信じたくないけれど、二人の邪魔しているのは事実だから言葉が出なくなる。
石鹸の匂いを漂わす秋桜を見ていると、そうなんだと納得してしまうのが嫌だ。
「だからこうやって俺が来たわけ。嫌々会っても君だって傷付くだろ?」
元晴が自分と会うのを嫌がっていると聞いて、それは絶対違うと思った。
「天宮さんはそんな人じゃ無い…。俺は嫌々だったとしても会って話しがしたい」
「強情だね…誰かと似てる」
「え…?」
「あのさ、君あいつの何を知ってるわけ? アイツはお人好しで誰にでも優しいから誤解したのかもしれないけど、それは君の勘違いだから。アイツが好きなのは俺だけなんだよ」
強くはっきりとそう言われ、李登は言葉が出なかった。
秋桜の言っている事は図星だったからだ。
李登はまだ、元晴の事を何も知らない。
誕生日も血液型も何も知らない。
「何で泣くわけ? 事実を言ってるだけだよ」
そう言われて、自分が泣いている事に気付いた。
「はぁ…。だから優しくするのもほどほどにしとけって言ったんだ。こんな風に誤解する人間も出るんだって。ほんと馬鹿…」
それを聞いて李登はカチンと来た。
「優しい事が馬鹿なんですか…?」
「なんなの君?」
「俺が馬鹿なのは分かる。天宮さんに優しくされて…こんなに優しい人っているんだって思った。でも優しすぎるのが何で駄目なの? 優しくない人間よりも、優しい人間の方が良いに決ってる。だから…天宮さんを馬鹿って言うなッ」
自分が馬鹿だって言われる事は事実だから素直に受け止められる。でも、元晴は馬鹿なんかじゃない。
人間にも、動物にも優しくて偏見もない。お金が有る無いでもなく、飼い犬か捨て犬かでもなく、飼い猫か野良猫かでもない。
「あの人は、皆平等に見てくれるんだ。だから俺にも優しくしてくれたんだ。好きとか、嫌いとかじゃなく、あの人は皆に優しいんだ」
自分で言っていて辛い。元晴にとっての李登の位置は、周りの人間と一緒なのだと自分で言っているようなものだからだ。
「俺は天宮さんを何も分かって無い。でも…あの人がすんごく良い人で、優しい人だって事は誰よりも分かってる」
李登はそう言って立ち上がった。もう顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃでこんな所に長いできるほどの力も残っていない。
そんな李登を見て、秋桜は何も言わず呆然としていた。
そきて、李登はここにはもういたくなくて、外に出ようと扉に手を掛けると声を掛けられた。
「哀原君?」
それは元晴の声だった。
涙でぼやける視界が、一回瞬きをすると下に流れ視界が鮮明に見える。
元晴がスモモを連れてこっちに来ていた。
李登が来るのが遅くて迎えに来てくれたようだった。
「どうしたの? 泣いてるね…。コイツと何かあった?」
元晴は秋桜を指してそう言った。
「ごめんな。風呂場にいて気付かなかった」
風呂という単語が出て、李登はカッと頭に血が上った。
本人の口から、そんな事聞きたくなかった。
「ふざけんな…」
李登はもう自分自身を止める事ができなかった。
「哀原君…?」
李登の異変に気付いた元晴はスモモを抱えたまま李登の顔を覗き込もうとする。
李登は元晴の顔が近付いた瞬間、襟首を掴み自身に引き寄せ始める。
「…んっ…?」
押し付けるような口づけを李登は強引に元晴にした。
それがファーストキスなんて最悪だ。
そう思ったが、感情が止める事ができなかった。
「急に…どうしたんだ?」
唇と襟首を掴む手を離すと元晴は驚いた顔を李登に向けた。
「だ…」
李登は今しかないと思い、もう会う事もできないと思った。
なら最後に言ってしまおう。
「好きだッ、馬鹿ぁッ」
李登はスモモを奪って全力で走った。
最悪な告白の仕方だった。
走りながら、後悔ばかりが押し寄せてきて、李登の頭を罪悪感で埋める。
「好きなのに…っ、こんなに好きなのに…」
初めて、人を好きになる事がこんなに辛いのだと知った。
全力で帰った李登は、今日だけはアパートに置いて良いと大家さんから許しを得て、スモモを初めてアパートの中に迎えた。
スモモは初めての環境に慣れないでキョロキョロしていたが、李登と出会えた事が嬉しかったのか、李登の顔をじっと見て、吠える事もなく尻尾をずっと振っていた。
「ごめん…こんなことになって…」
スモモに罪は何も無い。ただ李登が元晴を好きになってしまったからこんな事になってしまったんだ。
これからスモモには良い環境にはならないだろう。でも自分が絶対に幸せにするからとスモモに言う。
「大丈夫。二人で頑張ろう」
李登はおもいっきりスモモを抱き締め、スモモの小さく鳴る心臓の音を聞く。
すると、薔薇の甘い匂いが李登の鼻を通って行き、切なさだけは心に留まったのだった。
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