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はるのきせつ
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3月 別れと旅立ちの季節
「お世話になりました。ここで働いた事を忘れません。」
花束の向こうの学生達は、輝く未来を見ている綺麗な瞳で泣いていた。
4月 新しい季節
「て、店長…」
雄大は店長を潤んだ瞳で見つめた。
「店長……僕…」
手にも背中に汗をかいてきた。
「僕……」
「雄大君、もうちょっとだから、ほら進むんだ。」
「む、無理…です…」
「大丈夫だ。もっと私の方へ…」
「いや……」
「無理っす!!もう動けないです!」
雄大は大声を上げた。
「頑張れ!そこで落としたら中身割れちゃうからー!涙」
従業員用の非常階段の上段から、段ボールを抱えた店長が、声を張り上げた。
「何で?何で今日に限って、搬入用エレベーター壊れてんの?何で??てか何で?1つの箱にこんなに詰めてんの?しかも全部陶器。何故か陶器だけ。何で?何のために?」
「雄大君!クエッションマークばっかりになってるよ。」
「だって、食器屋並みですよ。あと4パッキンも下に残ってるの僕見ましたよ。うちの店のシール貼られてる荷物だけ、隅に追いやられてましたよ!ってか何ですか?このシフト?僕今7連勤ですよ?明日も出勤ですよ。店長!店長聞いてます?」
「き、聞いてる。私は10連勤中。」
「早く…」
雄大は大声をあげた。
「早く新しい人、雇ってくださいよ〜〜!!」
この大きなショピングモール、”ライフタウン”の3階 「room service」に勤める椿 雄大は2つ、悩んでいた。
まず、職場では人手不足の為、連日勤務を余儀なくされ、体力の限界を迎えていた。
「7連勤…明日も働いて、明後日は休み☆で明々後日はラストまでで…って今日もラストまでで。。」
「やめてーー雄大君。呪いの言葉唱えながら品出しするのはーー。」
雄大の横で黒縁メガネをかけて、やつれた顔した店長が、隣で値付けをしていた。
雄大はくりくりとした大きな瞳で店長を見つめた。
「だって店長、3月にサブリーダーが転勤になって、バイトが2人辞めて、1人入ったけど、1日で来なくなったんですよ?今うちの店、僕、店長、パートの菊池さん、夕方からバイトの西川ちゃんですよ?菊池さんとこは春休みでお子さんいるから、残業できないんですよね?」
雄大はずりずりと店長に近寄った。
「う….うん。わかってる。。わかってるよ。。」
店長は激しく首を上下しながら、メガネを押さえていた。
「わかってます??」
「いや…求人は出してるんだよ。でもどこの店舗も人手不足みたいだよ?」
「で?どうします?」
「本社にも誰か回してくれるようにお願いしてるし…」
「で??」
「えっーと…」
「店長ーーー!」
パートの菊池さんの声で店長はパアッと顔を上げた。
「あっ、はいっ!!雄大君、ごめんね☆」
軽い足取りで逃げる店長に雄大は「チッ」と舌打ちをした。
「はあっ。。」
雄大は段ボールの中の重なった皿を見つめた。
「重たい…」
小さな豆ができた手を見つめた。
「………」
ふと腕に巻いた時計を見るともう16時を指していた。
「やばい…」
(早くしないと!もう来る時間になっちゃう!)
雄大はよいしょと段ボールを持ち上げた。
もう1つ、悩みは…….
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