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負けてる関係
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鉛を飲み込んだように胃が重い
今日に限って、客足は少ないと言うか、あの2人しかいなかった。
時折聞こえる女性の高い声に顔をつい向けると、黒のスーツをスッと着こなした加藤とベージュのタイトスカートに同色のカーディガンを着てスラリと長い足を出した女性が、楽しそうに顔を寄せ合ってる。
(周りから見れば似合いのカップルだな。。)
もしかしてあれがミスなんたらかな…と思ったりすると、益々、胃がずしりと重くなる。
(僕なんかより、一緒にいる時間多いんだろうな。僕なんかここでちょっと会うだけ…)
女性の言葉に加藤が声を出して笑った。
(僕なんかより、加藤さんのこと知ってんだろうな…僕は何も知らない…)
はぁっーとため息を吐いた。
(僕は加藤さんに…)
こちらに加藤が近づいて来て、雄大はハッとした。
(ダメダメ!)
雄大は顔を引き締め、今できる笑顔を浮かべた。
「き、決まりましたか?」
少し声が上ずった。
「うん。ようやくね。」
優しい笑顔を浮かべて、加藤は持っていた買い物かごをレジ机に置いた。
「いいのありましたか?」
なるべく笑顔を絶やさないように無理矢理に口を横に引っ張った。
「俺はここの商品好きだけど、女の子はこまかいよね。あーだこーだ言うからさ。」
疲れたように肩を落とす加藤を見て、少し優越感を感じた。
「あははっ。人にあげるものですか、あーだこーだ言った方がいいですよ。」
「雄大君もあーだこーだ言うの?」
見上げると加藤の悪戯っぽい目と目が合った。
「僕も…言うかも…」
「雄大君のあーだこーだは終わってほしく無いな。あーだこーだ言ってたら、ずっと一緒にいれるだろう?」
身を乗り出しそうな加藤に雄大は言葉を詰まらせた。
「えっと…(汗)あっ、あれ?あの会社の方は?」
(もしかして帰った!?)
雄大は一気にテンション上がった。
「今、お手洗い行ってる。」
(まぁ….帰るわけ無いわな…)
肩を落とした雄大はかごの中の商品を読み込み始めた。
ピッピッピッ
加藤の視線を感じながら、雄大はようやく胃の中の鉛を吐き出すように口を開いた。
「あっ、あの人がミスなんたらの人ですか?」
顔を上げずにドキドキしていると加藤の声が降ってきた。
「いや、違うよ。」
「あっ!違うんですか?」
雄大はパッと顔を上げた。
「あの子は同じ部署の2個下の子。」
「そうなんですね。。」
(てか加藤さんの会社って綺麗な人が多いのかも!)
何故かホッとしたものの、新たな不安が頭を巡った。
「雄大君、ミスの人にそんな興味あるの?」
「えっ?」
「今度、連れてきてあげようか?」
からかうように加藤に言われ、雄大は胸がピリっ痛んだ。
(イテッ。。)
「ミスとか言われると気になるよね。」
「そんな事は…」
「いいんだ、いいんだ。うちの会社の奴も履歴書来ただけで、テンション上がったもん。」
そう言って笑っている加藤を見るのは辛かった。
”なんでそんなこと言うの?”
こんな言葉で嫉妬するほど深い関係でもないし、こんな事を言う加藤の気持ちを汲めるほど、性格もどんな人生を歩んで来たのかもわからない。
「加藤さーん。お会計?」
コツコツとヒールを鳴らしながら、女性が近づいて来た。
「うん。もう終わるよ。」
女性はかごの中を覗き込んだ。
「それ、包んでもらったらどうです?」
「でも数多いし。」
「ラッピングは無料でしょう?」
「あっ、はい。」
「いいよ。包むならこっちで出来るし。」
加藤が擁護するような口振りで言うので、雄大は「いえ!」と声を上げた。
2人が一斉に雄大を見てきた。
「….大丈夫です。。」
「そう?じゃあ、私達、1階でコーヒー飲みません?それどれくらいかかる?」
「…30分もあれば…」
「じゃあ、1時間後に来るわ。行きましょう、加藤さん。」
「あっ…」
加藤は雄大を振り返りながら、彼女に引っ張られて行った。
「何やってるんですか?」
「プレゼント包装だよ…」
鼻をすすって、テープを貼った。
「……」
日に焼けた手が、レジの下から包装紙を取り出した。
「…裏、終わったのかよ。」
「はい。これ、どれくらいで取りに来るんですか?」
「…1時間…1時間半くらいかな。」
「そうですか。余裕ありますね。」
「うん…」
シャッシャッ
2人の間にはその音しか無かった。
雄大はちらりと上村をうかがった。
「何ですか?」
すぐに鋭い目とあたり、雄大はうっと詰まりながらも口を開いた。
「…これ、引き渡ししてくれないかな?」
上村に頼み事するのは初めてだった。
「引き渡しですか?」
「うん…」
”何故?”と聞かれた時の言い訳を考えて、雄大は焦って目を離した。
「いいですよ。」
「えっ?本当!?」
雄大はつい顔を綻ばせた。
「だから客とは一定以上の関係にはなるなって事なんですよ。」
「えっ…」
雄大の顔が固まった。
「何を言われたか知りませんけど、相手に言いたい事も言えない距離の関係ならすでに破綻してると思います。」
息が苦しくなる。
「それに急にそんな顔して立たれるとこっちが迷惑です。」
上村の鋭い目はナイフのように突き刺さる。
「………」
「あとは俺がしときますから、椿さんは帰って下さい。さっき、西川さんが来ましたから。」
「….ごめん。。」
「お疲れ様です。」
サクサクと上村が包装を再開しだした。
「お疲れ様……」
ボロボロになった身体を引きずりながら、雄大はレジから離れた。
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