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雨の時期
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「俺が教えてあげるよ。」
「うわぁーーーーーぁ!!!」
「雄大ーー!母さんが今日、早番じゃなかったかって?」
ドアの向こうで詩央里の声がした。
汗をびっしょりかき、息の上がった雄大はカラカラになった喉を両手で掴んだ。
「雄大ーーー?」
ハッとして時計を見た。
9時20分
「まずい!!」
雄大は布団を弾け飛ばし、ベッドから飛び降りた瞬間、
グギッ
左の足首が変な方向に曲がった。
「おはよう。あれ?雄大君、濡れてるじゃん。」
「チャ、チャリで来たんで…すみません、遅れちゃって。」
「いいよ、いいよ。今日は入荷少ないし。あっ、じゃあ今日1時間長く働いてくれない?ディスプレイ変えたくて。」
「あっ、いいですよ。」
「ありがとう!助かる!しかし、結構、濡れてるけど、大丈夫?」
髪についた雫が首元に入り込んで、冷たかった。
「合羽を着てたんですが、なんか破れてたみたいで…すぐ着替えますんで。」
濡れねずみのようになった雄大は、いそいそとスタッフルームへと向かった。
「イテッ!」
途中、左から走ってきた野上が思いっきり、雄大にぶつかってきた。
「いたぁーい!!」
肩を押さえて見ると、大袈裟に眉を寄せ、唇を尖らす野上が近くの棚に手を置いて、身体を支えていた。
「やだー、痛かったーーもうーー。」
(ぶつかってきたのは君だけど。。)
「…ごめん。」
「やだーーちょっと濡れたしーー」
ばさばさとぶつかった部分を手で払う野上に雄大は、困った顔をして、そっとその場を去った。
左足が再びズキンと痛み出した。
ボーナス前だし、雨だし、今日は客は少ないだろうと踏んでいたが、トンデモなかった。
傘が売れるとプレゼント包装に時間がかかるし、新しく入ったビニールバッグは不良品が混じっていて、本社から回収作業に追われるし、迷子が泣き出して、迷子カウンターに連れて行くハメになるし。
野上は若いカップルが来て、彼女が選んでる隙に男性に携帯番号を渡すという修羅場になりそうな設定を作ろうとした。
上村と西川が出勤し、上村の周りを野上がちょろちょろし出して、ようやく店は落ち着きを取り戻した。
雄大はホッと息を吐いて、レジカウンターに軽くもたれた時、ズキンとした痛みを思い出した。
(まだ…痛むな…)
「あっ、雄大君!」
目の前をはしごを肩にか担いだ店長が通りかかった。
「あれ?店長、今日は上がりでしょう?ラストは野上さんだし…」
「雄大君、忘れてない?ディスプレイだよ!ディスプレイ!」
「あっ…」
雄大はポンっと手を叩いて、レジから出た。
「…あれ…ですか?」
雄大と店長は店の一番端の壁を見上げていた。
「あれ……」
視線の先には大きな掛け時計が3つ程下がっていた。
「あれ…ずっと売れてないですよね。」
「うん、目立たないし、デカイしね。。」
「一つ、なんか時計止まってません?あの端の奴。」
「ホントだね。。」
店長はグイッと眼鏡を押し上げて、テキパキと梯子を組み立てた。
「あの時計を外して、代わりにあそこに簾の見本を下げるつもり。とりあえず、今日は時計を外して、あそこの壁を拭いてくれればいいから。しかし、床が濡れてるなー危ないなー。」
雄大は滑りやすくなった床と左足の不安を覚え、下を向いた。
「?どうした?キツイなら上村君に登らせようか?あれ、重いし。」
雄大はばっと顔を上げた。
「大丈夫です!僕、男ですから!!」
ギッと時計を見上げ、雄大は梯子に手をかけた。
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