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煙草とベンチ
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上村君の遠回しな感情表現は、いつも形が見えずにただただ、悩むばかりだった。
成康さんへの想いは……あの優しい低い声も初めて会った時の凛とした横顔もまだ自分の心の中に燻っていて、振り払おうにも振り払えなかった。
「何だよ、シケたツラしてるなー。」
「別に。。」
「仮にも俺はお前の探偵ごっこに付き合ってやったんだぞ。それをあんな所で置いてけぼりにして…ううっ…」
「貴方がいけなかったんでしょう?あんなコト…するから….」
「あれは男同士のやり方を教えてやろうと…」
「やめてください!黒田さん!!」
雄大は自分の唇に人差し指を当てて、隣で煙草に火をつけようとする黒田をクワッと睨んだ。
「あっ、はいはい。」
「もう…….」
喫煙所には雄大達以外に暇を持て余したような男性が2人、興味ありげに耳を立てて、雄大達の会話を聞いていた。
「あの、なんでここにいるんですか?」
「ん?あぁ、元奥さんのお店があるんでね。」
「えっ!?奥さん!?」
目を見開いて横を向くと口の端に煙草を咥えた黒田が興味なさそうに目の端を上げた。
「まぁ、成田離婚したから、奥さんになってたのは1週間もないくけどね。」
「な、成田離婚?」
「あっ、若い子は知らないか。新婚旅行いって、帰って来たら別れてたの。」
「えっ!?」
そんな離婚話に雄大は目をパチクリさせた。
「また何で…?」
黒田は興味無さげに煙を吐いた。
「新婚旅行先で俺がホテルのカジノで持ってきた全財産をスッちゃったんだよ。しかも初日に。」
「…それで離婚?」
「そっ。まぁ、初夜に旦那にそんな事されたら、こいつといるともう人生真っ暗だなって思うよね。その日に三文判突きつけられたよ。」
「…うわぁ…」
「本当、うわぁ…だよね。相手の両親に殺されかけたよ。」
「でも、まだ付き合いがあるんですね。」
黒田は深々とメンソールの煙を吐いた。
「なんか今回、店長になったから、店見に来て欲しいって言われて。出世祝いに何買って貰おうと思ったみたいだけど、見に行ったらヒラヒラの服ばっかだったんだよ。あの女、『今の彼女に買ったら?』だってよ!いけしゃあしゃあと言いやがって。離婚した後、すぐに新婚旅行先で知り合った男と結婚したしな。だからあいつは今でも俺に連絡よこしたりできるんだよ。」
「…うわぁ…」
昼ドラのような話に雄大は身体を引いた。
「だから俺は最近は男しか手を出さないの。」
黒田は雄大の太ももに手を置いた。
「やめて下さいよ。」
雄大はパチリと黒田の手を払って、立ち上がった。
「だって今、君は誰とも付き合ってないだろう?」
子供が喫煙所の外から手を振り、1人は急いで煙草を消して去り、もう1人もつられるように喫煙所を出た。
「うちのね、加藤君、知ってる?最近、めっきり元気が無くてね。どうも付き合ってると思ってる子に電話しても出てくれないみたい。」
黒田は砕けた感じに足を組み、雄大に自分の煙草の箱を勧めた。
「……」
雄大は慎重に黒田の横に座り、煙草を一本抜いた。
「その子は先週、怪我をして、加藤君は丁度そこに居合わせたんだけど、最後まで見届けられなかったって。」
ポッと青い火が顔の前で灯された。
「それをすごく悔やんでいて、とりあえず1日目はは安静だろうと思って連絡しなかったって。2日目になって電話をしたけど出なかった。3日目、4日目…」
大きく煙を吸い込むと気管が不快感で満たされ、すぐに煙を吐き出した。
「ゲボゲホゲホ…」
黒田の手が伸び、むせる雄大の手から煙草を取り上げた。
「全く電話に出ないからもしかしてもしかしてと思い、お店の方にも行ったけど、どうも聞きにくい店員しかいなくて、おずおずと帰って来たって。意外と情けないよな、あいつ。」
黒田は雄大から取り上げた煙草をゆっくりと吸い込み、紫煙を吐いた。
「見てらんなかったよ。いつも冷静で、客とのトラブルもないあいつが、うわの空で変なミスして、ため息ついて。」
黒田は咥えていた煙草を外し、煙草を挟んだままの手で、雄大の口に咥えさせた。
「ゆっくり吸って、あまり大きく吸い込むな。」
雄大は目をキョロキョロさせて、煙を吸い込んだ。
「んで、昨日お店に行ったら、店長がいて、その子が既に復帰してるのを知った。よかったと思った反面、連絡がなかった事にかなりショックを受けてたよ。30前のいい大人がよ、目を真っ赤にして、痛々しかったよ。」
煙草が雄大の口から離れ、煙と共に息を吐いた。
「で?なんであいつに連絡しなかったんだ?」
ズボンのポケットに入れている携帯を気にするように黒田から目を外した。
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