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ネズミの気持ち
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(なんで!?)
雄大はつい頭を動かてしまい、カウンターの板に強く頭をぶつけてしまった。
ガツン
「イッ……」
ガシャン
雄大が声を上げた瞬間、目の先でグラスが割れた。
「あら?ごめんなさいね。手元が狂っちゃって。」
「大丈夫、ママ?俺が片付けようか?」
「あら?ありがとう。じゃあ、黒ちゃん、そっちから入ってくれる。」
しゃがんだママが雄大に目配せした。
「俺がしますよ。」
「いやいや!加藤はそこで飲んでろ。いや、座ってろ。ママ、加藤にバーボンを。」
「あら、氷無いわ。ちょっとお隣に貰いに行ってくるわ。」
「店番しとくよ。」
カラカラカラン
ママが居なくなった店内は、更に静かになった。
コツコツコツコツ
黒田の足音が近づき、黒い革靴が目の先に見えた。
「で?何で言えないんだ?」
「……プライベートな問題です。雄大君には関係ない。」
黒田が膝を曲げたので、雄大は黒田の顔を見ることができた。黒田は雄大には目を向けず、散らばった透明なグラスの欠片を拾い出した。
(そんな……)
急に一人ぼっちにされたような切り裂かれたような痛みが走った。
「俺でさえ、お前が元カノと歩いてるって情報を得たんだ。雄大君が知らないって保証は無いぜ。」
ちらりと黒田が雄大を見た。その目はもう少し耐えろと言っているような気がして、ぐっと唇を噛んだ。
「わかってます……もう彼は知っているんだと思います。」
「へぇーそれでも言わないのか?」
黒田はカシャンカシャンとガラスの欠片を積み重ねた。
「今はまだ…」
「でも雄大君に電話してるんだろう?それを話すつもりじゃなかったのか?」
黒田と目が合った。
「電話は…ただ声が聞きたかったんです。」
(えっ……?)
雄大は成康のいるカウンターを見上げた。
「怪我をしたのを心配だったのもあるんですが、声が聞きたかったんです。最近、色々あったから……雄大君の声が聞きたかったんです。」
(どんな顔をして、そんな事を言ってるんだろう…)
顔が見たかった。
参ったような成康の声が本当なのか顔が見たかった。
(何が正しいのかわからない…)
雄大は我慢の限界が目から溢れ出した。
「おい!?」
黒田が雄大を見て、声を上げたが、雄大の涙は止まらなかった。
「おい?」
「あっ、いや。今ネズミがいてさ。」
すぐに黒田は立ち上がった為、黒の革靴しか見えなくなった。
「ネズミ…ですか?」
「あぁ、カウンター覗くな!ネズミが逃げる!」
「えっ?」
「とにかく、お前はもう帰れ。今からバルサン焚くから!」
「いや…まだママも帰ってこないし、ここの勘定も。」
「いいよ!バルサン焚いて、ママにタダにしてもらうから!」
「…はっ…はあ。。でも勝手に焚いたら…」
「大丈夫だ!さっき、メールしといたから。」
雄大の涙が少し引っ込んだ。
(黒田さん、支離滅裂です。。)
「わかりました…」
成康は低い声で返した。
ゴゴゴゴ
と椅子の動く音がした。
(全然…解決してない…)
雄大は溢れ出す涙を両手で拭った。
「あっ、加藤。」
雄大はビクッとした。
(何呼び止めてんだよ。もういいよ。。)
雄大は頭を膝につけた。
「今日、雄大君見てきたけど、元気そうだったよ。」
雄大は目をパチクリさせ、頭を上げた。
(何を‥一体…?)
一瞬、間があった。
雄大はまたドキドキしながら、身体を縮めた。
「そうですか…」
ホッとしたような声が聞こえた。
「よかった。」
その言葉で雄大は更に切なくなった。
「ほら、大丈夫か?」
黒田に手を引かれ、雄大はズルズルとカウンターの下から這い出た。
「お前、きったねえ顔になってるぞ。」
黒田は雄大の顔におしぼりを投げつけた。
「…うっ…だって…」
ポトリとおしぼりを落としてしまった。
手も足も上手く動かない。
黒田は「しょうがねえなぁ」と言って、雄大のべそべそした顔を強引に拭った。
「あいつ…何を隠してるんだ?」
黒田は雄大の手を拭きながら、ぽつりと呟いた。
「えっ…?だから”ミサ”さんと付き合ってるって….」
言っていて悲しくなる事実に肩を落とした。
「僕、振られたんでしょうか?」
また涙が込み上げてくる。
「……あいつはそんなことする奴じゃないよ。真面目で礼儀正しくて、正義感の強い奴だ。あと……」
「あと…?」
「一つのことに執着心が強い。」
黒田はそう言って雄大を指差した。
「だからあいつは何かをあって、”ミサ”って女に会ってるんだ。」
「……好きだからじゃないんですか?」
黒田はギラリと雄大を睨んだ。
「とにかく!黒田探偵事務所、再開だ!」
「はぁ?」
黒田は首を傾げて、眉をひそめる雄大の顎に手をかけた。
「真実明らかになった方が、お前も先に進みやすいだろう?」
「えっ…?」
黒田は顔を近付け、雄大の唇に吸いついた。
頭はビックリしてるのに、手足は痺れ、腰が痛くて、て抵抗できずにただばたついた。
「んっ…ん!」
雄大の下唇を軽く甘噛みされるとこそばゆいくなった。すると黒田は緩んだ雄大の口内に舌先を入れ、歯肉をなぞってきた。
メンソールとアルコールの香り…雄大は酔いそうになった。
ぬらりと舌が口の中に入ってきた時、雄大はハッとして、歯を食いしばった。
「痛えっ!噛みやがったな!」
黒田が雄大を乱暴に押した。
「だって…だって…」
雄大はビールケースに背中をぶつけ、鼻をすすった。
「ちぇっ…少しは美味し思いさせろよな…」
黒田は立ち上がり、雄大に近づいた。
さらり
黒田の綺麗な手が雄大の頭に伸びた。
黒田は雄大の額の髪を上にあげた。
雄大はギュっと閉じた。
チュッ
額に柔らかい感触がした。
「前金くらいは貰っとかないとな。」
雄大が目を開けると黒田は雄大の前髪を撫でた。
「俺が調べてやるから。」
どんな結果になろうとこのままじゃあ前に進むない。
”どんな結果になろうと”
僕は受け止める。
人は秒刻みで変わっていく事を、一つも片付かない事に気づかされる事になる。
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