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海の日
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成康さんはわかっているはずだ…僕が真実を知っていることを。
(僕が”ミサ”さんとのことを知ってるって言ったら、どう返してくれるんだろう?)
休憩時間も残り少ない。ふと残してきた上村の事を思い出した。
(早く…早く帰ったほうがいいのに…)
向かい合うこの人の顔を見ると、やはり胸がドキドキする。一挙一動が美しく見える。
(でも…この人は…僕の知らない人だ…)
雄大は目を閉じて、ギュッと手を握った。
「雄大君。」
低い柔らかい声がした。
顔を上げるといつもの優しい微笑みの成康がいた。
「もう足はいいの?」
「はっ、はい。その節はどうも…ご迷惑おかけして。。」
雄大は急な展開にしどろもどろに答えた。
「よかった。それだけが知りたくて。何度も電話してごめんね。」
「…いえ…」
(僕も…聞きたいことが…)
雄大はもう一度、手を握ろうとした。ところが前の成康はカタカタと椅子を鳴らした。
「じゃあ、もう行こうか。」
「!!?」
立ち上がった成康をついマジマジ見上げた。
「もう休憩時間終わりみたいだし。」
「えっ?」
(なんでわかったんだ!?)
成康はその雄大の気持ちがわかったかのようにくすっと笑った。
「何度も時計を気にしてるから。」
「あっ……」
雄大は赤くなりながら、立ち上がった。
「ぼ、僕、器返してきます。」
ガタガタと立ち上がり、成康を見ずにうどん屋の返却口へ小走りで向かった。
「ご馳走様でした。」
雄大が小さくお礼を言うと、ガタイの大きな男性が3人、厨房から返却口に顔を向けてきた。
「ありがとうございました!!」
おおっと思いながら、雄大は後ずさりしながら、うどん屋から立ち去った。
(もう帰ってくれるといいな…)
すっかり戦意をなくした雄大は、うどん屋のカウンターからトボトボと歩いていた。
(僕が成康さんに対する気持ちはそんなもんだったんだろうか…?)
「雄大君、終わった?」
フードコートの出入り口にいる成康が手を振った。周りを家族連れや子供たちがワーワー騒いでるの中に、白いTシャツに濃目のジーンズという簡素な格好の成康の出で立ちは、洗練されていて、輝いていた。
胸がギュッと掴まれた。
さっきまで胸に靄がかかっていたのに今ははっきりとして、胸をつかまれる。
「これ。」
成康はぼっーとする雄大に近づいて、紙袋を差し出した。
「??」
紙袋は温かく、美味しそうな油の匂いがした。
雄大は紙袋を見て、パアッと表情を輝かせて成康を見上げた。
「ハンバーガー!?」
「冷めるかもしれないけど、もう少し時間をあけてたべるんだよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「お店まで歩こう。」
成康は満足そうに笑って、雄大を促した。
昼間の人より少なくはなったが、モールはまだまだ人がいつもより沢山いた。
3人の子供に手を引かれるお父さん、買い物袋を持った満足そうなお母さん、同じような格好をした女の子たち、今からモールを楽しむように寄り添って歩く男女。
(僕たちはどう見られてるんだろう?)
兄弟?友達?ただ単に横を歩いている他人。
「……」
見上げる成康の斜め下からの角度はいつも完璧だ。
長い首筋、高い鼻、形の良い耳、きめ細かい肌。
女性と歩けば、恋人同士と思うだろう。そして周りがお似合いだと言う。
(僕と歩いても何のメリットもない。。)
「今日、海の日なんだって。」
ボッーとしたいた雄大は、始め成康の言葉を聞き取れなかった。
「あっ?えっ…?」
成康はくすくすと笑った。
「今日は海の日っていう祝日なんだって。」
「そうなんですか…すっかり忘れてました。僕達には関係ないってか、稼ぎ時ってか…」
「あははっ。そうだね。」
それからしばらく2人は静かだった。
周りの喧騒の中で、そこだけ静かだった。
お店が見えてきた。
(僕はまた何も言えないのか…)
雄大がショボンとしているとまた隣の足取りが止まった。
雄大が振り返ると少し疲れたような成康の顔がいた。
「今日は…雄大君の顔を見るだけに来たんだ。」
「えっ…?」
「見るだけ…ただ見るだけにしたかった…」
「??」
最後の方はよく聞き取れなかったので、雄大は首を傾げた。
パッと成康は顔を明るく上げた。
「雄大君、君と海に行けたらイイな!!」
「えっ……?」
雄大が聞き返すと成康は肩を落とした。
「君に触れたられたらイイな……」
聞き取れなくて、雄大は近づこいとした。
「何て…?」
成康はまたパッと明るい表情になり、後ずさりした。
「じゃあ、仕事頑張ってね。」
「あっ……」
たたっと軽やかに走り去って行く成康に雄大はただ手を伸ばすことも出来ずにぽつんとした穴だけが残った。
(成康さん…貴方は…一体何を隠しているんですか?)
「椿さん、お帰りなさい。お店はこっちですよ。」
両脇に浮き輪を抱えた上村が、入り口から声をかけてくれた。
「あぁ……ってわかってるよ!」
少しホッとして、駆け足で売り場へと急いだ。
3日後、雄大の携帯に見慣れない番号の着信が残っていた。
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