アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
青い法被の人
-
川沿いから丘に上がり、しばらく下で見ている人達を見ていた。
「いたいた、雄大。」
黒田の声がしたが、雄大は顔を向けなかった。
「ごめんごめん。女の子達が離してくれなくて。ん?どうした?お面被って。」
雄大は打ち上がり花火ではなく、下に集まった人達を見つめた。
「なんでこんなとこ連れてきたんだよ。」
お面からの声は反射して、自分の独り言のように聞こえる。
「えっ?」
雄大は黒田を小さな丸い穴から見つめた。
「僕の気持ちを地の底におとすため?そりゃあ大成功ですよ。僕はもう立ちあがれない。」
「おい、何言ってんだ?」
黒田がお面を外そうとしたので、雄大は手で払った、
「なんでこんなトコ連れてきたんだよ!なんで余計な事教えてくれるんだよ!!なんで…なんで…」
(こんなのただの八つ当たりだ!)
じっとりと額に汗がたまる。
「雄大、何があったんだ?」
黒田が雄大に手を伸ばし、腕を掴んだ。
「あんたのせいだ!なんで……なんでだよ…」
「何を見たのか知らないが、見たものだけを信じるな。」
「うるさい!見たものが現実だろう!それ以上でも以下でもない。それが真実だ!」
「雄大!!」
雄大は黒田の手を払いのけ、人混みの中へ駆け込んだ。
後ろで自分の名前を呼ぶ声がする。
しかし声はすぐに打ち上がった花火でかき消された。
(違う…黒田さんは悪くない…)
わかっているのに振り向けなかった。
小さな穴の向こうは左右がほとんど見えずに雄大はドンと誰かに後ろからぶつかられ、そのまま前に倒れた。
「イッテぇ…」
目の前には砂利と人々の足、そしてひそひそと非難するような声。
涙が流れ、しょぱい涙が口に流れ込んだ。
(もう…やだ…)
雄大はギュッと拳を作った。
「大丈夫?」
涙で前が見えない雄大の腕を大きな手が掴んだ。
「ぼく、大丈夫?」
大きな手はよいしょと雄大を立たせた。
「あぁ、血が出てる。こっちにおいで。」
優しい声に手を引かれ、雄大はひくひくと泣いていた。
「ほら、ここに座って。」
テントの中に引きずられ、パイプ椅子に座らされても雄大の嗚咽は中々止まらなかった。
「ほら、泣かないで。お面とっていいかな?」
パッと明るい光が顔に当たり、涙の目が眩しかった。
一時静かになり、雄大は落ち着かせるように何度も鼻をすすった。
「……椿さん?」
「えっ?」
急に名前を呼ばれ、雄大は手で涙をぬぐった。
目の前には青い法被を着た上村がびっくりした顔で立っていた。
「上村…君?」
さっきのまでくぐもっていた音がクリアに聞こえ始めた。
「どうしてここに…?」
上村は地面に膝をつき、雄大の血の出ている右膝にガーゼを当てた。
「イタっ!」
「我慢です。俺はこの町の青年団に入ってるんですよ。だから今日は救護班で、ここに詰めてたんです。…はい。」
バチンと大きな絆創膏を貼られ、雄大はごにょごにょっとありがとうを言った。
「で、そっちはなんでいるんですか?」
上村は膝をついたまま、冷たいおしぼりを雄大の顔に押し付けた。
「なんでって……祭りに来たんだよ。」
上村の大きな手が雄大の頭を押さえ、顔を強く拭われた。
「お面被って泣いて?いじめにでもあったんですか?」
「違う……」
ドン!!
花火が上がる音がする。
「花火、まだ上がってるんだ。」
上村がテントの外に顔を向けた。
黒田さんはまだ帰っていないんだろうか?
まだ2人は花火を見ているんだろうか?
雄大はまた涙が溢れてきた。
「つ、椿さん?」
雄大は上村の法被の袖を両手で握り締めた。
「違う……せいじゃないのに…僕、ひどい事いった……だって…好きだって言ってくれて…….僕は会った時からいいなって……なのに……こんなのって……好きなのに……」
しゃくり上げながら、雄大はつまりつまりに言葉を並べた。
苦しくて、苦しくて、切なくて、上手く喋れなくて、苦しくて、苦しくて。
泣きすぎて頭も身体も痛かった。
「なんで……僕じゃない…」
ギュッと雄大は身体は力強さに包まれた。
「もういいよ。」
汗と屋台の煙のような匂いが鼻先にあった。
その匂いはどこか安心できるような、温かい匂いだった。
相手の心臓の音が聞こえるような気がした。
「もう大丈夫だから。」
”大丈夫だから。”
その言葉に雄大は上村の背中に手を回し、ギュッと法被を握り締めた。
「もう忘れればいい。」
涙で法被を濡らしてしまった。
(忘れる…忘れるなんて….できるのだろうか…?)
雄大は上村に強くすがりついた。
後ろで大きな花火が打ち上がった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
65 / 147