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一休み②
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先輩である椿 雄大さんは私の半分くらいの人だ。
「椿さん、今から休憩ですか?」
「あっ…うん。。」
時計は15時を回ったところだった。
「中々、休憩に行けなくて…」
そう言って黄色い箱の栄養補助食品を開ける椿さんは一層細く見えた。
「牟田さん、今日は上がり?」
「はい。お盆は変なシフトになってまして。」
「ははっ…店長、優しいからみんなの要求飲んでたらこんな事になっちゃったんだよね。」
そう言う椿さんはこの店で一番優しくて、しっかりしていて、しかも顔立ちの整った人だと思う。
くりくりした茶色の大きな瞳で、白い肌で、輪郭や鼻や唇は小さくて、身体は折れそうなくらい華奢で、感じのいい笑顔を浮かべたら、大概の人間はキュンキュンしてしまうだろう。何でも許してしまうだ。
しかし、その優しさゆえか、顔立ちゆえか、今日もずっと県外のお客様に捕まり、お客様の県で買えるからどうかを電話でずっと問い合わせていたのだ。
つまりそう言う”当たりたくない客”に捕まりやすい人でもある。
「随分と電話してましたね?」
「ん?あぁ…あっちもバイトの子しかいなくてさ。本社もその商品担当の人が休みで。大量注文だったばっかりに色々…ね。」
「椿さん、大量注文よく当たりますよね。」
「……うん。」
サクリと栄養補助食品を食べる姿を見てるとその細い身体ならそれで足りるのかと関心する。
自分のお昼は弁当+ラーメン+炭酸ジュースに締めはアイスクリームだ。
あっ、もうお腹が空いてきた。
「16時から上村さんでしたっけ?」
「……かな?」
椿さんが困ったように首を傾けたので、私はシフト表を見直して、「です、です」と首を縦に振った。
上村さんは大学一年の普段は夕勤のバイト生。
今年から入ったらしいけど、仕事はよくできるし、お客様の中ではファンクラブまであると噂があるくらい顔立ちもいい。
私は好きなタイプではないが、社員の野上さんやバイトの西川さんはあからさまに取り合っていた。
私はどちらかと言うとお客様で、椿さんの知り合いらしい人のほうがタイプだ。
いつも暗色のスーツをビシッと着こなし、手足が長く、大人の色気を振りまくハイスペックそうなイケメン。
あの人が来ると実は御曹司で、実は許されない女性を愛していて…と色んな妄想をかき立てられ、いい作品の刺激となった。
次の作品は6角関係くらいで書こう。
「椿さん、あの超絶イケメン、最近来ないですね?」
「超絶…?」
「よくうちに来るスーツの。」
「あぁ、成康さん?」
名前を言ったのがまずいと思ったのか、椿さんは口を手で押さえた。
「はい。安心してください。名前は忘れます。」
「…あっ、いやいいんだ。名前なんて注文票にも書いているし。あっ…最近来ない理由ね!お盆でご実家に帰ってるんだよ。」
「へぇー、てか椿さん、そんな話もするんですね。仲良いですね、お客様なのに。」
なんの気なく言ったが、椿さんは持っていた栄養補助食品を床にバラバラと落とした。
「椿さん!?」
ハッとしたように椿さんはガ バタバタとテーブルの下に潜り込んだ。
「大丈夫ですか?」
私が屈もうとすると腹がつっかえ上手くいかなく、すぐに諦めた。
「…おかしいかな?お客様と仲良いの?」
テーブルの下から弱々しい声が聞こえた。
何だ急にと思ったが、あまりにも声が弱々しくて、私は真剣に考えた。
「うーん。別にいいと思いますよ。嫌なお客様も良いお客様も、人との出会いなんて、ある意味、全て運命ですから。」
我ながらかっこいいことを言えた。メモだな。
「そっか…運命か…」
神妙な声だけがスタッフルームに広がった。
ガチャリ
「お疲れ様です。」
スタッフルームのドアが開き、首を屈めて男性が入ってきた。
「あっ、上村さん、早いですね。」
「上村!?」
ガツンとテーブルで頭を打ち大きな音がした。
上村さんは恐い顔してテーブルを覗き込んだ。
「なにしてんですか!?椿さん!」
「いや…昼ごはんが…」
「ん?そんなお菓子みたいなの食べてるんですか!?」
「カロリーはあるし、バランスも…」
「アホですか、あんたは!夜まで勤務でしょう!?」
「バ、バナナあるよ…」
「アホですか!?しかもロッカーにこの時間まで入れてるバナナですか?この蒸し暑い中。」
「……でも昼からはエアコン入ってたし。」
テーブルの下の会話は上村さんが立ち上がって終了した。
「俺が何か買ってきますから、まだ表には出ないで下さいよ。牟田さん、見張っていて下さい。ちょっと行ってきます。」
上村さんはそう言い残し、颯爽とまた入ってきたドアから出て行った。
しばらくして、ボロボロになった栄養補助食品を手にした椿さんが立ち上がった。
しゅんとする椿さんは本当に弱々しくて、女の私でも守りたくなった。
「別に…いいのに。。」
椿さんが呟いたので、私は口を開いた。
「上村さんの気持ち、分かります。」
「ん?」
「なんか守りたくなるよな、構いたくなるような、椿さんは可愛すぎます。」
「はぁ!?」
椿さんは本気で嫌そうな顔をしたが、それも可愛い。
「椿さんはうんと年上の熟女とかに飼われて欲しい。」
うっかり妄想吐息を吐くと椿さんはオロッとしていた。
「飼われる…?」
「椿さん、彼女います?」
つい質問してしまった。
「いや…彼女は…」
困った顔をされるといじめたくなる。私はちょっと突っ込みたくなった。
「好きな人は?」
「それは…」
恥ずかしそうにモジモジした姿もgood!
「じゃあさっさと告白して、家に飼われて下さいね。」
「飼わるって…」
「同棲ですよ!同棲!椿さんは同棲似合います。」
「似合う似合わないないと思うけど…」
椿さんがかぁっと白い肌を紅く染めると萌えはMAXとなる。
「この職業は中々休み合わないですから、手っ取り早く同棲しちゃって下さい。んで、私に同棲生活を…」
椿さんは真っ赤な顔で何かを考えている。
「頑張って下さい!」
私はロッカーをパタリと閉めた。
「あ、ありがとう。。」
「椿さん、これ食って下さい。」
私は鞄に常備している細長いパンを椿さんに渡した。
「いいの?あ、ありがとう。」
「いえ、お疲れ様です。」
「お疲れ様。」
入れ違いに息を切らした上村さんが入ってきて、椿さんにでっかい袋を渡していた。
あっ、好きな人の情報は後日聞こう。
私のメモは着々良い感じで埋まりそうだ。
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