アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
その人の気持ちを思う時
-
「く、黒田さ…」
勢いで店に入ってしまった。
店に入るとすぐに黒田の後ろ姿がわかった。
黒田は成康に背を向けて、何やら話をしているようだっが、相手は黒田に隠れて見えなかった。
「……」
(このままお店を出るか、それとも…)
成康が後ろに一歩下がった時、黒田が誰かを探すように顔を振った。
「あっ!」
成康は一瞬、苦虫を噛むように顔を歪めた。
「いたいた。何してたんだよ、加藤ー。」
向かってくる黒田の後ろにちょこんとして、目を見開いている雄大がいた。
「何だよー、お前どこ行ってたんだよー。」
「ちょっと…お手洗いに…」
黒田と一緒に一歩遅れて、雄大が付いてきていた。
薄い黄色の長袖シャツには小さな星が散りばめられていて、象牙色のチノパンは少しぶかぶかで雄大の幼さを際立たせていた。
「お疲れ様です。」
大きな目を瞬かせながら、ふっくらとした唇が迷いながら、開かれた。
(可愛い…)
色白の肌にポツンと顎ニキビが出来ているのも可愛かった。
「加藤、こいつ今週の金曜日、給料日だってよ!奢ってもらおうぜ!」
「いや、黒田さん達みたいに出ないですよ!?無理です!」
「俺の給料はほぼパチンコと吞みで消えるからないよ?」
「…それ無いわけじゃなくて…わっ!」
黒田が雄大に飛びついた。
それを見ただけで、心が騒ついた。
「大人はねー色々金がかかるんだよー。」
「ぼ、僕も大人です…」
「あれ?15歳じゃなかったかな?」
「違います!もうすぐ23ですし!」
成康は「えっ?」と声を上げた。
「あれ?もうすぐ誕生日?」
黒田は雄大から離れながら、首を捻った。
「はい。」
雄大は恥ずかしそうにちらりと成康を上目遣いで見て、すぐに目を離した。
その仕草に成康はドキリとした。
(そうだ…誕生日も知らなかったんだな…俺…)
「来週…です。。」
「来週のいつだ?盛大にお祝いしてやろう!!」
「いえ、だ、大丈夫です!」
雄大は黒田に両手を上げ、ちらりと不安げに成康を見た。
成康はその目に自然と頬が緩んだ。
「何だよー、そっかー、俺は邪魔者ねー。じゃあ俺は帰るぜー。じゃぁなー、加藤、少年ー。」
黒田は唇を尖らせながら、頭の後ろで手を組んで、店から出て行った。
その時に限って、お客の出入りが止まっていた。
雄大は何か言葉を探しているのか、目をキョロキョロさせて、悩んでいるようだった。
「…誕生日、いつなの?」
成康が声を掛けると、パアッと顔を輝かせ、澄んだ目で見上げてきた。
「今度の日曜日です!」
「日曜日…か……」
(職場の人がイベント出るから、見に来てくれって言われてたな…)
「いや!別に大した事じゃないですよ!僕の誕生日なんて!大体、僕も仕事だし!今のは聞かなかったことに!」
必死な様子で手を振る雄大に成康はゆるゆると頬を緩めた。
(イベントは断ろう。あとで動画でも見せてもおう。)
「ニギビ出来てるね。」
雄大はニキビを隠すように俯いた。
「はい。今、母さんが旅行中で、カップラーメンとかハンバーガーとか食べてたんで。。」
「……」
成康は雄大の顎を持ち上げた。
びっくりした茶色の瞳にバサバサと睫毛が瞬いた。
「思われニキビだね。」
「えっ?」
まだ口元に傷が残っている。
その傷を見るとまたズンとした重みを感じ、成康はパッと手を離した。
雄大が不安げに口を開いた。
「成康さん….この間は…」
「椿さん!!」
彼の声はよく通る。
だから、つい声のする方へ顔を向けてしまう。
店の奥のドアから、ズンズンと上村君が歩いてくる。
「椿さん、ちょっといいですか?」
上村君は遠慮なしに成康に敵意をむき出しにした目を向け、雄大の手を取った。
「う、上村君….?」
雄大も迷いながら、その行動力に抗えないようだ。
上村君の気持ちの強さ、雄大の迷い、それを見せつけられると、すでに負けてしまっていると逃げ出したくなった。
心のどこかで、ジタバタしたって、恥をかくだけだと思ってる。
「雄大君。」
成康はにっこりと笑って、雄大に持っていた化粧水の入った紙袋を差し出した。
「先に誕生日プレゼントって言うか、これ、渡しとくね。」
「??」
「誕生日はお友達と楽しくね。」
雄大は瞳を大きく開き、シュンと肩を落とした。
「あ、ありがとう….ございます…」
華奢な指が成康の手に触れた。
「行きましょう、椿さん。」
手を引かれて歩く雄大は、上村君に守られるように奥へと消えていった。
諦めさせようと小細工しても諦めなかった上村君。
その熱い想いにすぐに心が折れて、あきらめようとしている自分。
情けないと思いながらも、それ程しか自分は雄大を想っていなかったと納得させようとする自分が車の窓に映っていた。
(俺と”付き合ってる”という設定があるから、彼は俺を好きだと言ってくれてるのかもしれない…それを解消すれば…)
ガンッ!!
ハンドルを強く叩くと自分の手が痛かった。
「ってぇ…」
夜の道に車のヘッドライトは、なかなか先を映し出してはくれなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
94 / 147